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異世界育児  作者: 葉山 友貴
第二章 魔王対決編
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69話 風ノ眷属


「我が名は、ハルピュイア!いざ、尋常に勝負!」


 ハルピュイアはそう口上を述べた後、空中へと飛び立った。

 レイテに目配せし、魔法の準備に入った彼女を守るように陣形を組む。


 先手必勝。


「風魔法『風の刃(ウィンドカッター)』」


 レイテの手から不可視の刃が放たれる。


「脆弱な風だ。現代の民は弱くなったのう」


ーーフンッ!


 大翼を大きく羽ばたかせると、レイテの魔法はかき消された。


「なに!?」「そんな!?」


 僕を除く三人は驚きの声を上げた。なぜ僕が冷静だったかというと、飛ばす魔法があるなら当然防ぐ魔法もあるだろうと予想していたからだ。

 他の三人は、魔法が防がれるとは思っていなかったようだ。

 魔法とはそれだけで戦況をひっくり返すような強力な手段。ハルピュイアが強者であろうと、何らかの傷を負わせられると思っていたらしい。



「みんな、落ち着いて。

 僕は分析学習(アナライズラーニング)で見ていたんだけど、彼は同じ強さの風を当てて相殺していた。つまり、当たったらそれなりに痛いんだよ」


「…ほう。お主が今代の勇者か。いい目をしているな」


 ハルピュイアは目を細め、僕を興味深そうに眺める。


「では、次はこちらの番だ。


 風魔法『暴風(ストーム)』」


 翼を広げ、言霊を紡ぐ。

 発現するは、嵐の世界。

 この世界で自由を許されるのはハルピュイアただ一人。


「魔法!?この魔素量は危険です!!」


 レイテが叫ぶ。

 次の瞬間、突風が僕達を襲った。全身を使って踏ん張らなければ、体ごと吹き飛ばされそうだ。

 無作為に方向を変える突風は、まるで見えない壁に何度も叩きつけられているようだ。


「か、風魔法『風の(ウィンド)守り(プロテクション)』」


 体の周りを優しい風が包む、安心感がある。

 レイテのおかけで、いくらか風の勢いが和らいだ。動きづらいが、さっきよりはだいぶマシだ。


「私の魔法では、風を完全に無効化することはできませんし、長くは持ちません…」


「十分だよ、ありがとう。いくぞ!」

「「はっ!」」


 タイミングを図り、僕、カタリナ、ミハエルの三人は同時に走り出した。

 先頭はミハエルだ。距離を詰めたところで敵に背を向け、しゃがみ込む。

 そこへカタリナが走り込み、ミハエルを踏み台に大きくジャンプする。

 一直線に目標まで飛ぶ。


「はぁぁああああああ!!」


 全身を使い、剣を振り下ろした。



ーーガキンッ


 剣はハルピュイアに触れることなく、硬質な何かに弾かれた。


「な!?」

「フン!」


 全く歯が立たないことが想定外だったのだろう。カタリナ展開に空中で体勢を立て直すことが出来ず、反応が遅れた。

 無防備な脇腹を蹴りつけられる。


「グフッ!!」


 怪物の脚力に、風の力が乗った一蹴。


 撃墜。


 そして、その勢いのまま凄まじい速さで地面を転がる。


「カタリナ!!」


「なんの、これしき」


 よかった生きてる。

 フラフラになりながらも何とか立ち上がった。レイテの治療を受けるために一時戦線を離脱。



 次は、僕だ。

 ミハエル製ジャンプ台を使い、勢いよく飛び出す。

 カタリナに比べ、ハルピュイアとの間を空けた。攻撃に備えるためだ。


 体を捻りながら繰り出した渾身の一撃は、突き。

 ハルピュイアの周りには、攻撃を弾く風が吹いている。その風との接地面を少しでも無くすための突きだ。


「クッ!」


ーーガガ、ガキン


 剣が半分ほど埋まったが突き破ることなく、カタリナと同じように風に弾かれた。


「何度やっても同じことよ。生半可な攻撃では、我が絶対防御は突破できぬ」


 返す刀で、鋭い蹴りがやってきた。

 剣を引き戻し、腹で受けながら一回転。衝撃を殺し切った。

 攻撃を防がれたにもかかわらず、こちらに決め手がないと踏んだハルピュイアは余裕顔だ。




 魔法はイメージだという。

 イメージを言霊に乗せ、魔素を消費して発現する。

 初めて魔法を見たときから構想はあった。


 それを今、試す。


 風を矢に見立てて飛ばす魔法を見た。

 本来は放った矢を安定させるために細長い形状をしている。外気の影響を受けない魔法において、その形状を維持する必要はない。しかし、実物が存在すればイメージは容易だ、いや固定されると言い換えてもいい。

 僕は技術が発達した現代からきた。だから、それができる。



「…風魔法『風の弾丸(ウィンドバレット)』!!」


 人差し指の銃口から放たれたのは、一発の小さな弾丸。当たっても致命傷にはならないかもしれない。

 ただし、貫通力がある。何より速い。


「グッ!」


 風の防壁を突破し、ハルピュイアの肩口に命中した。


「そんなものか!」


 消費が少ないから何度でも撃てる。


「まだまだ!!

 風魔法『風の機関銃(ウィンドマシンガン)』!」


 両の人差し指から何発もの銃弾を浴びせた。


「何だと!?グググ」


 ハルピュイアは広げていた翼を折り畳み、盾のように構えた。

 その直後、銃弾の嵐が襲う。


 至近距離からの連弾。

 翼の隙間を縫って、これでもかと打ち込んだ。


「ハァハァ、耐え切ったぞ!」


「痩せ我慢だね」


 翼は所々抜け落ち、痛々しい姿になっていた。瞳に宿る闘争心は折れていないように感じた。


解放(リリース)


 ハルピュイアは風の防壁を解除する。防御に回していたリソースを攻撃に回すつもりだろう。

 レイテの治療で復帰したカタリナも合流した。ハルピュイアにさっきまでの驕りはない。

 ここからが本番だ。



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