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異世界育児  作者: 葉山 友貴
第一章 育児奮闘・開拓編
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06話 旅立

 異世界生活 13日目開始。


 カザンは辺境の村ではそこそこの地位にあるようだ。

 召喚者はそこまで珍しくないらしい。

 目標が二つできた。


 カザンの足のケガが良くなってきた。村への道中も問題ないだろう。

 移住の件は、まだ言い出せていない。


「そろそろ村に帰るぞ。世話になったな。

 そうだ、お前も来るだろ?

 こんなに小さくてかわいい、茜ちゃんがいるんだ。森での生活は危険だし、不便だろう?もちろん無理にとは言わないが…」


 当たり前だろという態度で、カザンは右手差し出した。


「ア、アニキ…いいのか?」


「…お前の兄貴になった覚えはない。

 お前はなっちゃいないが、良いモノ(さいのう)を持っていそうだ。鍛えてやるから覚悟しろ」


 俺たちは熱い握手を交わした後、顔を見合わせて笑いあった。





 今日は旅立ちの日だ。


 必要と思われるものを一通りまとめてみた。

 水、食料、ドックフード、粉ミルク缶、オムツ、お尻拭き、着替え、バット、棍棒などなど。

 カザンから荷物を減らすように指導が入る。

 泣く泣くオムツを減らす。こいつが一番かさばるからな。


 他にもベビーベッド、ベビーカー、バウンサーと呼ばれる赤ちゃんを置くとゆらゆら揺れる便利椅子などもあったが、これも却下された。

 バウンサーは最後まで粘ったが、なかなかの大きさなのでダメだった。茜はこれに乗せると泣き止むことが多いため、重宝していたのだ。ベビーカーは森の中をどうやって引いていくんだと言われ納得した。

 歩いて二日の距離と言っていたし、落ち着いたら取りにこよう。来れるよな?

 今度こそ準備は整った。抱っこ紐で茜を前抱っこし、背中にリュックを背負った。山歩き用のブーツに、撥水加工のジャンパー。カザンも多少持ってくれているが、動きに支障が出るため必要最低限だ。ウルフも忘れずに連れて行く。両手をあけるためリードはなしだ。



 外に出た。


 自宅を見上げると、日光が眩しい。

 この家を買ったときは、まさかこんな事になるなんて思わなかったな。彩夏と部屋の間取りについて、あーでもない、こーでもないと何度も話し合ったものだ。彩夏のキッチンへの並々ならぬ拘りが詰まった自慢の家だった。


 感慨深い思いが込み上げてくる。


 今までお世話になりました。


 目を瞑り、頭を下げた。


「もういいぞ。出発しよう」


 もう振り返らない。前だけ見ていこう


 カザンは、一連の流れを何も言わず見守っていた。

 守を見守る暖かいその目は、まるで父親のようだった。



「道中の魔物は俺が相手する。おかげさまで足もだいぶ動くようになったしな。守は、茜ちゃんを死んでも守れ。 絶対に手を出すな」


 そう言うと、カザンは街道を進みながら先導してくれた。やだ、何このイケメン。いやイケおじ。

 カザンに続き、茜を抱っこした俺と、その隣をウルフがトボトボと歩く。

 カザンとウルフが時折り立ち止まり、同じ方向を見る場面があった。


「どうしたんだ?」


 カザンに尋ねると、声を抑えるように指示を出しながら教えてくれた。


「まだ遠いが、魔物がいる。ウルフも気づいたみたいだな。こいつは優秀な斥候になれるぞ」


 この距離で分かるのか?


 驚愕のあまり言葉を失っていると、得意げなウルフがこっちを見ている。


「お前には教えてなかったな。 これも才能(タレント)のおかけだ。

 俺は狩人(かりうど)のタレントを持っている」


 これで合点がいった。『タレント』というのか。

 俺に攻撃がなかなか効かないのもタレントのおかげだろう。タレントは誰もが一つは持っているらしい。

 となると、茜やウルフも持っているのか?さすがに動物にはないか。

 この先、成長するにつれ、分かるものなのかな?


 ちなみに、狩人のタレントは『気配察知』『遠距離攻撃補正』の複合能力を持つらしい。

 まさに狩人にうってつけだ。カザン優秀過ぎないか?


「なぁ、俺のタレントを調べることは出来ないのか?」


「街の教会に行けば、調べることも出来るが…おすすめはしないな」


 カザン曰く、調べるには高額なお布施が必要らしい。

 そんなことをしなくても、訓練で大体の能力は把握できるから、利用する者はほとんどいないそうだ。

 さらに、十歳の誕生日を迎えると、全員が無料で調べてもらえるらしく、これも利用者が少ない理由となっている。


 茜は、成長すれば教会で調べて貰えると分かっただけでよしとしよう。

 ウルフはどうなんだろう。動物にもタレントは宿るのか?余剰金が出来たら教会で調べてもらうか。



 自宅を出発してから、一日目の夜。

 この日は夜営だ。


「お、あったあった」


 カザンはお目当の木を見つけると、テキパキとテントの準備をしている。

 木の幹を利用してテントを張るつもりらしい。器用なやつだ。


 俺は焚き火の番だ。

 火を目掛けて魔物に襲われた時のために、火はテントからは離れて使うそうだ。

 それなら消した方がいいんじゃないかと聞いたが、真っ暗な真夜中に襲われたら何も出来ない。

 逃げる時間を稼ぐにしても、多少の光量はあった方がいいそうだ。

 本当に勉強になる。カザンがいなかったら、旅も出来なかったことだろう。


 簡単な夕食後、茜にミルクをあげながらカザンに気になっていたことを質問した。

 ミルクをあげてる間、茜とバッチリ目が合う。かわいい、天使のようだ。いや、天使そのものだ。


「なぁ、この世界の脅威とは、魔物なのか? 国の戦争とかはないのか?」


 前の世界では、何度か世界規模の大戦があった。この世界ではどうだろう。


「身近な脅威としては魔物で間違いない。 昔は知らんが、最近は国との戦争はないな。 それどころではないからな。

 今、この国は『魔王』と、戦争をしているんだ」


 なんですと!?

 魔王がいるのか?!


「とは言っても、これから行く辺境の村にはほとんど影響はいけどな」


 曰く、国王がやり手で国の精鋭軍で魔王軍を抑えているらしい。

 魔王軍が攻めてきているものの、一進一退を繰り返し、ここ最近は膠着状態が続いているのだそうだ。

 魔王を倒すのは、『勇者』の仕事なんじゃないか?


 これも聞いてみた。

 勇者はまだ現れてないため、国王が頑張っているのだそうだ。やっぱりいるんだな、勇者。早く現れて魔王を倒してくれ。


 まさか…この時期に俺が召喚された理由、タイミングが良すぎる。

 もしかして、俺がその勇者なんじゃないか?

 魔王を倒すために国王が召喚したのではないだろうか?

 美女とハーレムパーティを組んで、魔王を倒すのか…いや俺には、彩夏に(みさお)を立てて…。


 ぶつぶつ呟きながら、勇者故の苦悩をしていると、カザンから心ない言葉が投げられる。


「安心しろ、勇者は圧倒的な異次元の存在だ。 少なくともワイルドボアに震えながら立ち向かってる奴ではないぞ。そもそも勇者が子持ちな訳ないだろう。お前のことは俺は嫌いではないがな…」


 カザンは笑いながら言った。最後の言葉はよく聞こえなかったが。


 それもそうか。

 先ほどまでの世界を背負う使命感が一瞬で無くなる。

 俺には茜を立派に育て上げるという大事な使命があったな。



 夜が明け、その後の旅は順調だった。

 二日かかるところを三日かけて進み、村に到着した。

 茜に配慮してくれたんだろう。悔しいがどこまでも、イケおじだ。



異世界日記 15日目

この世界には、タレントがあるらしい。俺にも秘められた力があったのだ…フフフ

魔王に立ち向かう勇者にはなれなかったが、茜にとって尊敬される父親でありたいものだ


 投稿時間は7時に統一しました。

 スマホでぽちぽち打ってるのですが、なかなか難しいですね。

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