表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界育児  作者: 葉山 友貴
第二章 魔王対決編
68/91

67話 風ノ洞窟


 僕達はトラキア洞窟に足を踏み入れた。


 風が洞窟内に反響し、怪物の唸り声のような音がする。洞窟内には苔が淡く光っており、その光源を頼りに奥へ進む。


「トラキア洞窟には魔物が出現します。

 風の祭壇まではコボルトなどの比較的弱い魔物しか出ませんが、その奥には強力な魔物が生息していると聞いています」


 レイテは先導しながら、説明してくれている。

 コボルトは、初めて戦う魔物だ。


「コボルトは洞窟内に好んで住むゴブリンに似た魔物ですね、私達であれば問題にもなりませんよ」


 コボルトの姿に考えを巡らせていると、ミハエルから捕捉が入った。ゴブリンと似ているなら問題ないと思う。

 僕はレイテに気になったことを聞いてみた。


「ミハエルありがとう。僕はこの世界に来たばかりだから、知識に疎いんだ。

 そういえば、レイテは戦えるの?」


「そうなんですね!これからはもっと丁寧に説明しますね!

 私は風の巫女です。巫女は催事の際。風の祭壇まで祈りを捧げに行きます。道中出現する魔物を倒しながら進むんです。

 私に風魔法を使わせたら、なかなかですよ?」


 魔法…!


 城にいる間に知識として勉強はしたが、ちゃんとした魔法はまだ見たことがない。パーティを組めばもしかして僕にも使えるのかな。


「頼りにしてるよ。それなら、この洞窟を攻略する間、パーティに入ってくれないかな?試したいことがあるんだ」


「はい、喜んで」


 レイテがパーティに加わった。


 これで僕の能力なら魔法が使えるはずだ。

 僕は目を瞑り、呼吸を整えた。

 目を開け右手突き出し、こう叫んだ。


「いでよ、風魔法!!」


 洞窟内に声だけが反響した。

 …何も起きない。

 恥ずかしさだけが込み上げる。



ーーギャアギャ


 そればかりか声に釣られて、コボルトとコウモリがこちらに近寄ってきた。

 踏んだり蹴ったりだ。


「…風魔法『風の矢(ウィンドアロー)』」


 レイテの掌から不可視の力の塊が発出された、と思う。風の矢は魔物に命中し、断末魔と共に魔物は動きを止めた。


「すごい…。僕にもに使えるはずなんだけど、やり方を教えて欲しい」


「凄いのは勇者様です。それが勇者様の能力なのですね?

 私は風魔法でよければ喜んで。

 まず魔法を放つ前に、体の中の魔素を感じ、手に集めます。そして、一気に掌から外に出すイメージで、『言霊』を唱えることで風魔法は発現します。集中力が最も重要です」


 風魔法の場合は飛ばす魔法が多いらしい。一方で土魔法や木魔法は壁や生やすといった使い方もあるそうだ。

 うーん、魔法は奥が深い。


 気を取り直して、もう一度、まずは魔素を感じるところから。

 ここまでは分かる、能力を発動する感覚に似ているからだ。この体内の魔素を手に集める感覚をまずは掴むんだ。


 四苦八苦すること、小一時間。


「勇者様!すごいです!手に集まっています!普通はこの感覚を掴むだけでも一年は練習するんですよ!」


「気に抜くと、せっかく集めた魔素が散らばってしまうね」


 コツが掴めたところで後は実践あるのみだ。魔法は能力発動に比べて難しいけど、その分強力な武器になるはずだ。戦闘中に試していこう。

 暇を持て余し模擬戦を始めていたカタリナ、ミハエルに声をかけ、探索を再開する。





 やはり実践では練習のように上手くいかない。コボルトやコウモリのような弱い魔物でさえ、勢いよく迫ってくると焦りが生じてしまう。


 だから、僕は、目を閉じた。


 カタリナとミハエルとの付き合いは短いが、二人のことは信頼している。もちろん、その強さも。


 だから僕は、魔法を撃てる。


「…風魔法『風の矢(ウィンドアロー)』!!」


 レイテのような単体を対象にした魔法の規模とは異なる。

 それはまるで城攻めを目的としたバリスタのような攻城兵器だ。周囲の魔物を巻き込み、それでも威力が衰えずひたすらに突き進む。

 洞窟の壁面まで到達すると、激しい音を立てて壁をえぐり、静けさがやってきた。その通り道に残されたのは激しく損傷した魔物の死骸だけだ。


「え、何この威力?!私の魔法と全然違う!!」


 興奮するレイテの声を聞きながら、僕は立つことが出来ず、思わず座り込んでしまった。

 お酒を飲んだことはないけど、二日酔いってこんな感じなんだろうな。視界がグルグルと回って気持ち悪い。


「ゆ、勇者様!?大変!」


「いけません!少々値は張りますが、背に腹は変えられません、これを。魔素回復薬です」


 ミハエルは自身のポーチから小瓶に入った紫色の薬を取り出した。


「それは!お爺ちゃんの給料、一月分で買える薬…」


 高価な薬なんだな。レイテが羨ましいそうに見ている。よし、飲むぞ。

 でも、すごく嫌な臭いする。少しだけ味見程度に飲んでみた。


「苦い!これ凄くまずいよ…」


「我慢してください!一気に魔素を使って空っぽの状態なんですから、ある程度補充しないとまともに動けませんよ」


 どうしても飲まないと先に進めないのか。

 ええい、僕は一気に小瓶の薬を飲み干した。


「うへー」


 苦くて、すっぱくて、生臭い。

 想像もしようがない味だ…。今度から魔法を使う時は気をつけよう。魔素の制御がうまく出来ないと、またありったけの魔素を使ってしまいそう。


 気を取り直した僕達は、奥へと進んだ。レイテが催事で使っていた祭壇まであと少しだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ