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異世界育児  作者: 葉山 友貴
第二章 魔王対決編
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65話 風ノ町(一)


「風の町アリオリアへようこそ、勇者様」


 門番の導きで、門を潜ると心地よい風が頬を撫でた。

 次の瞬間、目の前には幻想的な光景が広がっていた。

 縁日で壁一面に並ぶ色とりどりの風車(かざぐるま)のように、各家の屋根には様々な趣向を凝らした風車(ふうしゃ)が備え付けられていた。きっと風の力を生活に取り入れているんだろう。

 でも、所々の風車が止まっているのは気のせいかな。


「まずは町長のところへ挨拶に行きましょう」


 ミハエル達は目を輝かせてなかなか動こうとしない僕を、引きずるように町長の館へと連れて行った。




「もう!分からず屋!

 降神祭がどれだけ大事なお祭りか分からないの!?」


 館の前で、少女が大声で叫んでいた。警備の男達から強制的に締め出されたようだ。


「何かトラブルかな?」


「…厄介ごとに首を突っ込まないようにしましょうね」


 ミハエルがコソッと耳打ちしてきた。


「でも困っている人からいたら見過ごせないよ」

「悪者がいたら私がやっつけますよ!」


 カタリナは拳を前に突き出してそう言った。根はいい子なんだけど、相変わらずの脳筋思考だ。


 少女が、こちらに気づいた。僕の盾に描かれている王家の紋章を凝視しているみたいだ。視線を感じる。


「あなた、勇者様、なの…?」


 帯状の白いヒラヒラとした飾りが特徴の服だ。その少女は白い肌に、活発そうな顔立ち、そして何より強い意志を感じる大きな瞳をしていた。


「いかにも!私達が勇者一行である!」


 なぜかカタリナが、代わりに答えた。

 本人はウケ狙いでやってるのか疑問だけど、滑っているのは確かだ。


「そう…。

 勇者様!少し時間があるかしら。私の家でお話を聞いてくださらない!?」


 ち、近い。

 僕の手を握り、その大きな瞳で覗き込まれてしまった。


「す、少しなら」

「やった!ありがとう!私は、レイテ。

 こっちよ、着いてきて!」


 仕方ないよね、人助けだし。

 手を繋いだままレイテの家まで案内された。女の子の手って柔らかいんだ。免疫がない僕にすると、心臓の音がうるさかった。

 カタリナとミハエルからジトッとした視線を背中に感じていると、レイテの家に着いた。


 立派な家だ。ここが小さな村なら村長の家と紹介されても違和感がない。

 促されてるままに中へと入る。


「そちらさんは…?」


 寝具に横にっていた初老の男性が体を起こす。


「お爺ちゃん、寝てて!この人は、なんと勇者様一行だよ。今のこの町の現状を知ってもらおうと着いてきてもらったの!」


「おお、勇者様とは…。これもゼフィール様の導き、感謝いたします」


 手を合わせて祈りの姿勢をとる。幾度となく繰り返された一連の所作は流麗で美しい。

 この人からは、オーラというか厚みを感じる。只者ではない。


「申し遅れた、ワシはクサン。そこの娘の祖父じゃ。こんな格好のままで申し訳ないですじゃ」


 軽く会釈をすると、クサンはこの町の現状を話し始めた。


「私達の町アリオリアは昔から、風の神ゼフィール様と共にあった。住民はゼフィール様に祈りを、供物を捧げ、風の恩恵を授かってここまで発展してきたのじゃ。

 町の風は浴びましたか?どうじゃ、弱々しい風でしょう?年々、弱くなっているのですじゃ。このままでは風が止んでしまう」


 確かに心地よい風ではあったが、風の町と呼ぶには少し大袈裟だなとは思っていた。


「確かに、止まっている風車もありましたね」


「そうなんです!その事を町長は何も分かってないんです!費用が〜といって、降神祭を辞めてしまったり、供物を捧げなくなってしまったり、いつかゼフィール様の怒りに触れそうで、私は怖い…」


 レイテはそう言うと視線を落とす。


「全部、ワシのせいなんじゃ。

 ワシらは代々、催事を司ってきた巫女一族の家系じゃ。この町は風の力に頼って発展したから、風の神様の存在を感じることができる催事は大事にされてきたんじゃ。

 町長はワシ達に権力、つまり力が集中することを恐れた。その事に気づかずに、のうのうと暮らしてきたワシに責任はありますじゃ」


 クサンは今にも泣き出しそうだった。何度、後悔したことだろうか。年月と共に皺が刻まれた顔がクシャクシャになっていった。


「これから町長に会いに行く予定です。何か理由があるのかもしれない。とりあえず話を聞いてみます。

 僕に出来ることがあれば協力させていただきたい」


 お茶のお礼を言い、僕達は席を立った。


「勇者様…、ありがとうございます。

 あ、待って!そこまで送るから」


 お礼を言ったレイテと一緒に外へ出たその時だった。




ーー風が止んだ


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