63話 旅立
僕は旅に出ることにした。強力な仲間を見つけるためだ。僕の能力は一人では意味をなさないが、強い仲間がいればそれだけ指数的に強くなれる。
旅の準備ができるまで、この世界の勉強と基礎訓練に明け暮れた。
たまの息抜きに城を抜け出して、城下町を散策するのは楽しかった。カタリナとミハエルがついて来て、案内してくれた。カタリナが大声で笑うから、巡回の兵士に見つかりそうになったことは一度や二度じゃない。
「…行った?」
声を潜めながら、カタリナはそう僕達二人に問いかける。
「通り過ぎて行ったよ。見つかったら怒られるんだから、静かにしてって何度も言ってるでしょ!」
「アハハ、ごめんごめん!この串があまりにもおいしくてさぁ」
よだれを垂らしながら、両手に持った肉串を振り回している。
ついさっき露天を冷やかしながら歩いていたら、出店の親父から声をかけられた。給料が出たばかりのカタリナが二つ返事で、大量に購入したばかりだった。
「勇者様、カタリナは三歩歩けば忘れてしまいます。怒るだけ、体力の無駄ですよ」
ミハエルはやれやれといった仕草でそう言った。カタリナはもう昔からこうなんだろう。苦労したんだろうな、もはや達観した僧侶のようだ。
「そろそろ戻ろう。バレて外出禁止にでもなったら大変だ」
「そうですね、もう十分楽しみましたし」
「えー、もつちょっと〜」
二人でカタリナにチョップを入れ、その日は引きずりながら城へと帰還した。
そういえば、僕の三つ目の能力、『帰還』は、色々と試したが結局発動しなかった。発動条件が限定されているのかもしれない、と偉い人は言っていた。一つ目、二つ目で十分すぎるほど強力な能力だったので、魔王討伐に問題はないとの見方だった。
出発の式典の準備は整ったようなので、旅立ちの日は近い。目立つのは苦手なんだけど、王のパフォーマンス的に大事なんだろうと、渋々ながら受けれた。
※
今日は出発の日だ。
旅の随行者は、カタリナとミハエルだ。
王から好きな者を選べと言われたからこの二人にお願いした。この世界に来てから初めて気心知った仲になったと思う。
訓練学校を卒業したばかりの二人にとっては大出世は間違いない。手放しで喜んでいた。
豪華な馬車に揺られ、大通りを凱旋する。僕の両脇にはカタリナとミハエルが座っていた。カタリナはぎこちない笑顔で、ミハエルは優雅に手を振っている。
「キャー!勇者様よ!こっちむいてー!」
黄色い声が飛ぶ。僕もカタリナと同じで引きつった笑顔で対応する。
「勇者様、表情が硬いですよ?勇者は希望の象徴なのですから、今後こういう機会も増えましょう。早く慣れた方がいいですよ」
「そう言ったって、こっちは普通の高校生なんだから…」
「そうですねぇ、好きなものに囲まれていると想像するといいですよ。私の場合はたくさんの素敵な女性に…」
どこか遠い世界にいったミハエルを放置して実践してみよう。
「子供は大好きたがら、元気いっぱいな子供達を思い浮かべて…、何となく平気になってきた」
子供がはしゃいでいる顔に見える。手を振ると、さらに歓声が大きくなる。
こうして、僕達は無事凱旋パレードを終えると王都を出発した。
装飾が施された豪華な馬車は旅には適さない。道中は魔物や盗賊が出没する。そんな中を凱旋用の馬車でいったら要人が乗っていると主張しているかのようだ。
少数での旅は、徒歩と相場が決まっているらしい。頑丈な馬車と護衛を用意してくれたらいいのにと思ったが、王の前で口には出さなかった。
「ところで僕達はどこに向かえばいいの?」
暫く進んだところで肝心の目的地を知らないことを思い出した。執事に聞いたら、カタリナとミハエルに説明しましたから、と割愛されてしまった。なんだか王やその側近達からはぞんざいに扱われている気がする。
「??」
首を傾げたカタリナの顔にクエスチョンマークが浮かんでいる。何も知らない人が見れば、その可憐な仕草に心を奪われる人もいるかもしれないが、頭脳面で彼女に期待するのはやめよう。
「目的地は最西にある町になります。町の名は『ヤマト』。その昔、大和守という英雄が建設した町ということで有名です。
かつての守の仲間達が非常に強力だったと記録に残っています。
かの人魔大戦では、守は少数の仲間を率いて敵の懐中枢に潜入、首謀者を討伐したことで終戦しました」
さすがミハエルだ。事前情報としては完璧だ。ただ疑問が残る、そんな歴史に残る功績を残した人物がいれば、その人に魔王討伐を依頼すればいいのではないか。
「さすがミハエルだね。説明ありがとう、よく分かったよ。
でも、そんなにすごい人ならどうして、魔王討伐に向かわないのだろう?」
僕はミハエルに向けて疑問を口にした。
「それは…」
「殺されたからだよ!」
口籠るミハエルに代わり、カタリナがぶっきらぼうに答えてくれた。
「守さんは、私の命の恩人なの。それを魔王が…、私が兵士になったのも、守さんの仇を討つためなのよ」
そう語るカタリナの目には確かに復讐の炎が宿っていた。
惜しい人を亡くしたんだな。どんな人だったのだろうか、一度会ってみたかった。
それに守という名前、日本から僕と同じようにこちらの世界に来たのかな。
「大和さん、守さん、うん、なんだかしっくりくる。
その守さんは僕と同じように異世界から来た勇者だったの?」
「異世界の人でしたが、勇者ではなかったはずです。その辺の記録はなぜか見つかりませんでした、当時を知る人に尋ねても誰も教えてくれませんでしたし…」
十年くらい前なら何かしら残っていてもいいと思うけど、当時何があったんだろう。
「今、考えても仕方がない。その辺はヤマトに着いたら聞き込みしてみよう。
それよりも今は強い仲間を探すことが先決だよ」
僕達は、西へ進む。




