61話 勇者召喚
第二章開始です。
暫くは2日に1回のペースで投稿します。書き溜めが無くなったら、また不定期なります…!ごめんなさい!
王城、大広場。
フードを深く被った魔術師達が巨大な魔法陣を囲み、大規模な儀式が行われていた。
三日三晩にも及ぶ大規模召喚魔法。魔術師達は消耗品のように入れ替わり立ち代わり儀式に従事していた。
全方位に眩い光が解き放たれた。闇夜を光が満たしていく。その場にる者は、その光量にしばしの間、視力を失う。
「ここは…?」
気がつくと、魔法陣の中心に一人の少年が立っていた。
「おお、勇者よ。私が王だ。
そなたには長年に渡る我らが宿敵、魔王討伐を命じたい」
人垣が割れ、中から壮年と見られる男が現れた。王を名乗るその男は、初対面にもかかわらず僕に大変な仕事を押し付けたいようだ。
「えっと、まだ状況がよく分からないんですが…、ここはどこですか?」
「貴様!王の命令に答えぬか!?」
人丈にも渡る長槍を携え、屈強な兵士は叫ぶ。大勢の兵士が魔法陣を取り囲んでいる。心なしか緊張を肌で感じる。こんな年端もいかない僕に?なぜ?
槍の穂先が微かに揺れている。構えた手が震えてるようだ。大声は怯えをごまかすためか。そう言えば、槍を向けられているのに全く怖くない。
僕は己が本能に従い、兵士との距離を詰めようとするが、
「そう虐めるでない、詳しい話は城の中で話そうぞ。食事も用意しておる。のう、勇者よ」
「勇者?僕が?」
こうして、僕は異世界に召喚された。
ある思いを胸に抱いたまま城の中へと案内されていった。
※
城の中を歩いていると、王が急に振り返った。
「もう夜も遅い、明日にしよう。食事は後で部屋に運ばせる」
王はそう言うと、足早に去っていく。詳しい話が聞けると思ってついて来たのにお預けか。上手く、してやられたのかな。
残された僕は、執事の案内で寝室へと通された。ベッドと机があるだけの殺風景な部屋だ。窓はないが、寝るだけなら気にならない。逃げ出さないようにってことなのかな。
遅れてやってきたパンとスープを腹に入れ、すぐにベッドに入った。漠然と不安が頭を過ぎるが、色々なことが一気に起きたのだ。疲れていたのだろう、いつの間にか眠ってしまった。
ーーコン、コン
「失礼します、勇者様。お召し物をお持ちいたしました」
ノックの音で飛び起きた。
「…はい。どちら様でしょうか」
軽く会釈された後、メイド服の女性二人に囲まれ、されるがまま着替えさせられた。
「これは」
絵に描いたような勇者だ。
剣に盾、ブーツに鎖帷子。盾には見覚えのある紋章まで入っている。この城の至る所で見かける紋章だ。きっと王家のものなのだろう。
見た目だけは立派な勇者になった僕は、王と謁見するための大広間へと案内された。
執事に促され部屋へ入ると、王はすでに玉座に座っていた。
「おお、見違えたな。昨晩は眠れたかね?」
「はい、おかげさまで。ありがとうございました」
僕はお礼を言ってお辞儀をしたが、家臣達がピリついている。何か失礼があったかな。
一同を見渡すと、家臣団の中に周囲から浮いた異質な男がいた。
黒いスーツとネクタイに白いシャツというおおよそこの世界の一般的な服装からは程遠い格好だったからだ。切れ長の目に、青白い顔をした陰のある顔立ちがさらに異質な雰囲気を醸し出している。
「玄野が気になるか?」
僕の視線に気づいた王はそう言った。
「はい。あの方は、日本人ですよね?」
王が玄野へ発言を促す。
「私は、玄野、と申します。お察しの通り、日本から来ました。以前、会社員をしていた名残りでこのような格好をしております。
お困りごとがあれば、なんなりとご相談ください」
不思議な抑揚で話す人だ。
そして、どこか油断ならない、本心を、本質を隠しているような、そんな感覚を覚えた。
それでもこの世界で唯一の同郷だ、不安な気持ちでいっぱいだった僕は小さな違和感を心の隅に追いやり、この玄野を信用することにした。
「さて、改めて問おう。魔王討伐をやってくれるか?」
「分かりました。僕がここに呼ばれた理由なのでしょう。その代わり、一つお願いがあります」
「おお、引き受けてくれるか!
して願いとはなんじゃ?」
「僕は、ずっと弟を探しているんです。
前の世界では、考えられるところは探し尽しました。もうこの世界しかないんです。
…弟の情報が欲しいんです」
「ほう…見事な兄弟愛ではないか、いいだろう。すぐに手配させよう。玄野、この件はお前に任せた」
「はい、お任せを」
陽炎のように、いつの間にか王の隣にいた玄野は王命を承知すると、僕に一瞥してまた消えていった。品定めされたような視線だった、最後にニヤリと口角が上がったのは気のせいだっただろうか。
「では、早速お主には魔王討伐に向けて、準備してもらう」
王が手を叩くと、家臣や護衛の兵士達が僕を取り囲んだ。
そうして扉を開けて持つ兵士に見送られ、僕達勇者一行は城の外へと繰り出した。遠目からでも分かるくらい巨大な建物だ。どうやらここが目的地らしい。
僕は、流れに身を任せて勢いよく扉を開け放った。




