表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界育児  作者: 葉山 友貴
第一章 育児奮闘・開拓編
6/91

05話 療養

 異世界生活 10日目開始。


 ケガをしたカザンを自宅に連れ帰り、手当てすることになった。

 カザンは魔物の狩人らしい。

 今回、俺が紛らわしく魔物に擬態をしたため、調査にやってきたそうだ。


 道すがら聞いた話では、この森から街道沿いに二日ほど北上したところに村があるらしい。辺境の小さな村だ。

 カザンはその村の狩人指南役らしい。

 前任者が急に辞めたため、引退した身でありながら調査に引っ張りだされたそうだ。


 これはチャンスだ。節約してきた食料もいよいよ底が見えてきた。

 カザンのケガが良くなる前に、村に住めるよう協力する約束を取りつけるのだ。

 幸いなことに、村での立場は高いような雰囲気を醸し出している。

 恐らく狩人とは、単に魔物を倒すだけではなく、脅威を事前に察知するレーダーのような役割も担っているのだろう。


 魔物とは、脅威そのものだ。

 ワイルドボアのような魔物を誰でも倒せるとは思えない。そう考えると、狩人とは重要なポジションなのだろう。


 ただし、別の世界から来たことを素直に打ち明けるかが問題だ。

 この世界で転移が一般的でないと仮定すると、研究所なる施設に連行されるかもしれない。茜に酷いことをされると考えると、怖くてオムツの安心感が恋しくなる。

 それはさておき、カザンが信用に足る人物か、慎重に見極めなければならない。



 と、思っていたんだけど…。



「なんだ、この家は!? この道具はどうやって使うんだ? おい、今どうやって火を着けたんだ!?」


 今日、何度目になるか分からない、カザンから質問が飛ぶ。

 この家に来てからは、ガサゴソと勝手に家の物を漁っては少年のように目をキラキラさせながら、毎日質問してくる。

 ちなみに、足のケガは大したことなさそうだ。

 軽い捻挫だろう。湿布を貼っておいたから、数日で回復するだろう。


「うるさい、落ち着け! やっと寝たところなのに、茜が起きるだろ!」


「すまん。初めて見る物ばかりでな!」


「分かったから静かに…ああ、これはな」


 カザンに突っ込みを入れながら、気怠そうに何度目になるか分からない電化製品を説明する。

 俺は家電芸人か!

 分かりやすく説明してやる。営業スキルを無駄にしている気分だ。


 もう無理だな。隠し通せる気がしない。早めにゲロって楽になるか。


「なぁ、カザン。大事な話がある」


 と、神妙な顔で話しかける。博打を打つぞ。

 半と出るか、丁と出るか!


「実は、俺たち…。


 日本という、別の世界から来たんだ!」


 思わず目をつぶってしまうが、暫く待っても反応がない。恐る恐る目を開けると、カザンは炊飯器の蓋をパカパカ開けながら興味なさそうに答えた。


「なんだ、そんなことか。知ってるよ。 召喚者なんだろう?」


 なんですと?! もしかして、珍しくないのか? 他にもいっぱいいるのか?


「こんな辺境の地だ。 俺は初めて見たが、王都には召喚の魔法陣があるらしいし。王都の他にもあったんだろう。 家ごと召喚されるってのは聞いたことないが…」


 最後の方は小声になっていった。

 詳しく聞いてみると、召喚というものは才能のある者が複数人で行う大規模な儀式だそうだ。

 一度召喚を行うと、その者は二度とできないため、何度も気軽に行えるものではない。

 カザンもあまり詳しくなさそうではあったが、この世界の一般常識なのだろう。


 となると、俺たちは、()()、召喚されたのだろうか。謎は深まるばかりだ。


 それから、目標が出来た。


 当面の間は生活を優先し、元の世界に帰ることだ。


 日本にあまり未練はないが、この世界よりは安全だろう。心残りがあるとすれば、彩夏をきちんと弔ってやれてないことだ。

 とにかく希望が見えてきた。カザンには感謝だ。




「ふぎゃー、ふぎゃー」


 茜が呼んでいる。さっきミルクはあげたばかりだから、オムツかな?


「ほぉー、へぇー。 よく出来てるなぁ」


「うるさいぞ、カザン」


「だって、こんな小さいモフモフなのに、小便を随分と吸い込むじゃないか。 しかも、べびーべっと?が濡れてない。 これは貴重な物なのか?」


 気持ちは分かる。

 俺も初めて見たときは感心したものだ。


「これは、オムツといってな。人類の英知の結晶なのだよ…」


 オムツは見た目よりも遥かにおしっこを吸ってくれて、貫通しない。過信は良くないが、半日くらいは案外交換しなくても何とかなる。お肌がかぶれちゃうかもしれないから、そんなことはやらないけどな。


 余談だが、オムツには色々なメーカーがあり、それぞれ微妙に差別化を図っている。

 オーガニックな高級路線のものから、比較的リーズナブルな路線のものもある。子供によってメーカーが合う合わないがあるから、口コミを聞いては一通り試してみたな。

 また、月齢や体重に合わせたサイズ展開や、テープ式とパンツ式と分かれるため、ラインナップが膨大にある。

 彩夏の指令で、初めてオムツ売り場に向かった際はあまりの種類の多さに困惑したものだ。懐かしい記憶が蘇る。


 げ、うんち漏れだ!後で肌着を手洗いしないと…。って、電気がないから、洗濯機が使えないのか。洗濯物は全部手洗いか…。


 そうか、まだ新生児用の小さいオムツだったな…もうワンサイズ上のオムツにするか。

 生後二カ月目だから、もう新生児ではないからな。



 オムツ替えとは、うんち漏れとの戦いと言っても過言ではない。

 母乳やミルクしか飲まない赤ちゃんのうんちは基本的に水下痢のようにビシャビシャだ。そのため、背中や太腿の脇から()()()漏れてくるのだ。

 その度、服を着替えさせ、うんち付きの服は洗剤で手洗いする。子育てとは、大変なのだ。


 ちなみに新生児の赤ちゃんのうんちは茶色ではないし、あまり臭くない。どちらかと言えば黄緑色に近い。

 これは腸内細菌が未発達のためだ。成長するにつれ、大人のうんちに近づいていく。匂いも臭くなっていく。

 オムツを開ける瞬間は、パンドラの箱を開けるような気分だ。うんちをかき分けた先には、小さな希望があるのだ。


 余談ついでに、母乳とミルクの話。

 一般的に、母乳の方が消化がよく、ミルクの方が消化に時間かかり、腹持ちがよいとされている。

 生後一カ月を迎えるまでは、生まれた時の体重から一日あたり三十グラム増えていれば問題ない。

 ミルクであれば、飲ませる量を調整することで、ある程度体重の増減をコントロールできるが、母乳のみだと難しい。

 そんな時は、赤ちゃん用の体重計がある。横に寝せて計れて、グラム単位で分かる優れものである。なかなかミルクを飲まなくて体重が増えているか不安な人はぜひ購入を勧めたい。



 話を戻そう。

 持ってきたオムツがあるうちはいいが、無くなった時のことを考えなければならない。

 この世界でのオムツ事情について、カザンに聞いてみた。


「なぁ、このオムツがないこの世界ではどうやってるんだ?」


「服を縫った余りの切れ端やゴブリンから採れるボロ布だな。あいつらのは汚いが、サイズを少し手直しすれば履けるから楽なんだとよ」


 何でもないことのようにカザンは答えた。


 今、ゴブリンっていったか?切れ端で作る布オムツはまだ分かる。ゴブリンはないだろう、洗うとしてもあの見るからに不衛生な布は当てられない。


 もう一つ、目標が出来た。

 俺がこの世界で、快適なオムツを()()()()()



異世界日記 10日目

カザンはこう見えて偉い人?

目標が出来た。日本に帰る。

オムツは技術の結晶。

オムツには希望が詰まっている。俺はやる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ