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異世界育児  作者: 葉山 友貴
第一章 育児奮闘・開拓編
56/91

55話 七五三(五)

やっと七五三編が終わりました…

異世界生活 1480日目


 ついに教会が完成した。

 見た目は完全に神社そのものだが、教会である条件は満たしている。

 聖堂(お社)もあり、神界石を置いた降神の間には、技巧を凝らした細工が施されている。ガンテツとスミスの合作だ、文句なしに素晴らしい出来栄えである。


 念願の七五三の日取りを決めよう。

 日本では、十一月十五日が正式な日にちとされているが、大安や仏滅といった六曜を気にする人は十五日付近でやる場合もある。

 要するに目安というやつだ。


 もうこちらの世界に来て、四年近く経っていることだし、気にしないでやっちゃおう。

 思い立ったが吉日というやつだ。


「アヤメ、日取りが決まったよ!明日やろう!」


「え、明日!?また急な…そういえば神社の名前は決まってるだすか?祝詞をあげるのに必要なので」


「名前か、決まってないな。

 信仰する神は本人がやる気だし、ブリギット神になるのかな。

 ウルフにいつも助けられてるし、狛犬の代わりってことで、『犬狼(けんろう)神社』ってのはどうだろう?」


「犬狼神社…かっこいいかも」


 悪くない感触だ。

 これでいこう、インスピレーションは大事だ。


「よし、決まりだ。では明日決行だ」





「掛け巻くも畏き、犬狼神社の大前に、アヤメが恐み恐みも白さくに。

 大神ブリギットの広き厚き御恵により、身健やかに生立ち行くは、愛たき極になも有りける。

 去にし年月に生れ出でて、今年は言祝ぐ齢となりぬれば、

 七五三詣の儀執り行ふ真心を、愛ぐしと思ほし見そなわし坐して、

 今ゆ行く先も守り給い幸へ給いて、優れたる大和男子、大和撫子と成さしめ給へと、

 恐み恐みも乞願奉らくと白す」


 ここは教会の中にある降神の間。

 ブリギット神に子を披露する建前のため、完成したばかりのこの部屋で七五三の儀式を行なっている。

 アヤメが祝詞を唱えた後、シャン、シャンと鈴を鳴らす。


 俺と茜、マリアさんとシモンは大人しくその光景を眺めていた。

 静寂の中で、鈴の音色だけが鳴り響く。


「先程の祝詞は簡単に言うと、

 子供達が祝年になったので七五三をブリギット様の前で七五三を行います、祝福してこれからも見守っててね、って意味だす」


 アヤメから解説が入った。

 そう言う意味だったのか。難しい言葉だったから、聞き流していた。


 茜がウンウンと頷いている。

 本当に理解しているのか分からないが、なんだか偉そうだ。


 念願の七五三が出来た、感無量である。



 大きくなった。


 膝の重みからそう実感する。

 本人は足をパタパタさせて暇そうだ。

 親の気持ちをしらないで、子供はこうやって成長していくのだろうな。


 着物姿は綺麗だ。


 この前まで赤ちゃんだったのに、髪を結い上げて、振り返れば一丁前に女の子だ。


 日々忙しくて思い出すことも少なくなった。

 悲しいけど、こうやって時間と共にどんどん記憶から薄らいでいくのだろうか。

 彩夏(あやか)、茜は、ちゃんと成長してるぞ。彩夏の膨れっ面の顔が頭に浮かんだ。

 忘れてないから勘弁してくれ、言い訳のように心の中で呟く。



 急に、アヤメの存在感が増したように感じると、光を放ち始めた。


「ほう、やはりいい身体だ。

 我は、戦いと豊穣の神ブリギット。祈りに応じて、守の子を見に来てやったぞ」


 アヤメの目が白色に染められ、神聖な光を身に纏っている。


「ブリギット様、本日はありがとうございます。教会も無事完成しました。

 これが娘の茜です。隣はシモンといいます。二人ともここまで育ってくれました」


 二回目となると流石に慣れた、俺だけは。

 マリアさんは驚きのあまり固まっている。

 同席していたカザンとアンナさんは平伏して顔を上げない。

 みんな仰々しすぎないか?魔法がある世界なんだ、神様だっているだろう。


「ほう、それでは祝福を授けてやらなくてはな」


 ブリギットが乗り移っているアヤメが茜とシモンの頭に手を乗せた。

 祝福の光はアヤメの手を伝い、茜達二人を包み込んだ。優しいようで力強い、ずっと見ていたい、そんな気持ちにさせる光だ。


「守、ようやく我の加護に気づいたか。ベレヌスの娘に負けるなよ。使いこなすように精進せい。

 そろそろ時間じゃ、また会おう」


 祝福を与えたアヤメ(ブリギット)は俺に向き直ると、そう焚きつけるように言うと一方的に別れを告げた。


「ブリギット様!まだ色々と聞きたいことが…」


 俺の引き止めも虚しく、アヤメからブリギットの存在は失われていく。


 全く、神様ってのは話を聞かないのか、ベレヌスも勢いはすごかった。


「守さん、今のは…?」「守、説明しろ」


 マリアさんとカザンは先程までのやり取りについて行けてないようだった。

 そういえば説明するのを忘れていたよ、ヌハハハ。

 かくかくしかじかで…。


「そういう大事なことは先に言え!

 またとんでもないことになってきたな。

 神に加護された町なんて、王都以外で聞いたことがない。公表すれば住民が殺到するに違いないぞ。

 …もう過ぎてしまったことだ。出来るだけ内緒にしておくしかない…」


 またもや、カザンが頭を抱えている。何度も見慣れた光景だ。

 カザンは大袈裟な気もするが、太陽の民達もベレヌスから加護を受けていたみたいだし…。

 ん?だから、外界と交流を絶ってきたのか?あれ、もしかして俺やっちゃいました?



 アヤメの意識が戻った。

 今回は魔の山の時より、消耗は少ない

ようだ。


「そうですか、ブリギット様がまた…。

 茜ちゃん、シモンくん、何だが違和感があるだすね」


 茜は違和感の正体を突き止めるべく、鑑定を行う。


1.吸収(未定着)

2.ブリギットの祝福


 吸収が未定着に戻ってるー!

 せっかく前進したと思ったのに、一歩進んで二歩戻ったような感覚だ。

 ブリギットの祝福が追加されている。間違いなく七五三の時の儀式が原因だろう。

 シモンにも追加されていることから明らかだ。

 悪くない、むしろ大変ありがたいことなんだろうが、茜のキャパシティを超えている可能性が高い。成長と共にタレントが定着することを祈ろう。あとは訓練か。



異世界日記 1481日目


念願の七五三ができた。

妻にも見せたかったが、いつになるか分からないが墓参りの時にでも報告しよう。

言いたいことがありすぎて、一日じゃ終わらないかもな。

ブリギット様からはありがた迷惑な祝福を頂いた。こんなこと罰当たりすぎて、口に出しては言えないな。

そのうちなんとかなると信じて!

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