53話 七五三(四)
あれから何度かロボット達よる襲撃があった。
「前方に犬型二つ、後ろから人型一つ。挟み撃ち」
フォルカスの索敵に引っかかった敵を素早く共有する。
「前はフォルカス、後ろはウルフ。ガンテツは遊撃だ」
迫りくる二つの牙をフォルカスは大楯を流れるように操り、防ぐ。
実に見事な魔素操作だ。自然体で淀みがない。俺も鍛錬していれば、いつかあの領域にたどり着けるのかな。
足を止められた犬型ロボットへ大槍の穂先と石突で突く。局所的な攻撃を見舞う。
顔に埋め込まれた核を破壊すると、ロボットは動かない。逆に言えば、核が生きている限りは動き続けるのだ。
本来なら厄介なこと極まりない敵のはずだが、フォルカスにとっては物足りないようだ。ピンポイントに核を破壊された犬達は糸の切れた操り人形のように地面に崩れ落ちた。
一方で、ウルフは人形態をとり、片手で大剣を構えていた。
目線は獲物を見据え、横に、水平に剣を握る独特な構えだ。
人型ロボットは、両手の手首を外し、そこからビームサーベルのような剣を生やしてきた。切れ味は未知数だ、剣で受けてしまったら、高熱により焼き切られる可能性もある。
援護を担当するはずのガンテツは目をキラキラさせて、足が止まっている。
気持ちは分かるが、戻ってこい!
ウルフはただ悠然と、無防備に、傲慢ともいえる足取りで距離を詰めた。
踏み込みは一瞬。
真横にあった大剣は、斬撃と呼ぶにはあまりにも粗末な軌道で、人型ロボットに叩きつけられた。
人型の核は心臓のあたりにある。
ウルフの一撃は、防御した腕ごと核を叩き壊した。
「な!?もったいないじゃろ!」
ガンテツが激昂しているが、それはお門違いだ。ウルフは悪くない。
ガンテツをなだめながら、アヤメの案内でさらに奥へと進む。
「みなさん、もうすぐ着きますだ」
前方に扉が現れた。
ただし、取手はなく、金庫の扉のようにも見える。
扉には、ただ一言だけ、書かれていた。
「いのり、を、ささげろ って読むのか?」
なぜか俺にだけ読めた。
「これは神代の文字じゃぞ!!なぜ読めるんじゃ!?」
「高位の司祭様しか読めないはずなのに、どこで習ったんだべ!?」
ガンテツとアヤメに問い詰められた。
そんなの俺が知りたい。
ただ、何となく分かるってだけだ。なぜ歩けるんだと聞かれて合理的に答えられる人は少数だろう。
日本からの転移が関係しているのか分からないが、心当たりがあるとすればそれだ。
ただし、ウルフには読めなかった。元が犬だからか?茜が大きくなったら、試してみるのもいいかもしれない、まだまだ先のことだな。
「俺に聞くな。何となく分かるだけだ」
納得してない二人を無視して、書かれた言葉の意味を考える。
「アヤメ、いつも教会でやっていた祈りなどはあるか?」
「あい、いくつかあります。
朝の礼拝、昼食前のお祈り、夜の就寝前に行うお祈りの、三つですだ」
実際に扉の前でやってくれた。
しかし、扉は開かない。
合言葉でも必要なのか?
「ヒラケゴマ!!」
……。
開かないばかりか、変な空気になってしまった。
あとは俺が知る祈りといえば、神社の礼拝くらいだ。やってみるか。
まず、深いお辞儀を二回。
次に、両手を合わせ、右手を少し手前に引き、拍手をゆっくり二回。
両手を合わせ祈る。扉が開きますようにと。
最後に、両手をおろし、深いお辞儀を一回。
俗にいう、二礼二拍手一礼の作法だ。
「…どうだ?」
ーーなんじゃそれは?まぁ、いいか。面白いものが見れたし、フフフ。
頭に声が響き、扉が開いた。
「開いたぞ!」「開いたべ!」
俺たちは慎重に部屋の中に入った。
中央に、正方形の石が鎮座していた。
一辺が、一メートル四方くらいで、石の表面には細かい文字がビッシリと書き込まれている。
他には何もない。
次の瞬間、耳鳴りが襲った。
俺だけじゃない、全員が頭を抑えている。
ーーよくぞ、ここまでたどり着いた。神々の子らよ。
アヤメの体が発光している。
その瞳は白く、神聖を放っていた。
時より陽炎のように朧げに感じる。
ーーむ、この身体はいいな。ここまで同調できる者は滅多にいない。
アヤメの中にいる『何か』は手を開いたり、握ったりを繰り返してそう言った。
「あなたは?」
皆が疑問に思っていたことを俺が代表して問う。
ーー我は、戦と豊穣の神ブリギット。
太陽の民の祠で会っただろう。あそこは我が友ベレヌスの領域だから、我は神託できなかったが、加護を与えただろう。
「思い返すと、ベレヌス神様は友がどうのこうの言っていたような…」
ーーベレヌスめ、また大事なことを端折りがって…。我の加護は役に立っているか?
「あの時に発現した火魔法はブリギット様のおかげだったのですね。おかけで火の魔石に頼るこなく技を繰り出せるようになりました!」
ーー馬鹿者。全く使いこなせてないではないか。それは一端に過ぎない、もっと精進せよ。
そろそろ時間だ、次はお前の町で会おうぞ。
「まだ聞きたいことが!」
アヤメから光が失われると同時に、地面に座り込んだ。
肩で息をしている。相当に消耗したようだ。
「わ、わだす今何をしていただ?」
先程のやり取りを説明した。
ブリギット神とのやりとりはその場いる全員に聞こえていたが、理解が追いつかず話すことが出来なかったらしい。
神から神託を受けて、平然としている俺の方がおかしいと言われた。異世界で驚いてばかりだったから、耐性がついたのか、文化の違いだろう。
「なんか町に着いてくるみたいだぞ」
「馬鹿者!ブリギット様、こやつには強く言って聞かせますので、ご容赦ください」
ガンテツから、神の庇護を受けるのはそれは大変ありがたいことだと、何度も繰り返し教えられた。そして拳骨も貰った。
あとはこの重そうな神界石をどう持ち帰るかだが。
「あとはこれを持ち帰ればいいんだな?」
フォルカスが魔素で難なく持ち上げた。
今度から重い物は持ってもらお…。
帰り道に、ロボット達に襲われることは無かった。あれはブリギットの試練だったのかもしれない。自分で戦を司ると言っていたし、きっとそうなんだろう。
異世界日記 1242日目
神界石を手に入れるために魔の山に近未来のロボットに遭遇した。男のロマンがつまってるような見た目だった、欲しい。
そして、ブリギットという神様が着いてくるらしい。
俺にあまり実感はないが、すごいことみたいだ。




