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異世界育児  作者: 葉山 友貴
第一章 育児奮闘・開拓編
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51話 七五三(二)

異世界日記 1240日目


 新たに加わったアヤメと共にガンテツとスミスのもとを訪れていた。

 この世界の名前は洋風が多かったが、アヤメは和風テイストだ。

 地域で違いがあるのか、過去に転移した者の末裔なのか、想像は広がるばかりだ。

 ただ分からないことを考えても仕方ない。今は教会作りに集中しよう。


「…こんな感じの建物にしたいんだが」


 俺は思い描いていたイメージを簡単な絵に書いて、ガンテツ達に披露した。


「ほう…、初めてみるデザインだ。

 この国の一般的な教会とは違うな。異国情緒を感じる。守の国の教会か?」


 ガンテツが立派な顎髭を弄りながら、興味を示している。


「そうだ。俺の国では『神社』と呼んでいて、神様を祀っていた」


「この赤い門はなんだ?」


 今度はスミスだ。


「これは鳥居(とりい)だ。神様達の通り道だ」


「達?お前の国では神様は何人もいるのか?」


「ああ、俺の国では『八百万の神』と言って、海や山のような自然を司る神々、商売や学問、縁結びなど様々な神を祀っていた」


「面白い考え方だ。

 人間や獣人、少数民族など様々な人が暮らすこの町に合っているかもな」


 ガンテツの賛同は得た。


「あの、わだすからもいいですか?」


 アカメが遠慮がちに小さく手を挙げている。


「あの、わだす、神様を降ろす依代(よりしろ)になり易い体質だ司祭様が言ってました。

 わだすにはさっぱりなのですが、たくさんの神様と仲良くやっていきたいと思ってます!」


 アヤメが鼻息を荒く宣言した。

 根はいい子なのは間違いない。やる気が空回りするタイプなのだろう。

 よくよく話を聞くと、シスターの仕事は催事や行事に呼ばれ、祝福を授けたり、教会にくる人々の対応など多岐に渡る。

 それらが全く出来なくて何度も怒られていたらしい。


「アヤメが協力的で助かった。人には得手不得手があるから、ゆっくりやろう。苦手なことは人に任せてもいい、楽しくやっていきたいんだ」


「まもる、ざん!わだす、そんなこと言われたの初めてだ。育った村でも、何やってもダメで、グズとか穀潰しとか言われてただ!

 オラ、ここに、きて良かっただ!」


 アラメは涙ながらに語っている。よほど辛い目に遭ってきたのだろう。

 感情が昂ると、口調が田舎訛りが出るみたいだ。


「建物は決まったな。後は、アヤメが着る服で、こんなのも考えたんだけど…」


 俺は、茜のお宮参りで使ったかけ着を取り出した。これはアンナさんが自身の服をリメイクして作ってくれた着物だ。


「アヤメには『(かんなぎ)』になってもらう。まずは形からということで、巫女服を作ってもらおう!」


 俺の大雑把な絵で、なんとか説明できた。


「こういう細かい仕事は俺に任せろ」


 巫女服はスミス。神社はガンテツがメインで担当する分担になった。


「神社を作るにあたって、一番大事な材料を取りに行く必要がある。

 『神界石』というものだ。

 ワシは詳しくは知らんが、合っているよな?アヤメよ」


「はい、降神の儀は神界石が置かれた部屋が行う必要があります。神界石がどこで採掘できるかは、わがりません…」


「それなら、魔の山にあるだろう。

 あそこは鉱物の宝庫だ。ワシも行こう」


 こうして、神界石を探して魔の山に出発することになった。

 メンバーは俺、ガンテツ、アヤメ、あとは暇そうにしていたウルフとフォルカスだ。

 ニーナには茜の世話など留守を頼んだ。

 お姉ちゃんに任せてと胸を張って叩いていた。頼もしくなったものだ。




「もっと奥に詰めて」「ちと狭いが、快適じゃな」「私はこうしよう」

 みんなでウルフの背にで乗り込む。

 フォルカスは魔素で器用にソファーのような形を作り、腰掛けていた。


「オイラは移動手段じゃないんだぞ」


 ウルフがボヤいていたが、魔の山は向けて出発した。目的は神界石、いざ行かん!



 遠くに魔の山が見えてきた。

 ウルフの足だとあっという間だ。


 ニーナに出会った際の遺跡の入口は無くなっている。地殻変動で偶然出来たのだろう。ニーナに出会えたことが奇跡だ。

 ここはガンテツとアヤメに頑張ってもらおう。


「採掘用の入口ならこっちにあるが…」


 ガンテツが前方を指差す。

 とりあえず普段慣れた入り口から入って、奥に進むのはありかもしれない。

 しかし、神界石とはそんな普通の方法で見つかるものなのか?それなら誰かが見つけてもおかしくはないのではないか。


「待ってくだせえ」


 目を瞑り、瞑想の姿勢をとると、アヤメの雰囲気が変わった。

 それに合わせて周囲の温度が下がったような気がする、少し肌寒い。


「な、なに?!」


 あのフォルカスが大袈裟に驚いている。

 俺も集中すると、魔素の動きが変だ。まるで意志を持つかのような流れを感じる。しかもこれは俺が干渉できるような力ではない、大きな濁流のような力だ。

 その中心にアヤメはいる。

 フォルカスが自身の能力、魔素操作を持ってしても周囲の魔素を操ることは出来なかったようだ。軽く悪態をついている。


「たぶん、分かりましただ」


「おい、今何をやったんだ?」


 一仕事終えたような顔をしているアヤメにフォルカスは突っかかる。

 フォルカスは魔素の操作においては一級品だ。プライドがあったのだろう。


「この辺の魔素に同調したんですだ。

 わだすは昔から魔素や人の気持ちを感じることだけは得意だったんですだ」


 アヤメは恥ずかしげにカミングアウトしたが、これは使いようによっては化ける能力なんじゃないか?

 アヤメをスカウトした司祭様も同じことを思ったのかもしれない。

 とにかく周囲の魔素に同調し、聞いてみたところ朧げな道順は分かったらしい。


 不安が残るが、アヤメの案内で先に進もう。



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