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異世界育児  作者: 葉山 友貴
第一章 育児奮闘・開拓編
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49話 親子

異世界生活 1170日目


 ケンセイが開拓町に来てから、より賑やかになった。ケンセイを慕って各地の弟子達が集結し、道場を開いたからだ。

 七星の一人と紹介されたが、元々この世界の住人ではない俺にはいまいちピンとこない。なんとなく凄そうなのは分かった。

 なんでも看板を掲げれば門下生は我先にと集まり、他国に行けば特別顧問としてお誘いも絶えないらしい。

 とにかく一生食うには困らない資格みたいなものという理解だ。


 カザンもかつては、弟子の一人だった。しかも、将来を期待されていたのにアンナさんと駆け落ちするなんて、顔に似合わずロマンチストじゃないの。

 カザン本人をからかったら、顔を赤くしてうるせぇと言われた。言い負かされそうになったときの隠し球として持っておこう。


 茜、ニーナ、ウルフ、それにホークはケンセイから指名を受けて、毎日道場で遊んでもらっている。修行と聞いているが、小さい子供もいるのだ、遊びの延長線だろう。

 茜はわんぱくだから、いい遊び相手が出来て嬉しそうだ。最近、シモンじゃつまらないとよく言っていた。シモンとの戦いごっこに物足りなさを感じていたみたいだ。


 夕方、四人が道場から家に帰ってくると、全員の服はボロボロで、ウルフとホークは疲労困憊(ひろうこんぱい)。茜とニーナはまだ余裕がある。元気に遊んでいるみたいだ。

 子供は元気が一番。

 よく食べて、よく寝て、よく遊ぶ。そして少しだけ優しく育っていけば言うことなし。


 開拓町は大きな転換期を迎えていた。


 四つの村と開拓町が街道で繋がったのだ。まだ路肩や舗装などの仕上げは残ってはいるが、道は繋がった。

 村人、獣人、太陽の民、みんなが一丸となって取り組んだと思う。

 最初は様子見していた間柄だったが、共に汗を流し、同じ釜の飯を食ううちに差別や(おきて)を乗り越えて、仲良く交流するようになった。


 今日は久々の休みだ。普段なかなか構ってやれないから、今日は茜のやりたい事をやらう。


「茜、今日はパパ、お仕事お休みだから、一緒に遊べるぞ!どこか行きたい所とかやりたい事はある?」


「やったー!茜ね、パパと町をお散歩したい!茜が秘密基地に連れて行ってあげる!」


 そんなことでいいのか。普段からウルフ達と町の中を散策しているはずだが。

 茜がしたい事をやる日なのだ。大人しく従おう。


「おーし、それじゃあ普段パパがお仕事している場所に行くぞ。最後に秘密基地に案内してね」

「うん!楽しみ、楽しみー♪」


 茜が小躍りしながら、手を叩いてる。

 喜び方もかわいい。最近は感情表現が豊かになってきた気がする。





 茜と大通りにきた。区画整理された通りの両脇には様々な店が立ち並ぶ。建設中の建物も多いが、衣類、食料品、生活雑貨の店は開店している。


「町長、おはようございます。あれ、今日は茜ちゃんも一緒なんですね?パパとお散歩よかったねー」

「うん!おじちゃんも元気でね!」


 すれ違う人から声をかけられた。茜が元気よく返事をする。

 この人は元は守村で農業を営んでいた。コムギ村からの穀物の供給が安定すると、我先にと開拓町へ志願した挑戦者(チャレンジャー)だ。

 開拓町に住む人達は目標や野心を持って移住した人が多い。

 故に、よく働く。まるで高度経済成長期の日本を見ているようだ。その頃、俺は生まれてないけど、テレビでの特集では今のブラック企業も真っ青な働き方をしていたらしい。


「あら、守さん、茜ちゃんこんにちは」

「あ…おはよ」


 今度はマリアさんとシモンに会った。

 シモンも小さい声だが、ちゃんと挨拶できるようになった。ちゃんと成長しているな。


「マリアさん、シモン!おっはよう!今日はね!パパと二人でお散歩なの!」


「あらよかったねー!今日はご一緒するのは遠慮しましょうね、シモン。また明日遊んでね」

「遊びたかった…またね」


「また明日ねー!」


 茜は両手を大きく振って別れの挨拶だ。

 マリアさんに気を使わせちゃったな。シモンも自分の感情を我慢できるなったな、偉いぞ。


 自警団の訓練所に顔を出すと、マントスとヴォルガが仲良く訓練していた。

 訓練とはいえ、二人とも手加減なしでぶつかりあっている。

 マントスが先に俺達に気づいた。


「兄貴!お嬢も一緒で!」

「守!おチビちゃんもこんにちは、私のことはママって呼んでもいいよ」


「ヴォルガそういうのは冗談でもやめないか。…締めるぞ?」


 頭が固すぎるかもしれないが、母親に関する冗談は教育によくないと思っている。

 いつか自分が他の家とは違うってことに自ら気づくまでは丁寧に接していきたい。


「じ、冗談だよ!もう!」


「そうだよ!私のママはにほん?っていうすごーく遠いところにいるんだよ!」


 いつか、もう少し大きくなったら、その時が来たら、話したいとは思う…。


 訓練所の外には射撃場がある。

 テオとゼオが切磋琢磨していた。二人は俺に気づくと遠くから手を振る。


ーー守さん、茜ちゃん!こんにちは!


 ゼオの風魔法に乗って声が届いた。もう自由自在に魔法を使いこなしている。


「頑張ってるなー!またなー!」


 俺は大きく手を振り返して、大声で応え、その場を後にした。


「今日はパパのお友達とたくさん会えて楽しい!」


「それならよかった。もっと楽しいこともあるんだけど、こんなのでいいの?」


「いいの!それより、お腹空いてきちゃった!」


 気づけばお昼をまわっていた。

 よし、お昼は町でも評判の食堂にしよう。


 食堂に入ると、賑わいで繁盛しているのが分かる。

 カウンターの一角を陣取り、熱心に議論を交わす見知った顔の女性三人がいた。


ーー守はどんな女性がタイプなのかしら。ローズはどう思う?

ーーな!?私は…そんなことには興味はない…うーん、やっぱりマリアさんみたいな優しくて、こう胸の大きい…?

ーー胸…。私は、ない…。

ーーほ、ほら!フォルカスはまだ小さいから、成長したら自然と大きくなるのよ!

ーー私、胸、小さい…。

ーーち、小さいって言ったのは、身長のことよ!


 エキドナ、ローズ、フォルカスはガールズトークに夢中なようだ。俺と茜が入店したことに気づいていない。

 時より俺の名前が聞こえたような気がしたが、きっと俺の仕事ぶりの愚痴を言っているのだろう。ここで話しかけるのは野暮ってことだ。

 バレないように外のテラス席に座った。今日みたいな天気のいい日は外で食べると気持ちがいい。


 店員のおすすめを注文し、料理が来るのを待つ。


「お待たせしました。

 ワイルドボアのステーキと、付け合わせはコムギ村産のポテト和えです。

 お飲み物はイズミ村産のブドウジュースです」


 ガラスの表面に細工が施された綺麗なグラスにブドウジュースが注がれる。このグラスはガンテツ村で作られた一品だ。

 こうして見ると、各村の特色がまとまった一皿になっている。もちろんワイルドボアは魔の森でマモル村の狩人がとってきたものだ。


「いただきまーす!」「いただきます」


 茜が大きなお口を開けて、肉に噛り付くと、一気に肉汁が溢れ出す。口から飛び出した肉汁が茜の頬を伝う。

 服が汚れるのなんて、気にもせず、笑顔で肉を咀嚼する。


「おーいーしーいー!」


 店内にまで聞こえるような大きな声で花丸をもらった。ニコニコしながら一心不乱に食べている。大満足のようだ。


 子供と一緒に食べると、コップを倒さないように気を配ったり、服の袖が汚れないように注意したりと自分の食事が進まない。

 途中で食べ遊びをして、食事が止まってしまったり、野菜を食べなかったり。とにかく目が離せない。

 それでも一緒に笑顔で、食事をするとなんだかこっちまで嬉しくなるから不思議だ。自分が作った料理を美味しいと言って食べてくれた時は本当に嬉しくて記憶に残る。

 今回の一皿は各村が協力することで、初めて出来上がった料理だ。調整に奔走した甲斐があった。


 あっという間に平らげて、デザートまでたどり着いた。

 もう少しで完食というところで、うつらうつらと舟を漕ぎ出した、かなり眠そうだ。


「茜、無理しなくていいからね。あとはパパが食べるから」

「いやだぁ…、ぜんぶ、食べるからぁ…」


 目がしょぼしょぼになってきた。いつもは昼寝している時間帯だ。

 茜を抱き抱え、会計を済ませると、中央広場にある大木に足を向けた。

 この木は元からこの地に立っていた。

 樹齢何千年とはいかないだろうが、ずっと昔からそこに立っているような佇まいだ。

 一度伐採を検討したが、御神木という言葉があるように、なんとなく御利益があるような気がして、この木を中心にして広場を設計した。

 大きく枝を伸ばし、木陰を提供したことでみんなの憩いの場となっている。


 楽しそうな夢を見ているのだろうか。

 むにゃむにゃと笑顔で寝ている茜を膝に寝転がらせる。

 俺は茜を起こさないよう慎重に、やり残した書類の束を取り出して、仕事を始めた。





 少し肌寒くなってきた。

 太陽が沈む、もうすぐ夕方だ。


「う…ん…?」


 茜が起きた。辺りをキョロキョロを見渡し、ここがどこか確認している。


「茜、寝ちゃった!大変!

 パパ、早く行こう!」


 茜は勢いよく立ち上がると、俺の手を引いて走りだした。目的地があるみたいだ。

 急いで書類を仕舞い込み、先導されるままについて行く。

 人混みをかき分けて進んだ先、町のはずれ、丘の上にやって来た。


「ここが茜の秘密基地なの!」


 丘の上からは町が一望できた。

 夕飯の支度だろう、家々から煙が上がる。ここまでおいしそうな匂いにしてきそうだ。

 夕焼けが町を優しく包む。


 美しい。


 人の生活が、一つ一つの家に人生がある。


 ここまで来たのだ。

 茜とウルフ、三人でこの世界に飛ばされ、何も分からないところから、ここまできたのだ。


 自然と涙が流れた。


「すごいでしょ!パパ、泣いてるの?」


 茜が心配して顔を覗き込んできた。


「大丈夫だよ、嬉しくて、感動して涙が出たんだ」


「パパ、涙は悲しい時に出るんだよ!

 嬉しい時は、笑うんだよ!」


「…そうだね。茜の言う通りだ」


 俺達は顔を見合わせて笑い合った。

 子供の言葉には、時よりハッとさせられることがある。純粋で、無邪気な言葉は心に突き刺さる。


 大きくなったなぁと急に実感した。

 茜は、もう三歳になった。

 この世界にきて、三年以上経ったのか。

 あっという間だったようで、色々あったな。

 何か、引っかかる。

 大事なことを忘れているような…。



「七五三をやってない!!」


「パパ?」


 すぐに準備に取り掛かろう。


異世界日記 1170日

久しぶりに茜と二人だけの時間を過ごせた。

たまにはこういう日が必要だと実感した。

そして、七五三をやってなかった。忙しすぎてすっかり忘れてた。急いで準備だ。

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