48話 四人組
すみません、だいぶ空いてしまいました。
私はウルフ。
今日、いつもの三人組に新しい仲間が加わった。ニーナという少女だ。
「私が、隊長」
新参者のその少女は開口一番でそう言い放った。守から留守を預かる身として、和を乱すような新顔に大きい顔をされるわけにはいかない。
私が、お灸を据えようとしていると、
「わたしが、隊長なの!」
負けず嫌いな茜はすぐに反論した。頬を膨らませるその姿は実に可愛らしい。
「わたしが一番!ニーナお姉ちゃんは、二番!」
「お姉ちゃん…、わたし、お姉ちゃん」
ニーナは繰り返し呟き、ニヤニヤしている。
どうやら落とし所は決まったようだ。
ニーナは茜とシモンを抱き抱えるように一番後ろに跨っている、私の背の上で。
ホークはつい最近、空を飛べるようになった。まだフラフラと不安定な時もあるが、おかげで私の背の上に空きができた。
大鷲の子供であるホークは、ニーナと同じくらいの大きさだ。子供一人くらいなら背に乗せて飛べるかもしれない。成長したら大人も乗せることが出来るだろう。
私も一度でいいから空を飛んでみたい。守が、その能力で空を飛んだときは驚きと共に羨ましくもあった。ホークが大きくなったら、ぜひとも乗せてもらおう。
今日は、守にお弁当をとどけるという大事な任務がある。
守は各村の中央に位置する開拓町にいるため、街道を通って向かう道中だ。私とニーナがいれば、よほどのことがない限り安全だ。
ニーナに武の心得はないが、有り余る力がある。しかも、これは直感だが、底知れぬ潜在能力を秘めていると思う。その辺の魔物や盗賊では歯が立たないだろう。
街道を進んでいると、道の脇に座り込んでいる老婆がいた。
茜が指差している。
「おばあちゃん!お腹いたいの?」
近くまで駆け寄ると、茜が声をかけた。
「あら、まぁかわいい子達だねぇ。ペットの子達もお利口さんだねぇ」
私とホークを見た老婆に怯えの表情はなく、茜達を見るとすぐに緩んだ顔になった。どちらかと言うと私はペットではなく、保護する側なのだが。
「ちょっと、足を痛めちゃって。良くなるまで座ってたんだよ」
「茜ね、これからパパのところに行くから!一緒に行こう!
パパがね、お腹空いたーってなるから、このお弁当をね、持ってくの!」
「茜、優しい…」
「あら、悪いねぇ。町に着いたら必ずお礼するからね」
ニーナは感心した様子で、茜の頭をなでなでしている。というか、背に乗っているときからずっと撫でている。
老婆一人であれば、まだ乗れるだろう。目的地も同じだ、問題はない。
「茜のお名前は、茜って言うの。お婆ちゃん、お名前は何ていうの?」
「おやおや、茜ちゃんは偉いねぇ。私ももう年かね、まだ名乗っていなかったわさ」
「私はね、拳星って呼ばれとるよ」
変わった名前だ。この世界ではカタカナ名が多いと聞く。まるで日本語のような響きだ。
「ケンセイってなあに?」
「みんなが勝手に呼んどるだけさね」
老婆改め、ケンセイは飄々としている。
「む?」
ーー止まれ!!
突然、何もないところから声をかけられた。何も見えないが、人の気配は感じる。ケンセイも私と同様に何かを感じ取ったようだ。動き出せるように重心が傾いている。
ーー金目の物を出せ!さもなくばババアと子供の命は…
「ふん」
ケンセイの体が沈み込むと、次の瞬間、消えた。
いや、見失ったのだ。
ドンっと、音がした方向を向くと、男が地面に突っ伏しており、いつの間にかその上にケンセイが腰掛けている。
盗賊にしては高級な身なりをした男だ。高そうなローブに履き物。その辺にいる盗賊と言い張るには余りにも不自然な格好だ。
「誰がババアだって?」
ケンセイが自称盗賊を締め上げる。
「うぐぐ、おぼ、え、てろ」
小物らしい捨て台詞とと共に体が消えていく。盗賊の上に乗っていたケンセイがガクンと地面に座る。
「逃げたか。
む、気配が消えたか?
ちとみくびり過ぎたかの」
「オイラに任せろ」
匂いが急に出たり、消えたりを繰り返している。それでも私の鼻なら、追える。
四足獣の力強さに身を任せ一気に加速する。
物凄い速さで景色が後方に流れていく。盗賊の匂いは、短い距離で飛び飛びになっている。気配ごと消える能力は長時間使えないようだ。
今感じている匂いが消えていく、間にあわ…、合った!
何も無い空間、匂いの元に噛みついた。
ーーいってぇ!いててててて!
再び姿を現した盗賊は、ぜぇぜぇと息が上がっている。
観念したのか抵抗の意思は見えない。動くたびに私の牙が食い込むのだ、無理もない。
「わんころ、なかなかやるじゃないか」
「まぁね!あとオイラはウルフって立派な名前があるんだ」
ケンセイは私が狼形態で話しても全く動じていない。大物の予感…?
以前なら人形態の時のみ会話できたが、声帯に細工をして、この形態でも話せるようになったのだ。最初は誰もが驚いていたものだ。
捉えた盗賊は建設中の町に連れていかれ、ネネの精神魔法による厳しい尋問が待っていた。
ネネによると、自称盗賊は有力貴族達からの刺客だったようだ。
盗賊を装い、通行人を襲撃することで、建設中の町への評判を落とそうという考えらしい。
浅はかな考えだ。
盗賊にはネネから丁寧な教育が施され、こちらの尖兵として巣に返してやった。ネネの手慣れた様子が少し怖かった。
町に着くと、ケンセイは私達を連れて宿に向かった。お礼をしてくれるらしい。
宿には、大勢の人だかりが出来ていた。
カザンもいる。何事だろう?
「し、師匠!!お久しぶりです!カザンです」
「おやまぁ、あの鼻垂れ坊主が立派になったねぇ」
守が爆弾を持ち込むから大抵のことには動じない、あのカザンが珍しく緊張している。
「なぜウルフと一緒にいるかは知らんが、この方は王国七星の一人、拳星様だぞ!?」
「そんな大それたものじゃないよ。若気の至りさね。それよりもカザン、実は一つ頼みがあるんだよ。
珍しく有望な弟子だったなのに、恋人と駆け落ち同然で逃げ出したんだ、断らないわよね?」
「も、もちろんです。師匠」
カザンの額に大粒の汗が浮かぶ。
「ぶっそうな世の中だからね、見込みのある者達を教えてあげるさね。カザンにはその道場の用意と宣伝をお願いするさね。
もちろん、あんたが参加してもいいんだよ」
「すぐに、ご用意いたします!私は仕事がらあるので遠慮します!それでは」
そう言い残すと、カザンはそそくさとその場は離れる。どれだけケンセイに怯えているんだろう。
「そうかい、ありがとね。それじゃあ、ウルフと茜、それにニーナ。あんたらを私の弟子にするよ。ペットの大鷹も連れておいで」
「やったー!遊んでくれるの!?」
「いや、オイラは…」
茜は無邪気に喜んでいる。私は希望してはいないのだが。
「それじゃあさっそく明日から始めるからね。逃げ出したら…、分かるね?」
ケンセイからドス黒いオーラを感じた。決して逆らわないようにしようと心に決めた。
賑やかな声を聞きつけた守がやってきた。
「おー遊んでもらえてよかったな、茜!
それではケンセイさん明日から茜のことよろしくお願いしますね。ウルフとホークも迷惑かけるんじゃないぞ!ニーナはお姉ちゃんだから、茜のこと頼むな!」
「私、お姉ちゃん…頑張る!」
「いや、オイラは…」
「クエー!」
勘違いしているであろう守の一言あいさつで、その場は解散となった。
これから地獄の修行が始まるとは知らずに。




