表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界育児  作者: 葉山 友貴
第一章 育児奮闘・開拓編
49/91

48話 四人組


すみません、だいぶ空いてしまいました。


 私はウルフ。

 今日、いつもの三人組に新しい仲間が加わった。ニーナという少女だ。


「私が、隊長」


 新参者のその少女は開口一番でそう言い放った。守から留守を預かる身として、和を乱すような新顔に大きい顔をされるわけにはいかない。

 私が、お灸を据えようとしていると、


「わたしが、隊長なの!」


 負けず嫌いな茜はすぐに反論した。頬を膨らませるその姿は実に可愛らしい。


「わたしが一番!ニーナお姉ちゃんは、二番!」


「お姉ちゃん…、わたし、お姉ちゃん」


 ニーナは繰り返し呟き、ニヤニヤしている。

 どうやら落とし所は決まったようだ。

 ニーナは茜とシモンを抱き抱えるように一番後ろに跨っている、私の背の上で。

 ホークはつい最近、空を飛べるようになった。まだフラフラと不安定な時もあるが、おかげで私の背の上に空きができた。


 大鷲の子供であるホークは、ニーナと同じくらいの大きさだ。子供一人くらいなら背に乗せて飛べるかもしれない。成長したら大人も乗せることが出来るだろう。

 私も一度でいいから空を飛んでみたい。守が、その能力で空を飛んだときは驚きと共に羨ましくもあった。ホークが大きくなったら、ぜひとも乗せてもらおう。


 今日は、守にお弁当をとどけるという大事な任務がある。

 守は各村の中央に位置する開拓町にいるため、街道を通って向かう道中だ。私とニーナがいれば、よほどのことがない限り安全だ。

 ニーナに武の心得はないが、有り余る力がある。しかも、これは直感だが、底知れぬ潜在能力を秘めていると思う。その辺の魔物や盗賊では歯が立たないだろう。


 街道を進んでいると、道の脇に座り込んでいる老婆がいた。

 茜が指差している。


「おばあちゃん!お腹いたいの?」


 近くまで駆け寄ると、茜が声をかけた。


「あら、まぁかわいい子達だねぇ。ペットの子達もお利口さんだねぇ」


 私とホークを見た老婆に怯えの表情はなく、茜達を見るとすぐに緩んだ顔になった。どちらかと言うと私はペットではなく、保護する側なのだが。


「ちょっと、足を痛めちゃって。良くなるまで座ってたんだよ」


「茜ね、これからパパのところに行くから!一緒に行こう!

 パパがね、お腹空いたーってなるから、このお弁当をね、持ってくの!」


「茜、優しい…」


「あら、悪いねぇ。町に着いたら必ずお礼するからね」


 ニーナは感心した様子で、茜の頭をなでなでしている。というか、背に乗っているときからずっと撫でている。


 老婆一人であれば、まだ乗れるだろう。目的地も同じだ、問題はない。


「茜のお名前は、茜って言うの。お婆ちゃん、お名前は何ていうの?」


「おやおや、茜ちゃんは偉いねぇ。私ももう年かね、まだ名乗っていなかったわさ」


「私はね、拳星(ケンセイ)って呼ばれとるよ」


 変わった名前だ。この世界ではカタカナ名が多いと聞く。まるで日本語のような響きだ。


「ケンセイってなあに?」


「みんなが勝手に呼んどるだけさね」


 老婆改め、ケンセイは飄々としている。


「む?」


ーー止まれ!!


 突然、何もないところから声をかけられた。何も見えないが、人の気配は感じる。ケンセイも私と同様に何かを感じ取ったようだ。動き出せるように重心が傾いている。


ーー金目の物を出せ!さもなくばババアと子供の命は…


「ふん」


 ケンセイの体が沈み込むと、次の瞬間、消えた。

 いや、見失ったのだ。


 ドンっと、音がした方向を向くと、男が地面に突っ伏しており、いつの間にかその上にケンセイが腰掛けている。

 盗賊にしては高級な身なりをした男だ。高そうなローブに履き物。その辺にいる盗賊と言い張るには余りにも不自然な格好だ。


「誰がババアだって?」


 ケンセイが自称盗賊を締め上げる。


「うぐぐ、おぼ、え、てろ」


 小物らしい捨て台詞とと共に体が消えていく。盗賊の上に乗っていたケンセイがガクンと地面に座る。


「逃げたか。

 む、気配が消えたか?

 ちとみくびり過ぎたかの」


「オイラに任せろ」


 匂いが急に出たり、消えたりを繰り返している。それでも私の鼻なら、追える。

 四足獣の力強さに身を任せ一気に加速する。

 物凄い速さで景色が後方に流れていく。盗賊の匂いは、短い距離で飛び飛びになっている。気配ごと消える能力は長時間使えないようだ。


 今感じている匂いが消えていく、間にあわ…、合った!


 何も無い空間、匂いの元に噛みついた。


ーーいってぇ!いててててて!


 再び姿を現した盗賊は、ぜぇぜぇと息が上がっている。

 観念したのか抵抗の意思は見えない。動くたびに私の牙が食い込むのだ、無理もない。


「わんころ、なかなかやるじゃないか」


「まぁね!あとオイラはウルフって立派な名前があるんだ」


 ケンセイは私が狼形態で話しても全く動じていない。大物の予感…?

 以前なら人形態の時のみ会話できたが、声帯に細工をして、この形態でも話せるようになったのだ。最初は誰もが驚いていたものだ。


 捉えた盗賊は建設中の町に連れていかれ、ネネの精神魔法による厳しい尋問が待っていた。

 ネネによると、自称盗賊は有力貴族達からの刺客だったようだ。

 盗賊を装い、通行人を襲撃することで、建設中の町への評判を落とそうという考えらしい。

 浅はかな考えだ。

 盗賊にはネネから丁寧な教育が施され、こちらの尖兵として巣に返してやった。ネネの手慣れた様子が少し怖かった。


 町に着くと、ケンセイは私達を連れて宿に向かった。お礼をしてくれるらしい。

 宿には、大勢の人だかりが出来ていた。

 カザンもいる。何事だろう?


「し、師匠!!お久しぶりです!カザンです」

「おやまぁ、あの鼻垂れ坊主が立派になったねぇ」


 守が爆弾を持ち込むから大抵のことには動じない、あのカザンが珍しく緊張している。


「なぜウルフと一緒にいるかは知らんが、この方は王国七星の一人、拳星(ケンセイ)様だぞ!?」


「そんな大それたものじゃないよ。若気の至りさね。それよりもカザン、実は一つ頼みがあるんだよ。

 珍しく有望な弟子だったなのに、恋人と駆け落ち同然で逃げ出したんだ、断らないわよね?」


「も、もちろんです。師匠」


 カザンの額に大粒の汗が浮かぶ。


「ぶっそうな世の中だからね、見込みのある者達を教えてあげるさね。カザンにはその道場の用意と宣伝をお願いするさね。

 もちろん、あんたが参加してもいいんだよ」


「すぐに、ご用意いたします!私は仕事がらあるので遠慮します!それでは」


 そう言い残すと、カザンはそそくさとその場は離れる。どれだけケンセイに怯えているんだろう。


「そうかい、ありがとね。それじゃあ、ウルフと茜、それにニーナ。あんたらを私の弟子にするよ。ペットの大鷹も連れておいで」


「やったー!遊んでくれるの!?」

「いや、オイラは…」


 茜は無邪気に喜んでいる。私は希望してはいないのだが。


「それじゃあさっそく明日から始めるからね。逃げ出したら…、分かるね?」


 ケンセイからドス黒いオーラを感じた。決して逆らわないようにしようと心に決めた。


 賑やかな声を聞きつけた守がやってきた。


「おー遊んでもらえてよかったな、茜!

 それではケンセイさん明日から茜のことよろしくお願いしますね。ウルフとホークも迷惑かけるんじゃないぞ!ニーナはお姉ちゃんだから、茜のこと頼むな!」


「私、お姉ちゃん…頑張る!」

「いや、オイラは…」

「クエー!」


 勘違いしているであろう守の一言あいさつで、その場は解散となった。

 これから地獄の修行が始まるとは知らずに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ