47話 歓迎
全体的に言い回しなど、軽微な修正を行なっております。
異世界生活 1110日目
ニーナを連れて、村への道中。
穏やかな俺とは対照的に、ガンテツは取り乱していた。
リンドブルムとは、伝説の竜の血を引く獣人ーー竜人の族長の家名だそうだ。
その一族は巨大な力を持ち、与する者がいれば一時代を築いたとされている。
その伝説の存在は、ウルフの背ですやすやと眠っていた。寝顔はかわいい少女にしか見えない。
ガンテツに何と言われるかな。さすがにもう慣れて何も言ってこない可能性もある。
マモル村に到着した。
ガンテツも一緒だ。一度ガンテツ村に寄った後、事情を説明するために着いて来てもらった。
偶然、前を通りかかったゼオとテオにカザンと村人達を広場に呼んできてもらう。
「みんな、毎度のことながら仲間が増えた!
安心してくれ、今回は一人だ!」
「「おおー!」」
「…雑になっていってないか?」
よかった、村人達は歓迎ムードだ。
カザンだけは頭を抱えている。これから諸々の準備を担当するんだ、当然といえば当然か。
「ニーナ、です…よろしく」
ニーナは俺の後ろに隠れつつ顔をひょいと出しながら、その場にいる者に自己紹介をした。みんなの前に立つのは大人でも緊張する。話せるだけ立派なもんだ。
「「よろしく〜」」
「…かわいい」「ニーナちゃん…ハァハァ」
受け入れてくれたようだ。
一部から危ない声が聞こえたが、ニーナであれば自衛できるから大丈夫だろう。むしろ相手の方が心配だ。そのうちファンクラブとか出来そうだな。
その後、雑談を早々に切り上げ、カザンの家に移動した。
「こやつはリンドブルムの姓を名乗った」
ガンテツは経緯を説明した後に、爆弾を落とした。
「リンドブルムだと!?」
カザンも知っているとは相当な有名人なんだな。
「獣人、魔族、太陽の民、次は何が来るかと思っていたが、リンドブルムか…」
カザンは腕を組んで難しい顔をしている。
あのカザンが事実を受け入れるのに時間がかかっていた。
それほどの存在なのか。
「偶然、姓が一緒なのかもしれない。
身寄りもないから、俺の家で預かろうかと思ってたんだけど」
「それは構わない。しかし、もしその子が伝説の竜と関わりがあれば大きな騒動に巻き込まれるかもしれないぞ」
カザンは色々と心配してくれてたようだ。
「そうなった時はその時だ。
幸い俺には頼りになる仲間がたくさんいるし、なんとかなるだろう。
それにこんな不安げな顔のニーナの前で、そんな話はしたくない」
ハッとした顔でニーナを見るカザン。
ニーナを相変わらず俺の後ろに隠れていた。俺の裾を握りした手が震えている。
「すまなかった!
いかんな、最近色んなことがいっぺんに起こったから、臆病になっていたな。
マモル村にようこそ。何か困ったことがあったら、この守おじちゃんが何とかしれくれるからね」
カザンが慌ててニーナに謝罪する。
まだ三十五にもなってない俺をおじちゃん呼ばわりまでして。
え、おじさんじゃないよね?まだお兄さんだよね?
人知れず傷ついた俺とニーナ、ウルフの三人は家に帰った。
「パパ、おかえり!」
「守さん、おかえりなさい」
「マモル!」
玄関の扉を開けると、茜、マリアさん、シモンの三人が迎えてくれた。ここ最近、茜は簡単な会話なら出来るようになってきた。シモンはまだ単語が中心だ。
マリアさんは気にしてるようだが、成長は個人差があるし、男女での違いもあると聞く。そう説明すると、マリアさんは納得してくれた。
それにしても、帰った時に家に誰が居るってのはいい。しかもそれが大切な家族なら尚更だ。
「ただいま〜、これお土産」
茜とシモンにはガンテツ村で買ってきた鉄製のおもちゃを、マリアさんには後で二人飲むお酒とつまみを渡す。
最近、時間があればよく二人で飲むことが多くなった。子供達が成長し、授乳期も終わったマリアさんのお酒が解禁されたためだ。
どうしても家を空けることが多いため、その間に起きたことや茜の成長、子育ての仕方など子を持つ親の話題は尽きない。
ママさんグループが井戸端会議で長時間おしゃべりしているのも今なら理解できる。
子供の成長は本当に早いのだ。昨日出来なかったことが今日は出来る。明日はもっと上手に出来る。そんな事の繰り返しだから、喜びも悩みも尽きない。
「守さん、その子は…?」
マリアさんがニーナに気づいた。
「実は、うちで新たに預かることにした子なんだ。相談もなく決めてごめん。
どうしても放って置けなくて…」
「ニーナ、です。よろしく、です」
今度はちゃんとペコリをお辞儀していた。
「まぁ、私は、マリア。
よろしくね、ニーナちゃん」
マリアさんはニーナに分かるようにゆっくり話していた。言葉が堪能じゃないことが分かったようだ。
本当に優しい、母性が溢れて出ている。
「わたしは、茜です!よろしく!」
「おぉ…」
茜もちゃんと言えた!練習していた甲斐があったぜ。思わず俺が反応してしまった。
「えっと、あの、シモン…」
シモンは恥ずかしくて名前を言ったら俯いてしまった。
小さい頃って俺もそうだったと親から聞いたことがある。こういうのは練習すれば誰でもできるようになるからな。頑張れシモン!
「マリアさんにはまた色々世話になると思う。申し訳ないんだけど、引き受けてくれないだろうか?」
俺はその場で頭を下げる。
「もう、ダメですよ」
ダメか。
いきなりこんな事言われたら誰だってそうだような。ただでさえ今、小さい子供二人の面倒を見てくれているんだ。これ以上は大変だろう。
「ニーナちゃんの前でそんなことを言ったら、ニーナちゃんが気を使うでしょう?
もちろん、私は大丈夫ですよ。こんなかわいい子が増えたら、もっと張り切っちゃいますよ」
マリアさんは笑顔でニーナを受け入れてくれた。
俺とニーナは顔を見合わせて、互いに笑顔になる。幸せな雰囲気がその場を包んだ。
その後は満たされた時間が流れた。
この幸せがずっと続けばいいのにな。
異世界日記 1110日目
ニーナは村で受け入れて貰えることになった。
やっぱりマリアさんは聖母の生まれ変わりだろう。




