46話 竜人(ニ)
またまた途中で投稿してしまいました…修正しました
『鉄血武装』
巨大な質量を意識して鎧の上から血の筋肉を纏う。
体格でいえばゴーレムと遜色ない大きさだ。
赤いゴーレムの犠牲のおかけで正面から戦うのは得策ではないことは分かった。
俺は敵の振り下ろした拳をかわすと、手首を掴み、首に手をかけて地面に投げ飛ばした。これが柔道の試合からきれいな大外刈りで、一本勝ちだっただろう。
柔よく剛を制す。
倒れたゴーレムの腕を取り、関節を極める。そのまま力一杯ねじ切った。
さすがは痛覚のないゴーレムだ、悲鳴の一つもあげない。
片腕を無くしたゴーレムはうまく重心を制御出来ないようで、先ほどより動きが鈍くなった。これなら苦戦はしない。
「やっと片付いたな」
数十分後、背後にはゴーレムの残骸が積み上がっていた。
残すところ、あと一体。残りはウルフとガンテツに任せて問題ないだろう。
一仕事終えて、一息ついたところで何気なく残骸に視線を落とすと、無機質な石が怒りを表すかのようにかすかに震えていた。
すると、徐々に石同士が互いにくっつき、一つの形を作り始めた。
それは歪で、途方もなく巨大なゴーレム。
質量に耐えられず動くたびにボロボロと崩れ落ちる。それすらも意に返さず、侵入者である俺達に怒りをぶつけるかのように襲い掛かろうとしている。
出入口は一つ。
それを背にゴーレムが立ちはだかる。俺達の背には水晶とその中の少女。
必死にガンテツが水晶を削り、少女を助け出そうと採掘しているが状況は芳しくない。道具もない中での作業だ、当然である。
「…ウルフ、狼形態だ。暑いだろうが、辛抱してくれ」
「やれやれ、いつもの守の悪い癖が始まったよ。
しっかり捕まっててよ」
水晶の中の少女は再び目を瞑り、反応はない。
ウルフの背に水晶を乗せて、俺の能力で血のロープを作り出して固定する。
これで動き回っても大丈夫だろう。
戦闘は俺、真ん中はウルフ、殿はガンテツだ。
出口の前に立ちはだかる巨大ゴーレムは両手を広げていた。意地でもここを通さないつもりらしい。
「ゴオオオオオォォォォ」
ゴーレムが掌を地面に押し付けるように振り下ろしてきた。巨大な質量を前にしては殴打は必要ない。ただ頭上から降ってくる、それだけで驚異なのだ。
俺達は間一髪のタイミングで、ゴーレムの攻撃を躱すが、叩きつけの余波が俺達を襲う。出口は目の前なのに、やけに遠くに感じる。
俺が体勢を崩したところに再び叩きつけが襲ってくる。
まずい、避けられない。
景色がゆっくりと流れていく。
せめてウルフ達だけでもと、攻撃の範囲外へと蹴り出す。
目を瞑るが、その時はやってこない。恐る恐る目を開けると、先ほどまで水晶の中にいた少女がそこに立っていた。しかも、ゴーレムの攻撃を悠々と片手で受け止めている。
その少女は空いたもう片方の手で拳を作り、ゴーレムへと繰り出した。おそよ小さな手から想像できない衝撃がゴーレムを襲う。
「い、今のうちに逃げるぞ」
その場で、いち早く我に帰った俺は三人に撤退命令を下す。
俺は拳を突き出したまま静止していた少女を小脇に抱え、一目散に逃げる。
ウルフは遅れがちなガンテツを背に乗せている。後方から恐ろしい咆哮が聞こえた。
少女の一撃でも沈まなかったらしい。
逃走劇の先頭はウルフに交代だ。外の匂いを嗅ぎ分け、遺跡の外へと急ぐ。
俺はウルフの背中だけを見て、全力で走る。置いていかれないようにするだけでいっぱいっぱいだ。
突然、ウルフが反転し、唸りを上げた。
(気をつけて!ゴーレムだ!)
ウルフから念話で注意されるが、ゴーレムの姿は見当たらない。狼形態のウルフは人間の発生器官がないため、話すことはできないが、俺にだけ念話が使える。
「あっちから、くる」
小脇に抱えていた少女が右の壁を指差していた。
間を開けずに、轟音。
突然、壁が崩れた。
勢いよくゴーレムが飛び出した。
体のあちこちにひびが入っていて、動くたびに体の一部が崩れ落ちる。
俺達を追うために相当無理をしたようだ。
「わたしに、まかせて」
少女がゴーレムの前に立ち、腰を落とす。
深く息を吸い、吐き出す。
拳は作らず、肉食獣が爪を立てるように軽く指を曲げる。
一閃。
ゴーレムほどの巨体が文字通り宙を舞った。
激しい音に気を取られていたが、気づくと掌底を振り抜いた形で、少女は静止していた。
ーー竜の鍵爪
ガンテツがそう呟く。
神話の時代、王国を建国した初代王の時代、かつて竜はいた。
今では姿を見せないが、歴史の節目で竜は現れ、それに導かれた人々が時代を作ったとされている。
奇しくも、その少女は竜の一撃を彷彿とさせる攻撃だった。素性の分からない彼女を村に連れて帰るのは危険かもしれない。
しかし、娘を持つ親の身としては庇護を訴えるような目で見られてはその期待に応えたい。
「今のうち」
少女の一言で我に帰る。悩むのは後だ。
今はこの場を切り抜けるのが先決だ。
「い、急ぐぞ!」
吹き飛ばされて尻餅をついているゴーレムの脇を全力で駆け抜ける。
「やっと出れた…死ぬかと思った」
外の光を全身に浴びて、そう呟いた俺の感想にウルフとガンテツは全面的に同意してくれた。
とにかく村に帰ろう。
「そうだ、まだ名前を聞いてなかったな。
俺は守、こっちは相棒のウルフで、あのおっさんはガンテツだ」
おっさんと呼ばれてたガンテツが憤っているが、あえて無視する。
「ニーナ=リンドブルム。それしか、分からない…」
俯いたままの少女はたどたどしく、そう言った。
ちゃんと自己紹介できるいい子じゃないか。今は覚醒した衝撃によるものか分からないが、記憶がないらしい。まぁ、生活していればいずれ戻るだろう。
「リンドブルムじゃと!?」
どうやらもう一波乱ありそうだ。
異世界日記 1102日目
ゴーレムからの逃走劇を繰り広げた。
儚げな少女だと思ってたら、とんでもない大物だったのかもしれない
毎度の事ながら、カザンに何も相談してないな。
さすがにもう慣れただろう、何も言われないかも知れない。




