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異世界育児  作者: 葉山 友貴
第一章 育児奮闘・開拓編
45/91

44話 報告


今回は短めです。

急にアクセス数が増えて驚きました。


異世界生活 930日目


「王の入場である!」


 俺達は一矢乱れぬ様子で一斉に片膝をつき、頭を下げる。よし、完璧だ。練習した甲斐があったな。


「顔をあげよ。皆も楽にせい」


 見上げると、王座に座った王がいた。前回の謁見と異なるのは、王が前のめりになったいる。興味があるのを隠せないかのようだ。


「こたびは誠にご苦労であった。守の活躍は聞いておるぞ。

 秘密裏に潜入して敵の大将(ボス)を討ち取るとは、豪傑よのう!」


 王は嬉しそうに今回の成果を褒める。


「褒美を取らせよう。何か欲しいものはあるか?」


「王よ。恐れながら発言させていただきます。

 私が欲しいものは一つ。

 平穏な日常です。

 私には愛する娘がいます。どうかこの子が元気に、安寧に、成長することを心から望みます。

 具体的には、当初の予定通り街の建設の許可をいただきたい」


「ほう。それは余に世界の統一を望む、と言っておるか?」


 王の鋭い眼光が俺を直視する。

 そう取られたか。

 冷や汗が首を伝う。


「まぁ、よい。無欲な者だな。

 余が勝手に贈るとしよう。持ってまいれ」


 近衛兵から差し出されたのは、袋一杯の金貨。

 これだけでも数年分の稼ぎにはなるだろう。

 さらには、弓に、短剣、槍など様々な武器や防具もある。


「宝物庫に眠っていた装備だ。これらもやろう。有望な人材に使われた方がいいだろう」


 大盤振る舞いだ。

 同行したローズ達が浮き足立つ。

 日本人的な遠慮は、逆に無礼ととられるかもしれない。ここはありがたく貰っておこう。


「感謝いたします。この資金は街の建造に使わせていただきます」


 俺達は仕切りに礼を言い、退出した。


「さて、お前の目から見て、守はどう映った?

 王国騎士団長バルバトスよ。いや、バッカスと言ったか」


 王室の影から音もなく現れた人影。

 戦争時の汚れた格好ではない、手入れの行き届いた鎧を纏い、強者の雰囲気を漂わせた男だった。


「王までやめてくださいよ。バッカスは飲んだくれてた昔のあだ名でさぁ。

 守、アイツは面白い逸材ですな。一人で背負わすにはちと荷が重いが、優秀な仲間がいる。アイツの周りには不思議と集まってくるんですわ。

 王の頼みとは言え、アイツを裏切るような真似は今回ばかりとさせてください。俺も素直に気に入っちまったんですわ」


「ほほう。お前にそこまで言わせる者か。

 おもしろくなってきたぞ。紆余曲折あったが、ついに計画を進める時が来た。


 『勇者計画』を…」





 マモル村まで戻ってきた。

 懐かしい、ホッとする。

 過ごした時間は短いが、もうここが俺の故郷なんだと実感した。


「みんな、ただいま!」


 村の中央にはカザンやアンナさんを始めとする村人達や他の村の村長達まで駆けつけくれた。


「「おかえりなさい」」


 誰一人、死ぬことなく戻ってきた。

 本当によかった。

 みんなの笑顔を見て、気が抜けたからか涙が頬を伝う。


「なんだ泣いてるのか。お前はまだまだだな」


 カザンが奥から顔を出した。

 まだ完全にとはいかないようだが、負傷した足はだいぶ良くなったようだ。


「ちゃ、だ、いま!」

「おお〜」


 茜が元気に俺の真似をしている。最近意味のある言葉を話すようになり、ますますかわいさに磨きがかかっている。

 村のみんなも茜の成長に驚いていた。久しぶりに会った茜はかわいいだろう、限界を知らぬかわいさだろう。

 一方、シモンはというと、相変わらずマリアさんの後ろに隠れていた。まぁ人が大勢いると緊張するよね、分かる。シモンは慎重なところがいいところだからな。


「ところでだ! 毎度のことなんだが、見ない顔が二つばかりあるんだが…」


「あぁ、フォルカスとヴォルガのことか。

 えーと、こっちの小さいのが鬼族のフォルカスで魔族だ。そこのお気楽そうなのが太陽の民のヴォルガ。

 あと街の建造のために今後、太陽の民を移住させるからよろしく。それと俺、太陽の民の族長も兼任するからね」


 情報量が多すぎてパンクしているだろう。それが狙いだ。言いにくいことは一気に報告しちゃえの法則だ。衝撃が薄まるからな。


「「な…?!」」

「ふう」


 その場にいる皆はポカンと開いた口が塞がらない。

 カザンは流石に慣れている。

 遠征の度に人が増えるのだ、それもそうか。


「街の予定地に太陽の民を移住させるから、住居に関してはカザンに一任する。

 食料はコムギだ。どうしても足りない場合はこれを使ってくれ」


 俺は褒美として貰った金貨が詰まった袋から一掴み取り出して、コムギに預ける。


「こ、こんなに? これならなんとか…」


 コムギの視線が左右に忙しなく動く。今必死に計算しているのだろう。しばらくは声をかけずにそっとしておこう。


 受け入れの準備ができたら、迎えにはヴォルガとマントスに行ってもらおう。これでも空気は読める方なのだ。




 ガンテツの案内で街道の様子を見に行った。

 俺達が不在にしている間、だいぶ進んでいた。マモル村とガンテツ村だけが繋がれていた街道は四つの村を輪のように繋ぐところまできていた。

 要領が分かり、工事の効率が上がっているらしい。またガンテツとスミスのコンビが競い合うように工事用の道具を開発していることも大きな要因だった。

 後は、中心まで街道を伸ばせば、街道整備について一旦は完成だ。

 



 人が一気に増える。人が増えれば、活気が出る。商売をする者が現れ、活気はどんどん増していくだろう。

 俺は区画整理が済んだばかりの更地を目の前に期待に胸を膨らませていた。これからが大変なのは分かっている。しかし、希望を抱かずにはいられない。

 そんな守の様子を満月の月だけが優しく見守っていた。今宵は安らかな夜を。


 絶望はそう遠くない未来にやってくるのだから。


『この先、ボクが必ず殺しにくるからね』


 いつかの魔王の言葉が頭の中に反芻していた。


 


異世界日記 960日目

発展していく。そんな予感を肌で感じて、心が躍る。

それなのにどこか不安が残る。

茜が元気に育っていることで安心する。安全な未来のために頑張るぞ〜!


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