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異世界育児  作者: 葉山 友貴
第一章 育児奮闘・開拓編
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39話 撃攘

 異世界生活 845日目


 フォルカスと死闘の末、村に向かい入れることになった。フォルカスは全身が巨大な鎧で覆われていたため、砦に詰めていた兵士にはバレていない。

 しかも、額には小さなツノがあったため、獣人で通すことができた。道に迷って遅れて到着したドジっ子キャラという設定だ。

 兵士から生暖かい視線を向けられていると文句を言っていたが、こっちは死にかけたんだ。このくらいの仕返しはいいだろう。


 ちなみに、本当の種族は『鬼』らしい。

 可愛らしい鬼もいたものだ。一括りに魔族とは言っても、色んな種族がいるらしい。


 過去に魔王と会ったことがあると言ったら驚かれた。魔王とは一度手合わせして、手も足も出ずにこてんぱんにやられたことがあるらしい。

 フォルカスでさえ、その有様とはどれだけの強さなんだろう。あの時、抵抗しなくて良かった。

 フォルカスが魔王と会ったのはその一度きりで、魔王の側近は序列の上位者で固められている。魔族には序列があり、順位は絶対らしい。フォルカスの序列は下位のため、上位者の詳しい面子(めんつ)までは知らないそうだ。


 またフォルカスは、強さの秘密を教えてくれた。

 『魔素操作』というタレントを持っているらしい。俺の『血液操作』みたいな感じか?

 このタレントの能力により、魔素の量や質、形を自在に操ることであれだけの強さを手に入れることが出来た。強くなりたい一心で修練に明け暮れたらしい。可憐な見た目からは想像できないストイックさだ。

 フォルカスの話では、俺の魔素の扱いはなかなか上手らしい。素直に嬉しい。

 フォルカスから助言をもらいながら地道に鍛錬を続けていこう。千里の道も一歩からと言うしな。


 気になることを聞いてみた。

 戦いの終盤で口にした『ミレイア』という名前だ。

 実は、フォルカスもよく分からないらしい。何でも過去の記憶がない。

 魔族はみんなそうなのかと聞くと、魔族で親しい者がいないから分からないと。常に鍛錬して、一人で行動していたらしい。

 俺はもう少し優しくしようと心に誓った。




「暇だ。 訓練くらいしかやることがない」


 フォルカスに勝ってから、魔王軍の襲撃はパッタリと止んだ。

 最初のうちはこちらを油断する作戦の可能性もあり、気を引き締めて警戒にあたっていたが、今日で七日目だ。流石にダレる。

 今日も鬼教官のもと、魔素の訓練に励んでいた。


「だから違う!そうじゃない!

 こうもっと、ズバッとだ! なぜできない?」


 フォルカスは教えるのが破滅的に下手だった。本人は天才肌タイプなんだろう。

 一方で俺は凡人だ。とりあえず形から入って、反復練習により習得するタイプだった。


 習うより慣れろだ。実戦形式で教えてもらう。


 今日、何度目かになる爽やかな青空だ。

 俺は大の字で地面に転がされていた。

 あの時、本当によく勝てたな。

 模擬戦とはいえ繊細かつ素早い魔素操作は、もはや達人の域にある。


 俺は血液操作で赤い刀を作り出すと、魔素を刀に纏わせる。

 俺は今まで魔素は体内で消費したり、循環させたりと身体能力の強化にのみ費やし、外に放出したことはなかった。そもそも出来ると思ってもなかった。


 フォルカスに言わせれば、刀に纏わせれば強度や切れ味があがり、防具に纏わせると防御力が上がる。なぜ皆やらないのか不思議でしょうがないらしい。

 もっと早く知りたかった、カザンは知っていたのかな。これ物凄く難しいから、出来ないものとして認知されている可能性もあるな。


「守さん! 魔族軍を捕捉しました!」


 もう少しで何かコツが掴めそうだったが、ローズからの報告により訓練は中断される。


「よくやった。 どこにいるんだ?

 奇襲の準備か?」


「…いえ、魔王軍はマルボルグ要塞まで撤退しています。小隊規模で我々に悟られないよう慎重に移動していたようです」


「撤退してるのか!?」


「撤退だと? 誇り高き魔族の吟味は失われたのか!」


 俺よりもフォルカスの方が驚いている。というよりは怒っている。戦う前に逃げるというのはフォルカスの流儀に反するのだろう。


 疑問は残る。

 フォルカスがやられたとしても戦力的にはほぼ互角だったはすだ。むしろやや魔王軍が多いほどだ。少なくとも撤退するほどではない。



「今の魔王軍に私より強い者はいなかったからな。怖気付いたのだろう」


「フォルカスはそんなに強いのか!? 序列は下位だって言ってなかったっけ?」


「序列は総合力で決まる。

 軍の指揮能力、情報収集、隠密能力、魔法戦闘、格闘戦闘などだ。

 私は直接的な戦闘能力以外はからっきしだからな」


 えっへんと言わんばかりに小さな平たい胸を張っている。色々と残念な子だったのね。

 思わず頭を撫でていると、目を細め、どこか不服そうにしている。


「恐らく今回は敵が俺達の戦力を見誤ったことから、一時的に撤退したんだろう。戦力を整えたら再度進行してくるはすだ。俺ならそうする。

 これまで守勢に回っていたが、これはチャンスだ。

 少数精鋭で秘密裏に要塞に潜入し、敵の親玉を叩く!」


 この作戦は速さが肝だ。それ故の少数精鋭。


 俺はフォルカスと戦った部下達を集めるべく、再度招集をかけた。

 やはり一番はローズで、最後はマントスだった。

 フォルカスも同行するらしい。

 かつての同僚と一戦交えるから残留すると思っていたが、過去は振り返らないタイプとの回答だった。

 それよりも戦いが待ち遠しいと。

 とんだ戦闘狂だ。


 バッカスにだけ作戦内容を打ち明け、留守を頼んだ。


「死ぬなよ。帰ってきてうまい酒を奢ってくれ」


「そこは奢ってやるじゃないのか? 無理はしないさ」


 相変わらずバッカスだ。

 それでもいざとなれば頼りになることは分かってる。

 茜やマリアさん達の庇護をお願いし、深夜、俺達は静かに出発した。

 盛大な見送りはない。成功したとしても歴史に残らないだろう。

 それでも早く戦争が終われば、この先、安心して茜が、みんなが暮らしていける。

 それで十分じゃないか。


 まだ、辺りは暗闇だ。


 ローズとノノが先導し、後を着いていく。

 この暗闇でも獣人は夜目が効く。加えてローズは匂いでも警戒していた。

 フォルカスを見ると、何かやっている。

 目を凝らすと、微弱な魔素を体外に飛ばしていた。恐らくソナーのように検知が出来るのだろう。

 本人に聞いても要領を得ないから、推測でしかないが。魔素は応用すれば色々と出来そうだな。俺も精進していこう。

 人間組のゼオとテオの様子を気にかけると、二人はすっかり馴染んだように見える。マントスと冗談を言い合っていた。


 ネネはノノがサボらないように後ろにピッタリと張り付いていた。

 エキドナは俺のそばから離れない。若干距離が近いような気がする。ローズがチラチラとこちらを見て、集中してないが大丈夫か。


 マルボルグ要塞までは十五日間の道のりだ。

 一度補給のために途中にある村による。

 ひっそりと森の中にあり、ローズが偶然見つけた村らしい。トラブルの予感がするが、フラグになるので口に出すのはやめておこう。


 マルボルグ要塞は、元は魔族領と人間領の国境に沿って建造された要塞だ。

 不可侵の約束だったが、魔族側から一方的に反故にされ、要塞を奪われたことが戦争の発端だ。



 道中、ローズとノノにより極力戦闘は避けて移動できた。

 どうしても避けて通れない場合のみ速やかに排除した。エキドナの闇魔法で視界を奪い、ローズの会心の一撃(クリティカル)により魔物は声を上げる間も無く倒される。

 ネネの精神魔法で敵を混乱させている間に土魔法で一気に片付ける。

 後ろに控えていた俺達に出番が回ってくることはなかった。


 強い。

 小隊の規模でありながら、中隊クラスまで相手にできそうだ。


 斥候組のお陰で順調に進み、大森林の入口までやってきた。

 この中にある村で補給と休息をしたら出発だ。

 広大な森を抜ければ、マルボルグ要塞はすぐ目の前だ。





異世界日記 857日目

魔族にも順位があるらしい、世知辛い世の中だ。

もうすぐ要塞に到着する。

首謀者を倒して俺がこの戦争を終わらせてやる。

最後の休憩に村に寄る。

穏便に済めばいいのだが。


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