37話 砦(三)
異世界生活 838日目
ベヒモス撃退後に第二砦に戻ると、兵士達から熱い歓迎を受けた。
英雄の誕生だと胴上げされそうになったが、それは辞退した。
戦争に勝った訳ではないし、気が早い。終ってしまえばほぼ無傷での勝利だったが、紙一重の攻防だった。一歩間違えば、大怪我を負っていただろう。
ベヒモスが帰りがけに暴れたおかけで、両軍の戦力は拮抗していた。
斥候の調査では、
連合軍 四万五千
魔王軍 五万
となり、数の上ではいい勝負だ。
魔王軍は大半が操られた魔物とはいえ、半数近く戦力を失っていた。
これから魔王軍はなりふり構っていられなくなるだろう。戦ってみて、今までは種族の強さや戦力差による油断があったと思う。
今後、どんな策を講じてくるか予想がつかない。ここからが正念場だ。
第二砦でやれることはやった。
この場は連合軍に任せ、俺達の部隊は一足先に最後の砦ーー第三砦に移動しよう。
第三砦からは俺達の陣地が近い。
久しぶりに茜と会えた。
「パパー!ただいまー!」
「茜ー!ただいまはパパの台詞だ、おかえりって言うんだよ」
「おかえりー!」
懐に飛び込んできた茜をそのまま抱き上げて、グルグルと回った。茜が「キャハハ」と喜んでいる。
至福の時間だ。
マリアさんもシモンに会えたことを喜んでいた。
シモンは久しぶりにマリアさんと会えたのに、恥ずかしそうにモジモジしている。こう言う時に性格は出るよな。
楽しい時間は過ぎ去るのが早い。
この陣地を守るためにも、第三砦に戻って迎撃の準備だ。急がなくても、第二砦を破棄するにはまだ時間があるばすだ。
そんな時、伝令が焦燥した様子で軍議の間に入ってきた。
「報告します!第二砦が落ちました!!
至急、襲撃に備えたし!」
休まずに馬を走らせてきたのだろう。
フラフラと今にも倒れそうだ。休ませてやりたいが、詳しく状況を聞く必要がある。
「陥落だと?敵の数は?
あそこにはまだかなりの兵が残っていたはずだ」
バッカスは腕を組み、冷静に見極めるべく質問した。
「敵は一人です…。
圧倒的な強さで次々と兵を屠り、大隊長までも…。
奴は、いやアレは何なのでしょうか」
まるで夢でも見てきたかのような口ぶりだ。
王国軍の隊長でも歯が立たないとは、規格外過ぎるだろ。あの隊長は、頭が固い印象を受けたが、立ち振る舞いから弱くはないと思う。
「一人だと?! こんな時に冗談はよせ!」
貴族軍の隊長が激昂している。
王国軍の隊長は第二砦に残ったため、この場での指揮は貴族軍の隊長が担っていた。
「冗談なら…、夢なら、どんなによかったことか!
アレは散歩でもするかのように戦場を歩いてきたんです」
「罠は集団を想定している。そもそも強力な個に対して有効な罠は用意していない。こちらも最大戦力を当てるしか…」
貴族軍隊長のその言葉に軍議に参加していた者が一斉に俺を見る。
俺か!?
対応力という意味でなら俺が適任だが、単純な戦闘能力でいえばウルフの方が強いかもしれない。
そのことを言おうとすると、気がつけばウルフがいない。やられた。
仕方ない、ヤバそうなら逃げよう…。
「…分かりました。やってみましょう。
ただし、俺が負けた場合を想定して、準備だけは怠らないで下さい」
「おお、引き受けてくれるか! 承知した。我々も戦いに備えて準備しよう」
逃げる準備じゃないだろうな。物凄く嫌な予感がする。
俺はローズに目配せし、偵察の合図を送る。ローズは頷くと、誰にも気取られないようにその場を離れた。
伝令によると、襲撃まで残された時間は少なないだろう。今回は俺の部隊の精鋭で戦う。
話を聞く限り、俺一人で勝てる気がしない。
遠距離攻撃部隊からはゼオ、テオのコンビ。
魔法部隊からは、ネネ、ノノ、エキドナの三人。
歩兵部隊からは、マントス。
偵察部隊からは、ローズ。
もちろん相棒のウルフは確定だ。
各人に早急に準備するように声をかけると、ローズは既に準備万端だった。
常日頃からいつでも動けるようにしているらしい。頼もしい限りだが、もっと気楽にいこう。ローズは真面目すぎるところがある。
最後にマントスが揃うと、続いてバッカスの部隊がぞろぞろと入ってきた。バッカスも部隊の精鋭達を揃えてきたらしい。俺のバックアップに入ってくれるそうだ。
「お前が負けそうになったら、俺はすぐに逃げるからな」
口ではそう言ってるが、窮地には助けてくれるだろう。頼りにしている。大丈夫だよね?
※
遠目に人影がゆっくりと歩いてくるのが見える。
テオが長距離から弓矢で狙撃する。
弓から放たれた矢はまっすぐと吸い込まれるように人影へと飛んでいった。着弾する直前、空中で何かに弾かれたように矢が折れる。
何度も試すが、同じように見えない何かに阻まれ、結果は同じだった。
タレント持ちか、魔法かは分からない。
敵が視認できる距離まで近づいてきた。
頭から全身を覆ったフルプレートの鎧を身につけており顔は見えない。
次は、ゼオが矢を放つ。
矢は敵を大きく上方に外れ通りすぎる、次の瞬間、
「破裂草改!」
矢尻にくくりつけた破裂草の実を急成長させることにより、破片が地上に降り注ぐ。
品種改良により、以前より威力を高めたものだ。
頭上からの攻撃だったが、やはり見えない何かに阻まれる。敵は無傷のようだ。
間髪を開けずに、エキドナが魔法を放つ。
「闇魔法『闇の闇』」
黒い矢が敵を貫く。
魔法は当たるのか。これはエキドナが村に来てから覚えた攻撃魔法だ。
しかし、効いている素振りは見せない。ワイルドボアなら一撃で仕留めれるだけの威力はあるのだが。
敵はその歩みを止めるかなく、砦まで到着した。
全身鎧に身を包み、右手に持つ槍を地面に打ち付けた。
「我が望むのは強者との戦いのみ。
ベヒモスを退けた者よ。我と手わせ願おう。
もし断るならば、無理やりにでも出てきてもらうがな」
再度、促すように槍を地面に打ち付ける。
「俺が相手だ!」
マントスが勝手に砦から飛び出した。
「ほう、お前か…。少し期待外れだな」
全身鎧は見定めるようにマントスと対峙するとそう言い放った。
「期待外れかどうかはやってみないと分からんだろうが!」
マントスは激昂しながら、走り出す。
「待て!勝手に行くな! みんなマントスを援護だ」
「こいつは俺一人でやる!舐められたまま終わってたまるか」
こうなったマントスはもう誰の耳も貸さない。仕方ない。気のすむまでやらせてみて、危なくなったら手を貸そう。
マントスの武器は巨大な牛刀だ。
大柄な体躯から繰り出される一撃は岩をも砕く威力を秘めている。
そんな一撃を敵は巨大な槍で容易く弾く。
数撃、マントスが打ち込む。
それらをいなす全身鎧からはまだ余裕を感じる。
対してマントスは精一杯といった感じだ。
「なかなかだな。少しみくびっていたようだ。許せ。
お詫びに少し本気を出してやろう」
全身鎧の構えが変わった。体を開いた迎撃の態勢から、横向きの踏み込み重視のように見えた。
さらに、圧力が増している。近くで対峙しているマントスはより感じていることだろう。
次の瞬間、
全身鎧が消えた、ように見えた。
気がつけばマントスが宙に舞っている。
全身鎧は槍を振りぬいた格好で静止していた。
通り過ぎた地面から煙が上がっている。
勝負はあった。
助けに入る暇なんてなかった、マントスは負傷したが生きていた。殺されなかったという方が正しいだろう。
「ネネ、ノノ魔法で援護しつつ、マントスを回収。
エキドナはマントスを手当してくれ。
俺とウルフが前に出る。ローズは牽制して隙があれば攻撃だ」
俺達は即席のパーティーを組み、全員に指示を出す。改めて全身鎧と向き合った。
「ああ、いい感じだ。
真ん中のお主、変わった魔素を持ってるな。ここまで来たんだ、失望させてくれるなよ?
我が名はフォルカス、いざ参る」
全身鎧の構えがまた変わる。中段ー腰に構えていた槍を上段ー頭上へと持ちかえる。より攻撃的な構えなのだろう。
「俺は守。
子供がいるんだ、お手柔らかに頼むよ。
みんな行くぞ! ウルフ!」
ウルフに声をかけ、フォルカスの左右から同時に仕掛ける。まずは小手調べだ。
ウルフは人形態で、大剣で力任せに叩きつける。
俺は血液操作で作った刀で斬りかかる。
難なく槍の穂先と石突でそれぞれ防がれた。
フォルカスから高速の突きが放たれた。
的確に急所を狙ってきている。体を捻り、回避する。
ウルフが後ろに回り込み、上段から斬りかかろうとするが石突による連続の突きを受けると防御に転じた。
フォルカスは俺達二人を相手に大立ち回りを演じていた。
さらにローズが近づいたら離れたりと、牽制に対しても隙がない。
そして、フォルカスとの攻防はますます激しさを増していく。
続きます。
相変わらず戦闘は難しいです。




