36話 砦(二)
異世界生活 836日目
俺達は第二砦で魔物の進行を止めていた。
戦線が崩れた原因は、魔物の強さが一段階上がったことのようだ。
一人が持ち場を放棄し逃げ出すと、それに何人もの兵が続き、戦線が崩れてしまった。
マントス達は持て余していた。ローズ達の活躍を目の当たりにし、早く出陣させろと鼻息を荒くしている。
マントス達にはこの後、派手に活躍してもらう予定だ。歩兵部隊は近接戦闘のため、負傷する確率が最も高い。使いどころを見極めなければ大変なことになる。
「マントスの部隊の出番はもうすぐだ。出陣するまでに体を暖めておいてくれ」
「「ウォー!!」」
獣人達は雄叫びをあげていた。
魔王軍は飛び道具や罠にかかり、魔物の数を徐々に減らしながらも第二砦の近くまで進んでいた。
「ハァハァ、小賢しい人間どもめ。だが、これでネタ切れだろう。
あとは蹂躙するだけだ!進めー!」
魔物を従える魔族は号令を出すと、一斉に進行速度を上げた。矢の雨を潜り抜け、第二砦の門に到着した。
この第二砦には仕掛けがある。門は簡単に破壊できるようになっている。
門の先は迷路になっており、土魔法で組み替えが可能なのだ。
「ノノ!ほら出番だぞ!」
砦の上から魔族と魔物を確認すると、ノノに指示を出した。
「もう来たのかニャ?まだゴロゴロしていたいニャー」
ノロノロと準備に取り掛かる。
ネネを呼ぶぞと脅すと、急いで魔法を発動させた。
「土魔法『石の壁』ニャ!」
「なに?!」
石の壁が出現し、虎のような魔物に跨った魔族と先行していた魔物を分断する。
「待っていたぜ!」
分断した小部屋に、拳を打ち鳴らしながら、マントスを始めとする歩兵部隊が登場した。
「獣人風情が何人いても同じだ、この私にかかれば…」
「お前らは手を出すな!こいつは俺の獲物だ」
マントスが一人、走り出す。
何かの魔法を発動しようとしていた魔族を虎の魔物ごとぶん殴ると、まとめて吹き飛ばした。
「な、なんだその馬鹿力は?!」
直撃した虎の魔物は一撃で絶命したようだ。
魔物の下敷きになった魔族は、なんとか這い出ると驚愕の表情でマントスを見上げる
「あいにく、これしか取り柄がなくて、な!」
大振りのパンチを打ち込む。防御なんてお構い無しだ。
何度か拳を振るうと、魔族は泣きながら命乞いを始めた。
「ふん、口ほどにもねぇな。兄貴との戦いが恋しいぜ」
マントスは興味を失い、その場を離れる。
その後、魔物を操る術を解除させ、魔物達は迷路を組み替えて外に誘導された。この第二砦は指揮官である魔族と魔物を分断し、魔族のみを各個撃破する仕掛けが施されていた。
こうしてこの戦争で初めて魔族の捕虜をとることに成功したのだった。
貴重な情報源だ。この魔族にはこれから厳しい尋問が待っている。
尋問ではネネが大活躍だった。マントスに心を折られていた魔族はあっさりと精神魔法にかかった。
魔法の効果により、ネネを同僚の魔族と誤認し、ペラペラと今回の作戦のことを話してくれた。
今回の首謀者はハーゲンティという魔族だ。
魔族にも階級があり、ハーゲンティとは序列四十八番目に偉い魔族らしい。
四十八が偉いのか?なんとも反応に困る。
ちなみに宣戦布告をしたアムドキアスは、六十七番目だ。
トップである魔王と会ったことがあるから凄さがいまいち実感できないな。
その他に、あと一人見たことがないハーゲンティの部下の魔族がいるらしい。
敵の親玉が見えてきたな。
それにしても仲間達が有能だ。愛想を尽かされないように俺も頑張ろ。
※
「全軍退避ー!!」
連合軍の兵が紙切れのように吹き飛ばされている。
魔王軍の中から一際大きな魔物が唸り声を上げていた。捻れた二本の角を持つ、カバのようなサイのような姿をしている。その周囲には複数の魔族が水晶のような球を掲げていた。
あれだけ強力な魔物だ。服従させるのも大変なんだろう。ともかくこのままでは戦線が押し込まれてしまう。俺が出るか。
「ウルフ!」
「ここにいるよ。やっと出番が来たね」
砦の上で人形態のウルフと合流し、巨大な魔物を見据える。
「守、あの魔物…なんだか苦しそうだよ。
助けを求めてるみたいだ」
ビッグベアやケルベロスがそうだったように、強力な魔物には知性が宿る。どうにか服従の術を解除できればいいんだが、操っている魔族の数が多い。アレの攻撃をかい潜りながら、魔族を倒すのは困難だろう。
よく見ると、手足に鎖がついた腕輪がつけられている。あれを破壊すればいいのか。
「あの魔物ーーベヒモスは東の森の主だそうよ。気をつけて」
ネネが捕虜から聞き出したようだ。
主か、ケルベロスと同格と考えた方がいいな。
とにかくやってみよう。
人から狼に変化したウルフに跨る。突破力よりも素早さが欲しい。スレイプニルは留守番だ。
砦の上から垂直に壁を駆け下りる。ローズがやっていたのを見て、かっこいいから一度やってみたかったんだ。
一気に降りると、改めて魔物の巨大さが目につく。
ーーフシュウウウ、グルルルル
生暖かい息がこっちまで届いた。
互いから目を逸らさず円を描くようにゆっくりと回る。
どちらからともなく静止した時、唐突に戦いは始まった。
物凄い速さの応酬だ。俺が乗っているからとはいえ、ウルフとほぼ互角のスピードだ。ややこちらが速いか。
ベヒモスの剛腕が頭をかする。
直撃したら俺でも致命傷を受けそうだ。ウルフは俺が乗っているのを忘れてないよな?さっきからギリギリだぞ。
懐に入らないと決定打は与えられない。紙一重で避けながら、徐々に距離を詰めていく。
突然、ベヒモスがバックステップをして、距離をおいた。しゃがみ込んだ姿勢で、力を貯めている。
次の瞬間、無数の石礫が飛んできた。
逃げ道が、ない。
「『血武器創造-モデル:大鷲』」
すかさず風の腕輪を発動、翼に風を纏う。
間一髪、ウルフを抱えて空を飛ぶことで俺達は石の弾丸を逃れた。
出し惜しみしてる暇はなかった。
判断がもう少し遅かったら、仲良く体中を穴だらけにされていただろう。
この形態は魔素の消費が激しい。
さっさと決めさせてもらおう。ここからは陸と空からの挟み撃ちだ。
ウルフと分かれ、それぞれで攻撃を加える。少しずつ当たっているが、いまいち決めきれない。
「ウルフ、あれやるぞ!
『血武器創造-モデル:侍』」
再びウルフに騎乗し、能力を発動。
右手には一振りの真っ赤な刀が握られていた。
切っ先をベヒモスに向けて構える。
チャンスは一度きり。
ウルフは加速した。
ベヒモスとの距離が一気に縮まる。
ベヒモスの攻撃をすれすれで躱し、すれ違い様に斬撃を放つ。
元々は血で出来ている。刀身に制限がない変幻自在の刀だ。
「手応えはあった…どうだ?」
ーーガシャン
ベヒモスを拘束していた腕輪が真っ二つに割られていた。
ーーグオオオオォォォォ!!
大気を震わす堂々たる咆哮。
「ありがとう、だってさ。
あと東の森に来ることがあったら歓迎するって」
「今の雄叫びがお礼だったのか?!
魔族から開放されたならよかったな。
ついでにもう一踏ん張り暴れるか?」
ベヒモスがニヤリと笑った気がした。
そこからは一方的な展開だった。今までの鬱憤を晴らすかのようにベヒモスは暴れ回った。魔物や魔族が次々と犠牲になっていく。
辺りが暗くなったところで、俺達は砦まで引き返すことにした。
ベヒモスも誘ったが、魔族から解放した同郷の魔物を連れて、このまま東の森に帰るらしい。いつかの再開を約束して、俺達は別れた。
※
ーー魔王軍の陣営にて、
「アレが通用しないとはどういうことだ!?」
冷静なハーゲンティにしては珍しく激昂していた。
ベヒモスが攻略され、しかも自軍に無視できない被害が出たことで立腹していた。
「次は俺が行こう」
甲冑を着込んだ男が静かにそう言った。陣営の隅で槍に体を預けるようにして座っていた。
「おお、騎士フォルカスよ。
お主のことだから心配はしていないが、油断するでないぞ」
両手を広げながら大袈裟に話しかける。
「馴れ合うつもりはない。俺が求めているのは強者との戦いのみ。
今回は戦争があるから参加しただけだ」
そう言い残すと、その場を去っていった。
「く、生意気な奴だ」
「フォルカスの序列は五十番目ですが、単純な戦闘能力だけで言えば、上位の魔族にも匹敵します。
ここは寛大な心で多少の無礼は許しましょう。
彼が出れば、この戦争はこちらの勝ちですよ?」
アムドキアスはハーゲンティを嗜めると、これからの展開を予想した。
異世界生活 836日目
マントスの出番がやってきた。ストレスが溜まっていたみたいだ。
仲間達が有能だ。愛想だけは尽かさないでね。
ベビモス君というおっきな友達ができた。今度、遊びに行く約束をした。
このままの流れで攻めきるぞー。




