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異世界育児  作者: 葉山 友貴
第一章 育児奮闘・開拓編
34/91

33話 出征

 異世界生活 700日目


 王都から出征を依頼する手紙が届いた。

 いよいよ開戦だ。

 一度王都に集まり、出征パレードを行うようだ。王都の人々に見送られながら、出発するのも悪くない。


 それと、茜が二歳になった。

 足取りもしっかり歩くようになり、走ると結構早い。体の小ささも相まって、チョロチョロと動かれると捕まえるのに苦労する。

 言葉も発達してきた。前までは、パパ、ママ、モンモン、ワンワンと単語のみだった。

 最近では「パパ 行く?」 「ワンワン こっち!」など単語を組み合わせた二語文を話すようになった。流暢に話す日は近い。口うるさい誰かを思い出しそうだ。


 誕生日プレゼントは何をあげようか。一歳の誕生日は上げそびれたから、今回は忘れないように覚えていたのだ。

 日本なら、お人形とか、おままごとの玩具(おもちゃ)が思い浮かぶが、ここにはない。


 なので、作ることにした。おままごとで使うコップやお皿を木を削って作り上げる。玩具の野菜も作った。不器用なりに頑張ったと思う。日本で買ったら、木のおもちゃは高級品だからな。喜んでくれるといいんだけど。

 材料が残っていたので、シモンにも作った。剣と盾を二セットだ。マリアさんに怒られるかな?男の子なら、少しやんちゃなくらいが丁度いいってもんだ。



「ハッピバスデートューユー、ハッピバァスディ、ディア…、茜ちゃーん、シモンくーん!」


「ハッピバースデートューユー!! おめでとう〜!」


 ワー!!パチパチパチ!!


 俺とマリアさん、カザン夫妻、ローズを始めとする獣人に囲まれて、歌とプレゼントを贈られる二人。ケーキはなし。


 うちの方針で甘い菓子類は三歳まではあげないつもり。日本にいたら、ヨーグルトとかでケーキに見立てて作ってあげてもよかったな。まだ味覚が発達する前の時期に強い味を覚えさせたくないという親のエゴである。甘味よりごはんを沢山食べて欲しいからね。

 そもそもこの村で甘味はほとんど手に入らない。行商のビクトルさんから買うくらいだ。ビクトルさん自体も砂糖類は高くて仕入れは少ないそうだ。日常的に甘味を供給できれば一大産業として村は発展するかもしれない。色々と妄想が捗るが、取らぬ狸の皮算用というものだ。茜の誕生日に集中しよう。


「うにゅ? ねね これ!これ!!」


「これはシモンにあげたプレゼントだよ。茜はこっち」


「やーや!これ 好き!!」


「…!」


 茜はおままごとセットよりも、シモンに贈った剣と盾がお気に入りのようだ。武闘派なのね…。シモンは流されるままに一セットを茜に献上したようだ。茜は将来は夫を尻に敷くタイプだな。そしてシモンは敷かれるタイプだ。

 豪華な食事と仲間に囲まれて充実した誕生日だった。







 あっという間に村を出発する日がきた。

 広場には見送りのために各村から大勢の人が集まってくれた。

 各部隊ごとに整列し、向かい合う形になる。

 

「一、遠距離攻撃・後方支援部隊、三十名。隊長テオ、ゼオ。

 二、偵察・潜入部隊、十五名。隊長ローズ。

 三、魔法部隊、十五名。隊長エキドナ。

 四、歩兵・強襲部隊、三十名。隊長マントス。

 以上、総勢九十名! 留守を頼みます、行ってきます!」


 俺は声を張り上げて、一人だけ敬礼の姿勢をとる。

 他の者は自然体だ。しまった、こういう練習もしとくんだった。なんか締まらないけど、俺達らしくていいか。


「「いってらっしゃ〜い」」「お土産よろしくね」


 最後のはイズミだ。遊びに行くんじゃないぞ、全く…。イズミから受け取った餞別の酒はありがたく貰っておく。


「絶対に死ぬなよ」


 カザンは真面目な顔で送り出してくれた。分かってる、隊員を含めて死ぬつもりは毛頭ない。







 約一ヶ月をかけて、王都に到着した。

 王都までの旅路は順調だった。

 鼻息の荒いスレイプニルに馬車を引いてもらい、茜とシモンを乗せた。彼の鼻息が荒いのは、戦いの匂いを感じ取ったせいなのかもしれない。開戦すればスレイプニルに跨り、戦場を駆けるとしよう。

 この一団、辺境にしては過剰戦力だ。盗賊は襲ってこない。魔物が来ても興奮したマントス達に瞬殺されている。




 目の前に、各地から集結した兵士団が広がる。

 数万はいるだろうか。この兵力に比べれば、俺達の戦力なんて米粒だろう。いいさ、米粒なりの戦い方があるはずだ。



 王に到着のあいさつをした後、出征パレードが始まる。俺達も列の後に続き、道幅が広い通りを練り歩く。参道から激励の言葉はなかった。獣人を見た見物人達からは嘲笑と野次。


「こいつら、馬鹿にしやがって!…この野郎!」


 マントスが怒りに震えている。今にも飛びかかりそうだ。仕方ない。


 俺は、素早く血液操作と風の腕輪を発動させた。

 次の瞬間、大空へ羽ばたく。


「皆さん、私達はマモル村からやってきた『獣の騎士団』。暖かい歓迎、大いに結構!

 私達の手柄に、熱気と興奮の凱旋を楽しみにしていてください。それでは、ごきげんよう」


 周りを見渡しながら礼儀よくお辞儀すると、野次は止んでいた。相変わらず応援の声はなかったが。


「さすが、兄貴だぜ! すっきりした!」


 マントスは上手くガス抜きができたようだ。


「これで、もう引き返せないわね」


 エキドナからは脅される。

 最初から手柄を立てないと、町の建造が認められないんだ。引き返す気など毛頭ない。




 王都での説明によると、前線はここからさらに西へ、二ヶ月くらい進んだところにあるらしい。そして、前線に着いてから作戦会議が開かれるそうだ。


 長旅になる。他の部隊とも交流しながら、楽しく進もう。

 裏では、早速ローズ達偵察部隊に情報収集を依頼した。戦争において、情報は大事だ。逃げるにしても、情報収集は怠ってはいけない。それには味方の情報も含まれる。この大部隊だ、一枚岩ではないだろう。


 交流をしようとして、他の舞台に近づくと邪険に扱われた。あまり好かれてないらしい。出征パレードで啖呵(たんか)を切ったのが気に食わなかったようだ。

 ただ唯一、交流を持てた部隊がいた。


「よぉ、お前の意地見せてもらったぜ。 なかなか面白い奴だな! 俺はバッカスってもんだ。酒でも飲むか?」


 片手に酒瓶を持ち、千鳥足で近づいてきた。かなり酒臭い。

 部隊長バッカス、五百人規模の兵を率いていた。最初はなんで酔っ払いが…とは思ったが、色々と有益な情報を教えてくれた。こんなに簡単にしゃべっていいのか?

 まず、今回の作戦に参加している兵を分類すると以下のようになる。


 王国軍 二万

 貴族軍 二万

 その他勢力 一万


 俺達やバッカスは、その他勢力になる。有象無象が集まるこの中ではバッカスの兵数は多い方だ。

 王国軍と貴族軍の数が同数のため、力関係が微妙らしい。表向きは王国軍にしたがっているが、腹の中では受け入れていない貴族が多いのだとか。

 また、その二大勢力は派閥の取り込みに躍起(やっき)になってると聞き、どちらに着くべきか頭を悩ませていると、バッカスに笑われた。


「お前らみたいな、変わり者部隊を引き入れると思ってるのか? ガハハ」


 馬鹿にされているのだが、不思議と腹は立たない。

 本人はこんなだが、バッカスは部下達からも慕われている。

 ちなみに、バッカスは二大勢力のどちらに着くか聞かれたようだ。どう答えたんだと聞くと、


「美味い酒をたくさん飲ませてくれる方だ」


 本当にそう答えたらしい。

 双方から呆れられて、もういいと勧誘は無かったことになった。そんなことを言うのは大物か、大馬鹿者かのどちらかだ。恐らく後者だと思うが。


「そう言えば、俺の村と同盟を組んでいる村でも酒を作ってるんだ。 少し持ってきてるんだが、飲むか?」


「そういう大事な事はもっと早く言え! 飲むに決まってるだろ!」


 バッカスから()かされる。

 イズミ村産の酒を取り出すと、瓶ごとラッパ飲みをされた。ちょっ、俺も飲みたかったのに!


「プッハァ! なんて美味い酒だ!! 俺は今日から、マモル派だぁ!」


 そのままいい感じに出来上がったバッカスは上機嫌で帰って行った。酔っ払いの戯言として受け取っておこう。



 ローズとノノから報告を受けた。

 ノノは、だらけ切っていたため、密偵として働かせておいた。これが案外いい仕事をした。懐に入るのが上手いのか、皆口滑らせて話すことが多い。

 ローズは部隊幹部のところに潜入し、会話を盗み聞きしてきたと。スパイみたいでかっこいい…けど、結構危なくない?


 まずは味方の状況だ。

 これはバッカスから聞いた話とほとんど相違が無かった。初耳と言えば、王自身は同行していない点だ。

 今回は王の肝いりの作戦のはずだ。王の性格からすると、自身が同行しないと気が済まないのではないか。

 王が不在ならば、王国軍の士気の低下にも繋がる。実際、ノノによれば王国軍の兵士から不満も出ているらしい。

 次は、バッカスの人となりを聞いた。彼は農民の出身でありながら、部隊長の地位まで上り詰めた叩き上げだった。

 普段は複数の町の警備や傭兵業もやっているらしい。抜群に指揮が上手く、戦況を読むのに長けていると周りからの評判は高かった。人を見かけで判断してはいけないんだな。ただの呑兵衛(のんべえ)だと思った、反省。

 最後に、敵の情報だ。俺が知っていることは敵が魔王軍ということだけだ。規模やどんな敵かなど、何も知らないのだ。

 これについては情報が錯そうし、まともな答えを持っている人物は居なかったらしい。それもおかしな話だ。

 引き続き情報収集を続けてもらおう。


「まだ終わらないのニャ〜」


 やっとダラダラできると思っていたらしい。働かざるもの食うべからずだ。ネネに言うぞと脅せば、あいあいさーと飛び出していった。ネネは怒らせると怖いのか…、覚えておこう。




 その後は、バッカスと一緒にいることで徐々に他の隊とも交流することができた。

 あと、茜を世話してると、声をかけられたりもした。子供の話題は万国共通だな。


 そうこうしているうちに、二ヶ月をかけて前線基地に到着した。



 開戦の日は近い。




異世界日記 800日目

茜が二歳になった。大きくなった、泣きそうだ。

この世界に飛ばされてから、なんとかここまでやってこれた。

泣いてなんていられない、これから戦争が始まる。

茜を連れて行くとは思わなかったけど、長い間離れるのは寂しかったんだ。それはありがたい。戦場での癒しになるだろう…。

もしかしたら、赤ちゃんの笑顔で戦争も止めれるかもな。いや本当に。それくらい天使。


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