32話 編成
異世界生活 615日目
獣人達の生活が安定してきた。
食料を確保し、警備の仕事に組み込むことができたためだ。
偏見や差別も思ったより少ない。後は時間が解決してくれるだろう。
さて、そろそろ出陣の準備をしなくては。
ウルフと二人だ、すぐ終わる。
茜と離れるのことになるのが寂しい。その間、誰かにお願いしないとな。
茜も懐いているし、マリアさんに聞いてみようかな。
そんなことを考えながら、警備隊の詰所を訪れると、
「守さん!戦争のこと聞きました。 俺たちも連れて行ってください」
「俺もお願いします」「俺も!」「私も!」
ゼオやテオといった若い衆を始めとする隊員達に囲まれた。活気盛んな若者達だ。
「お前たち…、戦争は危険だ。死ぬかもしれない。あのカザンが只事じゃない様子だった。 …俺も経験したことがないんだ」
想像ができないから怖い。
カザンは従軍したことがあるような言いぶりだったが、詳しくは語らない。相当に悲惨だったんだろう。
「俺たち、ケルベロスの時は何も出来なかったことが悔しいんです。
それにこのまま何もしないと魔王軍がやってくるかもしれないんですよね?!もうあんな思いはしたくないんです!!」
若者達の決意は固いようだ。
むむむ、どうしようか。
遠距離、後方支援部隊として運用すれば比較的安全か?しかし、戦場では何が起こるか分からない。
追って連絡するとだけ言い残し、俺はその場を離れた。今度は獣人達の様子を見に行くためだ。
「守さん!」「兄貴!」「守」
「「「俺達も戦場に連れて行ってください!」くれ!」くれない?」
「お前らもか!」
ローズやマントス、エキドナまで名乗りを上げた。それに何十人もの獣人が追随する。
「危険、なんだぞ?」
「分かってます。危険だからこそ、守さんの側に居たいんです。 集結の儀はそういう覚悟で行ったんです!」
ローズ達の決意も固い。頑固な奴らだが、その気持ちは素直に嬉しい。
ええい、こうなったら決戦の日まで徹底的に鍛え上げて、生存率をあげるしかない。
思った以上に有志が集まってくれた。俺を慕ってくれて嬉しいけど、嬉しくない複雑な心境だ。
部隊を編成しよう。
まずは、運用別に四つの部隊に分ける。
一つ、遠距離攻撃・後方支援部隊。
これは、テオとゼオを筆頭に警備隊を割り当てよう。二人の若い指揮官は順調に育っているようだ。
ウルフの話だと、魔の森でワイルドボアを討伐手前まで追い詰めたらしい。その時からさらに鍛えて強くなっていることだろう。
二つ、偵察・潜入部隊。
ローズを隊長として、偵察向きの獣人で構成する。
ローズは元々偵察、潜入に向いたタレントを持っていた。犬人族のため、人よりも鼻が効く。
しかも、獣人の子供達だけで盗賊業までやっていたんだ。統率力もあるだろう。隊長にピッタリだ。
三つ、魔法部隊。
エキドナが隊長だ。魔法適性の高い猫人族などの獣人で構成する。
エキドナは闇魔法が使える。相手の動きを阻害したり、視界を奪ったりと補助的な魔法が多かった。それは本人の性格、資質、願望に起因する。
今回、故郷となる村に定住することで、心境の変化があったらしい。また、今までは独学だったが、初めてまともな指導者から教わることで、次々と攻撃魔法を覚えていった。ちなみにエキドナの先生はアンナさんだ。
四つ、最後は歩兵・強襲部隊。
隊長はマントスだ。
元々、ゴロツキを纏めていただけあって、集団を動かすのがうまい。部隊を構成する隊員も、元々マントスの部下だった獣人や各村の腕自慢や力が有り余ってる者など荒っぽい人材が多い。マントスが適任だ。
今後は、この四つの部隊の役割に沿った訓練をしてもらう。
魔法部隊の指導者はアンナさんしかいない。
カザンは魔法が使えない。俺は魔石を介して魔法を使うが、タレントとしては使えない。
以前、王国の魔法部隊に所属していたらしいアンナさんは適任だ。
魔法部隊のエキドナ達に混ざり、マリアさんが訓練に参加している。普段の生活魔法に磨きをかけたいのかな?もう十分な気もするが…。
その他、三つの部隊は主にカザンが指導する。
俺は横から口を出すが、それをカザンが具体的な技術に落とし込んで説明してくれる。
実に有能な指導者だ。長年、狩人を育て上げて来ただけはある。しかも王国で部隊長をやっていたんだっけ?人は見かけによらないものである。
俺は、技術的な指導はできないが、これだけは常々伝えていた。
『絶対に死ぬな。 負けそうになったら、尻尾を巻いて逃げろ。 尻尾がない者は踵を返してとにかく逃げろ』
尻尾のくだりは笑うところなんだが、みんな真面目な顔で真剣に聞いてくれる。すべった。
こうして訓練の日々は過ぎていった。
俺はケルベロスの魔石を預けていたことを思い出し、フロールの町までやってきた。
まずは魔石屋に顔をだす。
「たのもー!」
「守ね、ちょうど良かったわ。
ケルベロスの魔石が出来上がったところよ。一緒にノノのところまで行きましょ」
すっかり常連だ。
ネネの仕事が一区切り着くまで待った。それから店を一旦閉めて、宝飾屋を営むノノのところへ向かう。
「たのもー!」
「フギャ!びっくりしたニャ! なんだ守かニャ」
「ノノ、ケルベロスの魔石を渡してちょうだい」
「…分かったニャ。こいつは大変だったニャ…、これがタダなんて…」
ノノは、勿体ぶりながらカウンターに真っ黒い宝石を置く。
なんだこれは…?宝石の奥がゆらゆらと揺れているようだ。もっと見ていたい。
見ていると吸い込まれるような錯覚に陥る。
「慣れるまではあまり見つめちゃダメよ」
ネネは宝石を手で覆い、守に注意を促す。
宝石は人を魅了する力がある。高価な強い宝石であれば、その力を増す。
ノノの見た目はこんなだが、もの凄い装備を作り出したんだな。しかも、この宝石も魔法を発現したらしい。
ネネからは味方が近くにいる場所では絶対に使わないようにとキツく忠告された。今度、魔の森辺りで試してみよう。
「守!前に作ったその腕輪…見せてもらうニャ!」
ノノは守から腕輪をひったくると、詳しく鑑定している。
「完璧だニャ…、この腕輪は誰が調整したのだニャ?」
「確か、ニニだったか。お前の姉って言ってたぞ」
「武者修行の旅に出てるニニ姉かニャ!?
昔からなんでも器用に卒なくこなしていたけど、ここまで腕を上げていたとはニャ…」
腕輪を眺めながら、ブツブツと呟くノノ。ニニとは姉妹って話、嘘ではなかったんだな。
「そういえばあなた、戦争に行くのでしょう?
私達もついて行くわ。 私達は魔法が使える。連れて行って、損はないはずよ。
ちなみに、ノノは斥候も出来るわよ」
「ノノも行くのかニャ!?」
事前に話し合っていないのか、ノノが目を見開いて驚いている。しっかりしてそうに見えて、ネネは人を振り回すタイプなのか。
「さすがに耳が早いな。
同行してくれるなら非常にありがたいが、どうしてただの客にそこまでしてくれるんだ?」
「こちらの事情よ。 強いて言うなら趣味ね。
…戦いによって原石が研磨される瞬間は見逃せないもの、フフフ」
危険な匂いを感じる。これ以上追求するのはやめたおこう。
とにかく、これで人材が揃った。
ノノは斥候もできるらしいが、ローズの偵察部隊に組み込むよりはネネと一緒にいた方が真面目に働くだろう。魔法部隊に組み込むこととしよう。
最後に、茜の預け先を考えないと。
マリアさんの自宅に向かう。
「あら、守さん、茜ちゃん。こんにちは」
「マリアさん…今日はお願いがあってきました。
俺が戦場に行っている間、茜を預かってくれませんか?」
「…それはできません」
「そ、そうですよね? すみません、好意に甘えすぎました」
いつもニコニコして、引き受けてくれたから断られるとは思ってなかった。甘え過ぎていた。戦争となれば数日で終わらない、数ヶ月、下手をすれば年単位でかかるかもしれない。今までが異常だったのだ。シモンもいるし、ニ、三歳の子供二人の世話は本当に大変なのだ。
「私も、戦場について行くからです」
「え?」
ん?よく聞こえなかった。
まさかついてくるって言った?
「そのためにアンナさんから魔法を習っています。 守さんのそばを離れたら、また大怪我をするに決まってます! 私が見張ってないと」
ニッコリと笑顔のマリアさん。ついてくる気らしい。しかも、決定事項かのように話している。交渉の余地なしのようだ。
「えー!!シモンはどうなるのですか?! カザンに預けるのですか?」
マリアさんの息子シモンも茜と同じくらいの月齢だ。二歳くらいとはいえ、いつもマリアさんにベッタリだ。
「もちろんシモンも連れて行きますよ? カザンさんから聞きました。 戦場には後方に陣があり、そこは比較的安全だと。
守さんも茜ちゃんを連れて行ってはいかがでしょうか」
なんと!
カザンめ、余計な入れ知恵を…。俺も茜と別れるのは寂しかったから、素直に嬉しいが。これで成長も見守れるな。
本当に安全なのか、カザンからきっちりと聞き出さなくては。
マリアさんは魔法部隊に加わってもらう。
アンナさんの指導の元、最近はメキメキと腕を上げているらしい。
魔法部隊の層が厚くなってきた。
こうして、各部隊ごとに厳しい訓練を行い、準備に奔走した。
戦争の足跡はそこまでやってきていた。
異世界生活 690日目
戦場には俺とウルフで行くつもりだったが、どんどん増えて部隊を四つ編成するほどになった。
マリアさんの参加には驚いた。怖い笑顔にモードになったら逆らえない。
そう言えば、もうすぐ茜の二歳の誕生だ。




