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異世界育児  作者: 葉山 友貴
第一章 育児奮闘・開拓編
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02話 探索、邂逅

 異世界生活 2日目開始。


 おはよう。気持ちのいい朝だ。


 昨日の観測の結果、十八時くらいから外が暗くなり始めた。日本でいう夏頃と考えていいだろう。

 この世界に四季があるかは分からないが。


 抱っこ紐を装着し、娘ちゃんを前抱っこする。この抱っこ紐はおんぶも出来るし、ニパターンの、前だっこも出来る優れものだ。赤ちゃんが対面ではなく、前を向いて抱っこできる機能は最近の抱っこ紐じゃないと出来ないらしい。


 背中には遭難したときのために三日分の水と食料を入れたリュック。バットをリュック横に差し、両手は空いた状態にしておく。


 ウルフも連れて行こう。両手を空けるためリードはなしだ。ウルフには斥候の役割をやってもらおう。なんかそれっぽくなってきたんじゃないか。じとっと不満そうな視線をされたが、本人はやってくれるみたいだ。今、ため息ついた?気のせい?


 完璧だ。


 いや、ちょっと待て。

 初対面でこの格好は怪しくないか?頭になにか被り物でもやったほうがいいか。

 ふと、オムツが目に入る。試しに被ってみた。

 おお、頭の防具にもなって、相手の警戒心を解く一石二鳥…な訳あるかい。

 立派な変態戦士の出来上がり。


 まずは北から始めていこう。

 前に転んだら娘ちゃんが潰れてしまう。

 慎重に森の中を進む。

 営業で鍛えた脚力を見せてやろうじゃないか。


 三十分後、自宅に無事帰還。

 収穫はなし!

 まーバテた、物音にビクビクしながら慣れない森を歩く辛さ。変に力入っちゃったよ。こちとら都会っ子なんだぞ。

 娘ちゃんがすやすやなのが救いだった。


 生後一カ月頃は「ふええ」みたいな可愛らしい泣き声だったが、最近の本気泣きは「おぎゃあ」と結構な声量が出ることがある。

 もし森の中で泣き出したら大変だ。

 昨日聞いた遠吠えが頭をよぎる。


 ウルフも斥候お疲れ、ほれドックフードだ。休憩後、今度は南に行ってみよう。



 南に進む。相変わらず歩きずらい。

 お、食べれそうな木の実を発見!さらに、あっちにはリンゴのような果実を発見!採取!!そそくさとリュックにしまう。アイテムボックスなんて都合のいいものはない。もしかしたらこの世界にはあるのかも知れないが、俺は知らない。

 とにかくこの方面は調子いいぞ。心無いしかウルフ隊長の足取りも軽い。


 三十分後、帰宅。

 今回採取した木の実と果実の検証は夜にやるとしよう。小休憩後、次は東だ。暗くなるまでに全方向を攻めたい。

 と、その前に少し時間が早いが、そろそろミルクを飲ませておこう。


 東に進む。また果実を発見。やっぱり調子いいぞ。

 今度はマンゴーのような形だ。しかし、人にもモンスターにも会わないなぁ。人恋しくなってきた、モンスターでいいから遭遇したいものだ。

 ウソ!フラグではない、断じてない。娘ちゃんはすやすやと眠っている。このまま起きないでね。


 帰宅、小休憩。

 次で最後だ。


 西向けて出発する。歩き始めた途端、すぐに違和感がやってきた。ウルフが鼻をしきりにヒクヒクし始める。

 ウルフを先導させ、慎重に後をついていく。


 突然、視界が開けると川辺が現れた。


 やった!水だ!ついに見つけたぞ!



「グルルル」


 すぐに駆け出そうとしたところで、ウルフが唸り声を上げた。


 声を上げそうになった口を両手で塞ぐ。


 川辺には二つの人影があった。


 十歳の子供くらいの身長だが、肌は深緑色をしており、醜いその顔はとても人間とは思えない。

 棍棒のようなものを持っており、腰にはボロ布を身にまとっている。まさにゲームそのままの姿。


ーーゴブリン



「おぎゃあ、おぎゃあ!」


 そしてこの最悪のタイミングで、娘ちゃんによりフラグが回収される。


 その瞬間、二匹のゴブリンが一斉にこちらを振り向く。

 自然と体がに動いた。


「ウルフ!いけ!」


 ウルフをけしかけている間にリュックを脱ぎ、敷物にして娘ちゃんを優しく置く。

 直後、バットを両手で握りしめて全力走り出した。


「うおぉぉぉ!」「ワンワン!」

「「ピギャー」」


 渾身の一撃は運悪くゴブリンの持つ棍棒に防がれる。

 間を空かずに次の一撃をがむしゃらに繰り出す。


 一匹、吹っ飛ばした。


 もう一匹のゴブリンを探すと、ウルフが牽制しているところだった。

 いいぞ、ウルフ。

 帰ったら、とっておきの缶詰を開けてやるからな!


 その時、ゴブリンと目が合った。ニヤリと不気味な笑みを浮かべる。

 すると、ウルフには脇目も触れず、娘ちゃんの方へ走り出したのだ。くそったれ!!間に合わない。


 選択肢なんてなかった。

 手に持っていたバットを思いっきり投擲。

 ゴブリンの頭に命中し、転倒する。


 すかさず、ウルフがゴブリンの喉に噛みつく。


 おま、今日のMVPはあんたよ!


 ガサッ。


 物音がした方へ振り向くと、先ほど吹き飛ばしたはすのゴブリンが棍棒をめちゃくちゃに振り回しながら、駆け出してくるところだった。


 さっき吹っ飛んだゴブリン、まだ動けたのかよ!


 手元には何もない。投げたバットまでは数歩の距離がある。

 反射的に逃げ出しそうになる体を理性で押さえつける。


 怖い。でもここで逃げたら、娘ちゃんはどうなる?

 彩夏に約束したんだろ?守るって。


 娘ちゃん…。(あかね)は、俺が死んでも守るんだ!

 視界がスローモーションになる。


 茜…、彩夏と考えた名前だ。


 産院から見えた茜色の夕焼けからとった。赤ちゃんを抱きながら、彩夏と見た綺麗な景色は今でも鮮明に思い出せる。


 覚悟は決まった。力が漲る。来るならきやがれ。


 ゴブリンの棍棒から急所を守るように両手を交差する。




 ーーカンッ!



 甲高い音が響き渡る。

 痛みは…ない。

 それに衝撃もない。

 あれ、今ゴブリンに殴られたよな?

 目の前のゴブさんも首をかしげている。と、思ったらまた殴ってきた!とっさに目をつぶる。


 ーーカン!


 痛くない…。

 これは…勝ったんじゃない…?よく考えれば、ゴブリンってゲームの最初に出てくるザコ敵の位置付けだよな。

 怖がって損したぜ!さっき茜に向かって行った時はさすがに焦ったけどな。そのお礼はたっぷりしたやるぜ、ワハハー!


 ゴブリンから棍棒を没収し、お礼にとばかり滅多打ちにする。

 おし、倒した。茜を狙う不届きものには、あたしゃ容赦しないよ。

 ゲームだったら、ここで消えてお金とか残るんだけど…。何も起きない。


 すると、ウルフが倒したゴブリンの腰布を噛みちぎる。

 おいおい、そんな汚いものに触るのはやめなさい。戦闘で気が昂っているのか。


 ん?なんだあれ…?

 ゴブリンのヘソあたりに光る石のようなものが埋め込まれていた。

 ナイフで取り出すと小さな水晶のようだった。不衛生だし、後で洗おう。

 何かに使えるかもしれないし、もう一体のゴブリンからも取っておこう。水晶×2と棍棒×2を手に入れた。




 この戦いで分かったこと。

 ゴブリンからの攻撃は不思議な力が働き、俺には効かなかった。

 それが超能力によるものなのか。

 それとも、ステータスのような強さを示す指標があり、俺の方が高かったからなのかは分からない。ウルフは攻撃を受けてなかったしなぁ。

 うーん、情報が足りない。


 今日のところは帰ろう、疲れた。

 帰るまでが探索だ、気を抜かずに頑張ろう。

 なんとかなって本当によかった。

 ただ、今後茜を連れて探索は出来ないな、危険すぎる。




異世界日記 2日目

初めての異世界探検。

木の実、水場、水晶、棍棒ゲット。

茜に危害を加えるものは何人たりとも許さん。

名前の由来は、産院からみた茜色の夕焼けなんだ。


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