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異世界育児  作者: 葉山 友貴
第一章 育児奮闘・開拓編
29/91

28話 因縁(一)

 異世界生活 516日目


 旅の仲間に犬人族の女性ローズを加え、一つ目の町『クリフトロック』までやって来た。


 ここは切り立った崖の上にある町だ。

 入口は一か所のみ、崖に囲まれた天然の要塞だ。建物自体も岩を削ったり、洞窟を利用したものが多い。


 まずは獣人の子供達に分け与えた食料の補給と休息が必要だ。毎日野宿だと、やはり疲れは溜まる。

 マリアさんや茜達を休ませたい。

 まずは宿屋を確保しよう、買い出しはそれからだ。

 ちなみに、ウルフは人型に変化してもらっている。

 荷物持ち要員だ。




「うちは獣人お断りだよ、他をあたりな」


 冷たく突き放すような言い方だ。

 ローズを連れていると、いくつかの宿から断られた。


「アタイのせいで…、ごめんなさい」


 犬耳がペタンと折り畳まれている。


「ローズは何も悪くない。

 まずはフードを買いに行くか。かわいいのを買ってやろう」


「守〜!!」


 尻尾を振り回している。嬉しいんだな、分かりやすい。

 ローズは雑貨屋に入り、気に入ったフードを一つ選ぶ。見せびらかすように被ったり脱いだりを繰り返してる。

 似合ってるぞと、声をかけると顔を赤くして下を向いてしまった。


 通りの奥から獣人の集団がやってきた。

 町の人が迷惑そうに道を空けている。誰も目を合わせない。

 様子がおかしいが、町にも獣人がいるじゃないか。


「そこにいるのはローズじゃねーか!

 調子はどうだ? 一緒にいるのはカモか?」


 集団の先頭にいた大きな体に頭から牛の角を生やした獣人がローズに声をかけて来た。ニヤニヤと不快な笑みだ。


「…アタイはそういうのから足を洗ったんだよ。アタイの恩人に気安く話しかけないでおくれ」


 ローズは煩わしそうに手を払う。


「なんだと!?」


 軽くあしらわれたことに腹を立てた牛の獣人は、ローズに突っかかろうするが、黒服の女性は遮るように手を伸ばした。


「おやめなさい。 あなたじゃ返り討ちよ?」


「姉さん!止めないでくれよ! 俺がこんなヒョロっちい男に負けるわけないだろう!」


「エキドナ…あんたそんな奴らとつるんでるのかい? 悪い事は言わないから、すぐ抜けな!」


 エキドナと呼ばれた女性は、ローズと古い知り合いのようだ。他の獣人よりも距離感が近いような気がする。一見普通の人族に見えるが、獣人なのか?


「あら、私の心配をしてくれるの?ありがとう。

 でも、あなたなら分かるでしょう? マントスには逆らえないってことくらい…」


「マントス…?」


 ローズは諦めたような顔で、ため息まじりにある獣人の名を口にする。マントスという奴が黒幕か?


「マントスがこの町に来てるの!?」


 ローズが焦っている。そんなにヤバいやつなのか?


「さっきこの町を出たわ。 もし王都を目指してるのなら、次の町で鉢合わせするかもね」


 安堵するローズだったが、雲行きが怪しくなってきた。鉢合わせする可能性は高いようだ。


「守、その…マントスなんだけど…」


「言いにくいだろうから私から説明するわ。

 マントスはローズに惚れているのよ。猪の獣人で、怪力。困ったら暴力で解決する奴よ。

 ローズが男とーーそれも人間の男と一緒にいるところを見たら怒り狂うでしょうね」


 ローズの知り合いだったのか。

 しかし、厄介なことになった。今の話を聞く限り、マントスに話は通じなさそうだ。


「うぅ…、嫌だ。 絶対に会いたくない…」


 ローズは頭を抱えている。町を避けては王都へは行けないし、必ず遭遇することもないからな。

 行ってから考えよう、その時はその時だ。

 それよりも気になることがある。


「ま、なんとかなるでしょ。 それよりも、一つ聞いていいか?

 エキドナは好きで今の一味にいるのか? 悪さが好きなのか?」


 乱暴者の集団の中で、一人だけ浮いているというか馴染んでない雰囲気がある。


「嫌いよ。 でも、生活するにはお金が必要なのよ…」


 後悔しているのだろう、視線を落とし声が小さくなる。


「…分かった。 全部まとめてなんとかしよう!」


「え?」「え!?」「あーあ、また守の癖が始まった…」


 エキドナとマリアさんが顔を見合わせて驚いている。

 ウルフはさすがに慣れてきたな。

 獣人、動物の要素が入っていると無性に放っておけなくなる。

 エキドナは頭に角は無く、目立つ尻尾も見当たらないが、黒の長袖から見え隠れする肌は鱗のような模様が見える。なんの獣人なんだろう、ワクワクする。





 エキドナには信じられなかった。

 会ったばかりの人、しかも獣人の身の上を心配する人間がいるなんて。

 しかも、その目に侮蔑の感情はない。興味や好奇心といった好意的な様子だ。


 ローズが羨ましい。

 あの子は昔からの自分の感情に素直で、まっすぐで、眩しかった。



「言葉だけでも、嬉しいわ。 そんなこと言われたの初めてだったから…。

 でも、ローズのことを思うなら、マントスに会わないように行動すべきよ。マントスに、一人の人間がかなうはずがないわ」


 エキドナは自ら希望を手放した。

 ローズと、守と笑い合っている未来。

 一瞬でもそんな夢を見れただけで満足だった。


「とりあえずやってみるよ。 負けそうになったら逃げるから、大丈夫さ。 ウルフの逃げ足はピカイチだからな」


「ワン!人をー犬を、あてにするな!」


 ウルフから的確なツッコミが入り、場が和む。



 エキドナ達もこの町を出るところだったらしい。

 この日はエキドナに紹介してもらった宿で一泊し、翌日、町の入口で待ち合わせした。

 食料は俺とウルフで大量に買い込んできた。荷物持ちが居て、助かった。ウルフはぶつぶつと文句を言っていたが。



 子連れの馬車と無法者の集団、チグハグな旅は続いた。

 道中、魔物が襲ってくることがあった。

 エキドナ達を観察していると、連携のとれたいいパーティだった。牛の獣人を筆頭に前衛が壁になり、エキドナが魔法--あれは闇魔法か?で、援護する。


 エキドナが使う闇魔法は、移動を阻害したり、目眩(めくらま)ししたりと直接的な攻撃はあまり見られない。そういう特徴なのかな?


 スレイプニルとウルフがいれば、よそ見をしていても問題なかった。スレイプニルは足が多いだけの馬かと思っていたら、戦闘も出来て、しかも強い。

 突進や後ろ足蹴りで魔物を吹き飛ばしていた。



 クリフトロックの町を出て五日が経った。

 二つの目の町、水の都『ランティス』に到着した。


 美しい景観の町だ。

 川から運河に水を引き込み、町中に張り巡らされている。人々は歌を歌いながら、小舟で行き交ってる。みんな陽気だ。

 マントスの件が無ければ、ゆっくりと観光したい。



 町に入ると、マントスが待ち構えてるかと思っていたが、肩透かしに合う。

 宿を探すか。

 エキドナ達はアジトがあるらしい。ここで暫しのお別れだ。

 クリフトロックの町から数日共に旅をして、打ち解けた仲になった。

 ただの無法者かと思っていたが、悪い奴らではなかった。たしかに乱暴なところはあるが、曲がったことはやらない。通りすがりに村人を魔物から助けたこともあった。


 俺達はエキドナに獣人でも泊まれる宿を紹介してもらい、そこに泊まることにした。値段も手頃で、なかなかいい宿だ。

 部屋は二つ取った。俺、茜、ウルフが同室で、残りはマリアさん、シモン、ローズだ。ローズは俺と同じ部屋がよかったみたいだが、マリアさんの強い希望で同室となった。

 たまには女同士の話がしたいんだろう。


 食事も美味しかった。村では保存がきくように干し肉や塩漬けした野菜など、シンプルな味付けが多かった。ちゃんとした料理は久しぶりだ。

 村での生活もまだまだ改善の余地があるということだ。この世界に入浴の習慣はなく、水浴びかタライに水を溜め体を拭くくらいだ。この町は水が豊富なためか、存分に水浴びすることが出来た。


 あぁ、熱い風呂に入りたい…、俺の野望は尽きない。

 その日は、久しぶりに柔らかいベッドに横になったせいか、すぐに寝てしまった。一度も起きることはなく朝まで熟睡だった。







「大変だ!! マリアとシモンがいない!」


 翌朝、水浴びを終えたばかりのローズがタオル一枚で部屋に飛び込んできた。

 一瞬目を奪われそうになるが、二人がいない現実に戻される。


「なんだと!? 辺りは探したのか?」


「いっぱい探したよ、でもいないんだ…。

 ごめん!アタイが着いていながら、こんなことが起きるなんて…」


 自分の失態だと、自身を責めるローズ。


「ローズの言う事に間違いはないと思うよ。 周辺からマリアとシモンの匂いがしない」


 ウルフがローズに同意する。


「マリアさんが俺達に黙って外に出るとは考えにくい。ってことは、誘拐された可能性が高い」


「…マリア!!」


 握り締めた拳に汗がにじむ。

 俺の迫力にローズが面食らう。


 絶対に、許さんぞ…。


 夜はローズと居たから、拐われたのはついさっきのはずだ。まだ間に合う。

 それに、殺さずに誘拐したのは何か目的があるに違いない。


 二手に分かれて追うことにした。

 足の速いウルフとローズはペアになって追跡。

 俺は独自に聞き込みすることにした。




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