24話 間話 職人(一)
ここまでお読みいただいた皆様。
ありがとうございました。
早いもので、今年も残すところあと少しです。加速度的に日々過ぎ去りますなぁ。
新装備編
ワシの名は、ガンテツ。村長をしている。
先日、小僧からまた無理難題を押し付けられた。
新しいタレントに合った装備を新調したい、だと。
目の前には、先の戦いでボロボロに破壊された鎧一式。この頑丈な鎧をここまで、大破させるとは天晴れ(あっぱれ)だ。
小僧が新しく覚醒したタレントは、血液操作といったか。
長年武器を作っているが、聞いたことがない。
自分や相手の血を操るため、出血を狙える装備にしたいとの要望だ。全くわがままな奴だ。
俺には頼もしい弟がいる、スミスだ。
元々、この装備自体も昔スミスが作ったものだ。
今回は二人で難題に挑むとしよう。
「兄貴…今回ばかりは、ちと無理じゃねぇか?」
「なんだ?あの神職とまで言われたスミス様が諦めるのか?」
「なんだと!?俺だって作ってやりたいがよ。本来、身体を守る鎧なんだぞ? それが自分を傷つけるなんて真逆だろう」
「まぁ…な」
血液を武器とするため、自傷行為を行う可能性があるらしい。しかし、鎧とは体を守るために全身を覆っている。ここで矛盾が生じてくる。スミスの意見は至極当然だ。
「ただワシら二人にかかれば不可能はないじゃろ?」
「当たり前よ!」
「ふむ…」
こういう時は、順番に考えていこう。
まずは鎧の胴体の部分だ。胴体には大事な臓器が多数ある、ここに選択肢はないだろう。
次に下半身だ。太腿、すねの部分のみ金属で覆うか…、いや背後からの奇襲も考えられる。足をやられれば、機動力に影響が出る。いざという時に逃げられなくなると困る。ここも守るべき箇所だ。
腕はどうだ?
自傷をするとすれば、ここだ。
腕の内側の装甲を無くそう。
そして、腕の外側に刃を付けよう。
拳部分だ。今までは殴打のみだったが、今回から拳を握り込むことで、スパイクが生えてくるような仕掛けを施そう。
これで、殴打と刺突の二種類の攻撃が可能になる。刺突が決まれば相手の出血を狙えるだろう。
最後は頭だ。
これまでは被弾前提の近距離主体だったため、視界は狭くてもよかった。それが汎用的な能力となったため、視界はあった方がいい。
視界を確保しつつ、後頭部と顔下半分は金属で覆う。
小僧の能力を最初に聞いた時、吸血コウモリを連想した。インスピレーションは大事だ。
顔に、牙をあしらってやろう。かっこよくて驚くだろうな。
大体の方向性は決まったな。
後は、スミスと調整しながら進めよう。
こうして、守の新しい装備は出来上がった。
「どうしてこうなった…?」
以前より、禍々しい出来栄えに守は首を傾げるばかりであった。
※
魔石編
うちの名前はノノ、フロールの町で宝飾屋を営んでるニャ。
この前は散々な目にあったニャ。
ネネ姉が連れてきた守という男のせいニャ。
あいつが持ち込んだダイダリオンの魔石。
間違いなく今までで一番手強い獲物だったニャ。
三日三晩、ほとんど寝ずに宝石のことだけを考え、声を聞き、なんとか出来上がった代物ニャ。
まさか魔法が発現するとは、思わなかった。
腕のいい職人が作る宝石には魔法が宿ると師匠から聞かされていたけど、自分が作った宝石がそうなるとは夢にも思わなかったニャ。
うちは天才だったのだ!ニャハハハハ!
「たのもー!」
守が勢いよく扉を開け放ち、店に入ってきた。
後ろにはネネ姉が付き添っている。
「今回は、コイツを頼む」
ゴトリと置かれたそれは一目で分かる。
市場に出回っていいものではない。
この魔石は研磨前の原石の時点で、暗く禍々しいオーラを放っている。そんなの聞いたことない。
「ノノ、これは今まで一番の仕事よ。 気合いを入れて取りかかりなさい」
ネネ姉の目が輝いてる。
うち引き受けるって言ったかニャ?
ネネ姉の中ではもう決定事項らしい…。こうなったネネ姉には逆らえないニャ。うちいつ寝れるのかニャ…。
決まったなら仕方ないニャ。
今回のヤマはうちだけじゃ手に余る。姉妹で取り掛かるとするニャ。
「承知したニャ。ただし、今回は『みんな』にも手伝ってもらうニャ。自分だけ楽しようだなんて、ずるいニャ!
道連れだニャー!!」
「もう…しょうがないわね。私はただ磨けば光り輝く原石が好きなだけよ。それは宝石も、人間も。 フフフ…」
守が引いてるニャ。
ネネ姉は普段は冷静だけど、好きなことになると昔から周りが見えてないときがあるニャ。
そんなことだから恋人ができないんだニャ。
「みんなってことは、帰るのね? 私たちの里に」
守の前で里のことを話しちゃうのかニャ!?
よっぽど気に入ってるのなー。
猫人族の隠れ里ーー場所は人間に知られてはいけない、それは里の掟。
前国王の時代は人間以外の種族は虐げられてきた歴史がある。
その風習は現国王になり撤廃されたが、未だ差別意識は根強い。町ではフードを被り、猫耳が見えないようにしているのはそのためだ。
猫人族はその愛らしい見た目から、愛玩用の奴隷として、人攫いに狙われてきた。
そんな里の事を話すのは、本来なら御法度ニャ。それだけこの男を信用しているってことニャ。
「この魔石は里でしか加工できないのニャ。引き受けてやるから、感謝しろニャ」
腕を組み、胸を張ってふんぞりかえる。
しかし、安請け合いしたことをすぐに後悔することになるノノであった。
※
町を出てから数日後。
とある森の奥深く。
「やっと、着いたニャ…。
何年ぶりかニャー、みんな元気でやってるかニャー?」
ネネとノノは、人の足では登り降りできないような急勾配の坂を進み、猫人族の里に到着した。
身軽な猫人族であれば進める道だ。
里は渓谷の中にあった。
道中、魔物や盗賊に襲われることがあったが、猫人族の中でもトップクラスの戦闘能力を持つ二人である。余裕をもって撃退していた。
ネネは後衛で指揮をとり、ノノは本来なら遊撃を得意としているが、今回の旅は前衛として活躍していた。
「たのもー! ナナ姉はいるかニャー!?」
里の中でも一際大きい家の玄関を勢いよく開ける。
「おー、久しぶりだなー!ノノー!!
珍しくネネもいるじゃねぇか!」
細身の猫人族の中では体つきがひと回り大きく、筋肉質。身長は頭一つ分抜けている。
それが族長一族の長女ナナ。
ネネは三女、ノノは末っ子の四女、四人姉妹である。
「コイツのために『共鳴の洞窟』に挑戦したいから、力を貸して欲しいニャ!」
ノノはそう言うとケルベロスの魔石を机に置いた。
暗い鈍い輝きがナナを魅了する。
自然とナナは手に取りたい衝動に駆られた。
手を伸ばそうとするが、途中で我に返り手を引く。
「なんて、魔石だ。
私の前でソイツを出さないでおくれ。
私はお前たちほど、『声』が聞こえないから、心を守る力が弱いんだよ」
ナナは魔石から顔を背けながらそう言った。
宝石は、美しい。
それは直接心に語りかけ、精神に作用する。
つまり、魔石から作られる宝石は微弱ながらも精神魔法に近しい効果を持ち合わせているのだ。
猫人族は種族特性的に魔石と親和性が高い。
魔石に込められた想い、イメージが流れ込んでくるのだ。
猫人族はそれを『声』が聞こえると表現する。
物心ついたころから、魔石の声を聞くための方法、コントロールする方法、声を遮断する方法を身につける。
ナナは生まれつき声が聞こえにくい体質だった。そのため、稀に聴こえてくる声の影響を受けやすい。
「力は貸してやる。 最近腕がなまってたんだ、ちょうどいい」
ナナは腕を回しながらやる気をアピールする。
魔法に優れた猫人族にして珍しく肉体的に強みを持っていた。つまりは、『脳筋』である。
「これで、前衛、遊撃、後衛が揃ったわね。
いいバランスだわ。 目指すは最奥の間よ」
静かに静観していたネネが簡単な地図を書きながら説明し始めた。
洞窟の内部は浅い部分、中部、深部と大きく三つに分かれる。
目的地である最奥の間は、深部を最後まで進んだ先にある。
さらに、共鳴の洞窟には、魔物が出る。
ネネとノノは速さと魔法を主軸とする。二人だけで攻略も出来なくはないが、安定性に欠けるとネネは考えていた。
洞窟の中は狭い。魔物を足止めする強靭な肉体を持つ前衛のナナが必要だった。
共鳴の洞窟ーー別名、『試しの洞窟』への挑戦。
一人前の職人になるために誰もが通る道だ。
最奥の間で己の技を完遂出来たら、一人前。
鍛冶屋なら武器、防具の作成。宝飾屋なら魔石の加工といった具合だ。
「頑張れよ!」「お前達なら出来る!」
「「いってらっしゃい〜」」
挑戦の噂を聞きつけた里の人に見送られ、一同は出発した。狭い村だ、噂はすぐに村中に広まる。
準備は完璧。しかも、今回は参謀役にネネがいる。
洞窟の攻略は余裕だろうと、信じて疑う者はなかった。
この先に待ち受ける困難があるとは知らずに…。
すみません、まさかの二部構成です。
今回も主人公の出番はありませんでした。
次回が終われば登場するはず…。




