表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界育児  作者: 葉山 友貴
第一章 育児奮闘・開拓編
24/91

23話 間話 想

マリアさん回です


 私は、マリア。息子が一人います。


 夫を魔物に殺され、未亡人になりました。


 守さんの第一印象は、前向きな人だな、ただそれだけの印象でした。

 別な世界から突然呼び出されされ、まだお乳が必要なくらい小さな女の子とワンちゃんを抱えながら、この世界で生きようと必死なご様子。


 私だったら、きっと諦めてしまったかもしれない。

 夫を亡くし、自暴自棄になった私を励まし、支援してくれた村の人達がいなかったら、きっと今頃まだ落ち込んだままだったでしょう。


 守さんは、右も左も分からない状態で、しかも凶暴で強い魔物に襲われた状況でも、絶望せずに前を向いていました。



 本当にすごい。



 

 茜ちゃんの命が危ない時がありました。


 その時は、もうしっかりしなさい!そんな気持ちで守さんを叱咤してしまいました。反省。


 それからの守さんはすごいの一言。


 昼は狩人としての訓練に励み、夜は茜ちゃんの世話をしながら、この世界の勉強。いつ寝ているのだろうと皆が不思議に思っていました。


 カザンさんの訓練は並大抵ではないと聞きます。

 それなのに勉強でも手を抜かずに、分からないところは理解するまで何度も質問され、凄い速さで吸収していきました。あの時の守さんは本当に頑張っていました。


 その頃からでしょうか。

 なぜか放っておけないと、気にかけるようになったのは。

 訓練や勉強を優先し、自分のことなんて後回し。気づけば食事を取らないなんてこともままありました。

 なるべく声をかけるようにして、ご飯の余を持って行ったり、朝食を用意したりするうちに徐々に同じ時間を過ごすようになりました。

 互いに小さい子供がいます。話題が尽きることはありませんでした。


 

 ビッグベアを討伐した時のことです。

 守さんはボロボロになり、意識がない状態で帰ってきました。

 心配でいてもたってもいられず寄り添い看病してると、朝方に目覚めたことを覚えています。


 そこで何て言ったと思いますか?


『仇は討ちました』


 そんな事のために、死にそうになっていたら残された人はあんまりです。

 こちらの反応を伺う姿がイタズラをした子供ようだと思ったら、少しおかしくなってきて、思わず笑顔になってしまいました。


 ついキツイ態度に出てしまいました。


 だって、私が生きていて嬉しいと言ったのに、それなのに村に狩人が必要だから?ですって!!

 思わずプイッと顔を背けてしまいました。

 思い出してみると、子供じみたことしたなと少し反省しています。







 私は日中、茜ちゃんのお世話をしています。

 私の息子『シモン』と一緒にです。

 二人とも同じくらいの月齢ですが、茜ちゃんの方がよく飲み、よくうんちをして、よく寝ます。

 シモンはというと、抱っこしていないとグズグズ、母乳の飲みは悪く、夜中に必ず起きてしまいます。

 茜ちゃんの尻に敷かれる将来が見えました。


 その日もいつものように茜ちゃんのお世話していると、急に体の力が抜けていきました。

 立っていられず、その場に崩れ落ちた途端、椅子が燃え始めました。

 この感じは、生活魔法の点火(イグニッション)

 間違いようがありません。私の魔法ですから。


 でも一体どうして…?


 とにかく早く消さないと!


 朦朧とする頭で、なんとか洗濯(ウォッシュ)の魔法で鎮火に成功。


 ここで意識を失いました。

 起きると、カザンさんとアンナさんが居て、私はベットに寝かされていました。


 これまでも母乳をあげていると、急に疲労を感じることがありましたが、それは寝れば翌日には治っていました。その時は単純に疲れのせいだ、気のせいだと思っていました。


 でも、原因は茜ちゃんのタレントでした。


 守さんが町の教会へ連れて行き、タレントを抑制する足飾りを作ってもらい今は前と変わらない生活を送っています。

 守さんが、怖そうな真っ黒い鎧で帰ってきたのはなぜでしょうか? 守さんの趣味…?人それぞれです、そっとしておきましょう。


 そんな出来事がありましたが、茜ちゃんは私のかわいいもう一人の娘です。これからも扱いは変わりません。







 決定的な出来事がありました。


 恐ろしい怪物ーーケルベロスが襲ってきたのです。物語の中でしか登場しないような怪物に皆が震え上がりました。


 シモンと茜ちゃんと三人で避難していると、村の広場で迎撃すると村の人達から噂が聞こえて来ました。

 そこに満身創痍の守さんも来ていてると。


 私はシモンの親として、茜ちゃんを預かる身として、いけない事をしたと思います。

 シモンには肉親は私しかいません。

 私は安全な場所で身を隠すのが最善でしょう。


 私は、居ても立っても居られず、シモンと茜ちゃんを村の人に託し、広場の様子を見に行ってしまったのです。これが大きな過ちでした。


 広場に着くと、異様な光景が広がっていました。


 熱気と興奮がその場を支配していました。

 警備の方達が広場を丸く囲んでおり、中心には守さんと恐ろしい怪物!思わず悲鳴を上げそうになります。

 どうしてみなさん助けに入らないのでしょうか。

 守さん一人だけ戦わせるようなマネをして。


 私は思わず近くにいた隊員に詰め寄りました。

 しかし、事情がありました。

 共に戦いたいが、レベルが違いすぎて、守さんの邪魔をしかねない。

 守さんから一人でやりたいと提案があったと聞きました。


 もう、ここでも自分を大事にしないんだから。

 帰ったら説教です。

 だから、お願い。どうか無事に帰ってきて。



 怪物の爪が守さんの顔のすれすれを通り過ぎました。


「守さん!!」


 思わず叫んでしまいました。

 守さんはこちらに気づき、怪物もこちらを見ています。

 あ…やってしまった。


 次の瞬間、怪物が私に向かい突進してきます。

 怪物の爪が私に振り上げられた瞬間、死を覚悟し、思わずぎゅっと目をつぶりました。

 しかし、いつまでも衝撃がやってきません。


 恐る恐る目を開けると、そこには守さんの背中から生えた爪がありました。


「キャアアアア」


 守さんは辛うじて生きていました。

 早く手当てしないと、本当に死んでしまう。


「守さんっ!!守さん!!」


 私はすぐに駆け寄ろうとしましたが、周りの隊員に力ずくで阻まれます。

 守さんの頑張りが無駄になってしまう、一人の隊員の言葉ではっとしました。


 守さんは諦めていませんでした。


 血液操作、後から本人から聞きました。その力に目覚めて、怪物を倒してしまったのです。

 もう凄すぎます。

 タレントが覚醒する瞬間を初めて見ました。

 少し見た目が子供向けではありませんでしたが、それでも村を、みんなを、私を守ってくれた英雄(ヒーロー)なのです。


 その後、また守さんは倒れました。

 その満足そうな笑顔を見たら、説教なんて出来ませんでした。




 怪物を倒した後、守さんは眠り続けました。


 もしかしたら、このまま起きないかもしれない。

 

 私は、毎日願いました。


 お願いします、どうか守さんを返してください。

 どうか…。

 この村には…、いえ、私には守さんが必要なのです。

 村に教会がありませんでしたが、朝と晩に祈りを捧げました。


ーーあなたの祈りは聞き届けました。小さな祝福『小回復(スモールヒール)』を授けましょう。


 奇跡は起きました。


 私の体から薄い光が溢れます。守さんに比べると弱々しい光です。


 生活魔法ー多属性の弱い魔法を総じて、そう呼びます。

 私の生活魔法に、光魔法『小回復(スモールヒール)』が加わったのです。



 私は感謝の祈りを捧げて、早速、守さんにかけました。心なしか表情が和らいだような気がします。一気に疲労感が襲って来ました。まだ慣れないせいか、体に負担が大きいようです。一日一回が限界ですね。


 それから、毎日、日課のように小回復を守さんにかけました。

 すると数日後、守さんが目を覚ましたのです!

 本当に嬉しい気持ちでいっぱいでした。

 ですが、この時、自分の気持ちに気付いてしまいました。


 守さんに感づかれてはいけません。

 守さんには前の世界で亡くされた奥さんがいました。

 私の気持ちはそんな大事な思い出に水を差すことになりかねません。


 小さな胸の痛みに気づかないフリをして、私は自分の心に鍵をかけました。

 


 私はいつもどおり笑えていますか。



 私はマリア。

 シモンの母にして、茜ちゃんのお世話係です。それから、守さんのサポートに徹します。



 守さんの道を邪魔する者は許しません。

 私は全力で守さんを支えましょう。



 いつか、その鍵を開ける日が来る、その時まで。



 いつか…来ると、信じて。










 後の大戦で、守の陣営で『鉄の女』の異名を持つ女性がいた。

 かの女性は陣の運営に優れ、戦場ではいくつもの魔法を操ったという。

 その女性は誰か、それはまた別のお話。




マリアさんの独白のような回でした。


この二人には結ばれて欲しいような、欲しくないような。


今後の展開に期待です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ