21話 間話 三人組
皆さんメリークリスマス
暫く守の周囲の人達の視点が続きます。
今回はズッコケ三人組。世代バレしますね…
私はウルフ。犬である。
犬がこんな言葉遣いなのはおかしいって?
犬だって、思考するのだ。
日々考えることが山ほどある。
最近の守はよくやっている。
少し抜けていて頼りないところがあるが、そこは私がフォローしてやればいい。
それに、守には返しきれない恩がある。
私がまだ生まれて間もない幼少の頃。
寒さに震え、空き地でその短い生涯を終えようとしていた。
たまたま冴えないサラリーマンが通り掛かり、私の命を救った。
暖かい家と食事を用意してくれ、鬼軍曹(彩夏)に居住の嘆願までしてくれたのだ。あの時は、私も必死に尻尾を振り、かわいい子犬を演じたものだ。
そんな守と鬼軍曹の間に子供が生まれた。
かわいい人間の赤ちゃんだ。
人間の赤ちゃんは生まれてすぐには動かないことが分かった。すぐに泣き出し、食事を与えないと泣いて暴れだす。
実に、困ったものだ。
これでは危険が迫った時に逃げ出せないではないか。
私が、始終そばにいて警戒しなくてはならないではないか。
日課の散歩の時間が減るくらいだ、我慢しよう。
そんな日々が続くと思っていたが、何の因果か、見たこともない世界へ来てしまった。
強敵との戦いを経て、私は言葉を手に入れた。
まだ守と心の中でしか話せないが、感じたことを直接伝えられるというのは便利だし、楽しい。まだ慣れていないせいか、口調が幼くなる。
思考している時は立派なんだが、口にすると少年のような言葉になってしまう。いずれ慣れるだろう。守以外の人とも話してみたいものだ。
私たちに新しい家族ができた。
ホークという名前の鳥だ。
私と守が苦労して仕留めた獲物の卵から孵った雛。
ホークの生みの親は、大きな鷹で、此奴も強敵だった。
この世界に来てからというものの強敵との戦いばかりだ。
そんな卵を村へ持ち込んでいいものか、私は反対したが、守はいつもの口癖で、なんとかなると言い張った。
こうやって私も拾われたのだから、強く反対もできない。
案の定、カザン殿からはたいそう叱られていた。
卵から雛が孵った。
凶暴な鳥の赤ちゃんだったが、かわいいではないか。
茜のついでに保護してやることにしよう。
ヨタヨタと歩くようになった茜は見ていて危ない。転んでも怪我をしないように着いていく必要がある。
守は新たな役割が与えられ、忙しくしている。
こんな時こそ私の出番だ。
ホークは遅いが、すぐに歩けるようになった。
空は飛べないようだ。
飛び方を教える者がいないが、いずれ飛べるようになるのだろうか。
鳥のことは分からないが、私の場合は直感的に狩りが出来た。本能ということなのだろう。
ホークも本能が目覚めれば、飛べるのだろう。
出来ないとき、その時考えればいい。
『その時は、その時だ』
よく守が言っていた。
※
茜、私、ホークの三人組は、村で有名になった。
ここに猿が居れば、桃太郎だ。
日本にいた頃、鬼軍曹が茜に本を読んでいた。何度も同じ本を読むので覚えてしまったものだ。
トテトテと歩く茜、その後ろにホーク、最後尾は私という順番で歩く。
茜が行きたいところにみんなでついて行く。
前を歩く二人が、片方は人ではないが、どこかへ行かないように後ろから見張る。これも保護者の役目だ。
狭い村だ。
いつも同じ風景では飽きてしまうだろう。
今日は、思い切って村の外まで出てみた。私の足ならすぐに村へと引き返せる。
狼に変化した私の背中に二人を乗せて走る。
茜はキャッキャとはしゃいでいるのに対し、ホークは茜にしがみ付いて怯えている。
茜の方が将来大物になるな。
スピードを出すと茜が喜ぶので、私も調子に乗ってしまった。
村から結構離れたところに来てしまった。
すると、遠くに簡素な家が密集しているのが見える。煙が上がっている。
こんな所に集落はあったか?
疑問に思いつつも新しく見つけた集落を見学させようと、近づいていく。
声を掛けようとした途端、
「ゴギャ?」
家からゴブリンが出てきた。
…
しばしの間、見つめ合うウルフとゴブリン。
「ギャギャ!!」
まずい、他に仲間がいるようだ。
私一人なら、問題ないが今は子供二人が背に乗っている。
ホークが茜ごと背中にしがみついているが、激しい動きは出来ないし、当然攻撃をもらってはいけない。
白銀の狼の姿は、しなやかかで強靭な体を持ち、非常に素早い。
しかし、弱者を守りながら戦うには手が足りない。
銀狼に変化したときは、誰よりも強い爪、誰よりも速い身体を望んだ。
今はこの子達を守りたい。
ウルフの脳裏には、ケルベロスを前にして自らの体を盾とし、少年の前に立ちはだかる黒鉄の鎧が浮かんだ。
何度倒されても立ち上がり、人々の前に立つ。
そんな姿に憧れた。
漠然とした憧憬は願いとなり、
願いは想いとなり、
想いは言葉となって、紡がれる。
「…変化ーーモード、ヒューマン!」
ウルフの体から光が溢れ出す。
そこに現れたのは、
銀色の長髪に切れ長の目。
肘から手首まで、膝から足首までは銀色の体毛に覆われた一人の青年。
「これは…!?
オイラ、人間の姿になった?!
声も出せる!!」
ウルフは両手を天高く掲げ、雄叫びをあげる。
「「ギャギャ!?ーーフギャッ!」」
隙だらけに見えたのだろう。
左右から二匹のゴブリンが襲ったきた。
「ふっ、今のオイラに死角はない」
茜とホークを纏めて右手で抱きかかえ、左からきたゴブリンには左爪を打ち付ける。
右から襲ってきたゴブリンには右足で強烈な蹴りをお見舞いする。
一撃で吹き飛ぶゴブリン。
慣れないと動きづらいな。
蹴りを放つと、片足になるから重心が不安定になる。
しかも思ったより爪の威力が出ない。
だから人間は武器を使うのか。
今度、守におねだりしてみよう。
ゴブリン達がワラワラと集まってくる。
この体を慣らすための準備運動だ。
茜達を右から左に持ち替え、ゴブリン達を迎え撃つ。
茜は相変わらず楽しそうだ、アトラクションのように感じているのだろう。
一方、ホークは目をつぶり、ガタガタと震えている。臆病すぎる。今度、鍛えてやらないとだな。
武器の扱いにも慣れたい。
ゴブリンが使っていた棍棒を拾い上げ、何度か振ってみる。
最初は武器の重さに振り回されていたが、徐々にスムーズに振れるようになった。
しかし、武器が脆すぎる。
木でできた棍棒は人間化したウルフの腕力に耐えられなかった。
一見すると細身であるが、軽々とゴブリン達を吹き飛ばす力は計り知れない。
瞬く間に、襲ってくるものはいなくなった。
このゴブリンの村が拠点とされれば、街道にも魔物が増えただろう。
守に知らせておこう。
みんなの治安を守ったぞ。
遅くなってしまった。そろそろ帰ろう。
二人を抱っこし、村に入ったところで呼び止められた。
「そこの変態、茜とホークを返してもらおうか」
振り返ると、守を筆頭に戦闘部隊が並んでいた。
どこかに魔物が出没したのかな?
「守! オイラ、ウルフだよ! 人間に変身できたんだ!」
守は怪訝な顔をした後、信じていいものか迷ってる様子だ。
特に、女性隊員は頬を赤く染め、目を背ける者。
手で顔を覆い、指の隙間からこちらを覗く者と、様々だった。
「ウルフは俺の相棒の犬だ。お前のような変態ではない!
服も着てないような、お前とは似ても似つかない」
服?
ああそうか!人間は服を着るのか!
生まれてずっとこのままだから気づかなかった。
「服ね!気づかなかったよ!
ほら、元々は犬なんだよ。その証拠に、日本で守の秘密の隠し場所を知ってるよ。
ベットの下のダンボールでしょ?辞書の空箱の…」
まだ途中だったのだが、守が慌て出した。
「ワー、ワー!!
分かった!信じる!!
君はウルフだ!歓迎しよう!ただし、まずは服を着なさい。とりあえずは俺のマントを貸そう。
違うんです、マリアさん!何を隠していたかというとですね…」
守はマントをこちらに投げ、遠くから見守っていたマリアさんに必死に弁明している。
言っちゃいけないことだったのかな?
守のおさがりの服を貰った後、人間に変化した状態で村を挨拶回りする羽目になった。
守から貰った服は少し小さく手足が出る。
守は高身長イケメンめ…と、小さく呪詛を込めて呟くのが聞こえた。どういう意味だろう。
ガンテツ殿とスミス殿を訪れた。
人間状態での装備について相談するためだ。
二人から体を隈なく調べらると、感嘆の声を上げた。
しなやかで強靭、理想の体らしい。
二人の職人魂を刺激したのか、物凄いやる気で引き受けてくれた。
その後、二人から装備を授かった。
白銀の鎧に、大きな大剣。
鎧にはマントが付いており、狼があしらわれている。粋な計らいだ、気に入った!
どうやらこの鎧は狼状態の変化にも考慮してくれたいるらしい。
素晴らしい設計だ。後で試してみよう。
※
敵から噂は広がっていく
白銀の鎧に身を包み
巨大な剣を、いとも容易く振り回し
一瞬で敵を葬る
獣のような俊敏さで、気づけば隣にいる
気を付けろ、奴はどこに逃げても追いかけてくるぞ
ここに、黒鉄の騎士と双璧を成す、白銀の騎士が誕生した。
黒鉄の騎士は味方から誇られる。
白銀の騎士は敵から恐れられる。
二人の騎士のその二つ名は、大戦での活躍で歴史に名を刻むことになる。
ウルフの主人公感が凄いですね。
守の隠し場所に何があったかは、お父さんに聞いてみよう!
次話も守以外の視点です。
誤字報告ありがとうございました。
今まで日本語を誤って使っていたとは、恥ずかしい。




