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異世界育児  作者: 葉山 友貴
第一章 育児奮闘・開拓編
22/91

21話 間話 三人組

 皆さんメリークリスマス


 暫く守の周囲の人達の視点が続きます。


 今回はズッコケ三人組。世代バレしますね…

 私はウルフ。犬である。


 犬がこんな言葉遣いなのはおかしいって?

 犬だって、思考するのだ。

 日々考えることが山ほどある。


 最近の守はよくやっている。

 少し抜けていて頼りないところがあるが、そこは私がフォローしてやればいい。


 それに、守には返しきれない恩がある。


 私がまだ生まれて間もない幼少の頃。

 寒さに震え、空き地でその短い生涯を終えようとしていた。

 たまたま冴えないサラリーマンが通り掛かり、私の命を救った。

 暖かい家と食事を用意してくれ、鬼軍曹(彩夏)に居住の嘆願までしてくれたのだ。あの時は、私も必死に尻尾を振り、かわいい子犬を演じたものだ。


 そんな守と鬼軍曹の間に子供が生まれた。


 かわいい人間の赤ちゃんだ。

 人間の赤ちゃんは生まれてすぐには動かないことが分かった。すぐに泣き出し、食事を与えないと泣いて暴れだす。

 実に、困ったものだ。

 これでは危険が迫った時に逃げ出せないではないか。

 私が、始終そばにいて警戒しなくてはならないではないか。

 日課の散歩の時間が減るくらいだ、我慢しよう。




 そんな日々が続くと思っていたが、何の因果か、見たこともない世界へ来てしまった。


 強敵との戦いを経て、私は言葉を手に入れた。

 まだ守と心の中でしか話せないが、感じたことを直接伝えられるというのは便利だし、楽しい。まだ慣れていないせいか、口調が幼くなる。


 思考している時は立派なんだが、口にすると少年のような言葉になってしまう。いずれ慣れるだろう。守以外の人とも話してみたいものだ。



 私たちに新しい家族ができた。

 ホークという名前の鳥だ。

 私と守が苦労して仕留めた獲物の卵から孵った雛。

 ホークの生みの親は、大きな鷹で、此奴も強敵だった。

 この世界に来てからというものの強敵との戦いばかりだ。


 そんな卵を村へ持ち込んでいいものか、私は反対したが、守はいつもの口癖で、なんとかなると言い張った。

 こうやって私も拾われたのだから、強く反対もできない。

 案の定、カザン殿からはたいそう叱られていた。



 卵から雛が孵った。

 凶暴な鳥の赤ちゃんだったが、かわいいではないか。

 茜のついでに保護してやることにしよう。


 ヨタヨタと歩くようになった茜は見ていて危ない。転んでも怪我をしないように着いていく必要がある。

 守は新たな役割が与えられ、忙しくしている。

 こんな時こそ私の出番だ。



 ホークは遅いが、すぐに歩けるようになった。

 空は飛べないようだ。

 飛び方を教える者がいないが、いずれ飛べるようになるのだろうか。

 鳥のことは分からないが、私の場合は直感的に狩りが出来た。本能ということなのだろう。

 ホークも本能が目覚めれば、飛べるのだろう。

 出来ないとき、その時考えればいい。

 『その時は、その時だ』

 よく守が言っていた。







 茜、私、ホークの三人組は、村で有名になった。

 ここに猿が居れば、桃太郎だ。

 日本にいた頃、鬼軍曹が茜に本を読んでいた。何度も同じ本を読むので覚えてしまったものだ。


 トテトテと歩く茜、その後ろにホーク、最後尾は私という順番で歩く。

 茜が行きたいところにみんなでついて行く。

 前を歩く二人が、片方は人ではないが、どこかへ行かないように後ろから見張る。これも保護者の役目だ。



 狭い村だ。

 いつも同じ風景では飽きてしまうだろう。

 今日は、思い切って村の外まで出てみた。私の足ならすぐに村へと引き返せる。


 狼に変化した私の背中に二人を乗せて走る。

 茜はキャッキャとはしゃいでいるのに対し、ホークは茜にしがみ付いて怯えている。

 茜の方が将来大物になるな。


 スピードを出すと茜が喜ぶので、私も調子に乗ってしまった。

 村から結構離れたところに来てしまった。


 すると、遠くに簡素な家が密集しているのが見える。煙が上がっている。

 こんな所に集落はあったか?

 疑問に思いつつも新しく見つけた集落を見学させようと、近づいていく。


 声を掛けようとした途端、


「ゴギャ?」


 家からゴブリンが出てきた。


 …


 しばしの間、見つめ合うウルフとゴブリン。


「ギャギャ!!」


 まずい、他に仲間がいるようだ。

 私一人なら、問題ないが今は子供二人が背に乗っている。

 ホークが茜ごと背中にしがみついているが、激しい動きは出来ないし、当然攻撃をもらってはいけない。



 白銀の狼の姿は、しなやかかで強靭な体を持ち、非常に素早い。

 しかし、弱者を守りながら戦うには()()()()()()



 銀狼に変化したときは、誰よりも強い爪、誰よりも速い身体を望んだ。


 今はこの子達を守りたい。


 ウルフの脳裏には、ケルベロスを前にして自らの体を盾とし、少年の前に立ちはだかる黒鉄(クロガネ)の鎧が浮かんだ。


 何度倒されても立ち上がり、人々の前に立つ。

 そんな姿に憧れた。



 漠然とした憧憬は願いとなり、


 願いは想いとなり、


 想いは言葉となって、紡がれる。


「…変化(へんげ)ーーモード、ヒューマン!」



 ウルフの体から光が溢れ出す。



 そこに現れたのは、


 銀色の長髪に切れ長の目。


 肘から手首まで、膝から足首までは銀色の体毛に覆われた一人の青年。



「これは…!?

 オイラ、人間の姿になった?!

 声も出せる!!」


 ウルフは両手を天高く掲げ、雄叫びをあげる。


「「ギャギャ!?ーーフギャッ!」」


 隙だらけに見えたのだろう。

 左右から二匹のゴブリンが襲ったきた。


「ふっ、今のオイラに死角はない」


 茜とホークを纏めて右手で抱きかかえ、左からきたゴブリンには左爪を打ち付ける。

 右から襲ってきたゴブリンには右足で強烈な蹴りをお見舞いする。

 一撃で吹き飛ぶゴブリン。


 慣れないと動きづらいな。

 蹴りを放つと、片足になるから重心が不安定になる。

 しかも思ったより爪の威力が出ない。

 だから人間は武器を使うのか。

 今度、守におねだりしてみよう。



 ゴブリン達がワラワラと集まってくる。

 この体を慣らすための準備運動だ。


 茜達を右から左に持ち替え、ゴブリン達を迎え撃つ。

 茜は相変わらず楽しそうだ、アトラクションのように感じているのだろう。

 一方、ホークは目をつぶり、ガタガタと震えている。臆病すぎる。今度、鍛えてやらないとだな。



 武器の扱いにも慣れたい。

 ゴブリンが使っていた棍棒を拾い上げ、何度か振ってみる。

 最初は武器の重さに振り回されていたが、徐々にスムーズに振れるようになった。

 しかし、武器が脆すぎる。

 木でできた棍棒は人間化したウルフの腕力に耐えられなかった。

 一見すると細身であるが、軽々とゴブリン達を吹き飛ばす力は計り知れない。



 瞬く間に、襲ってくるものはいなくなった。


 このゴブリンの村が拠点とされれば、街道にも魔物が増えただろう。

 守に知らせておこう。

 みんなの治安を守ったぞ。



 遅くなってしまった。そろそろ帰ろう。



 二人を抱っこし、村に入ったところで呼び止められた。


「そこの変態、茜とホークを返してもらおうか」


 振り返ると、守を筆頭に戦闘部隊が並んでいた。

 どこかに魔物が出没したのかな?


「守! オイラ、ウルフだよ! 人間に変身できたんだ!」


 守は怪訝な顔をした後、信じていいものか迷ってる様子だ。

 特に、女性隊員は頬を赤く染め、目を背ける者。

 手で顔を覆い、指の隙間からこちらを覗く者と、様々だった。


「ウルフは俺の相棒の犬だ。お前のような変態ではない!

 ()()()()()()ような、お前とは似ても似つかない」


 服?

 ああそうか!人間は服を着るのか!

 生まれてずっとこのままだから気づかなかった。


「服ね!気づかなかったよ!

 ほら、元々は犬なんだよ。その証拠に、日本で守の秘密の隠し場所を知ってるよ。

 ベットの下のダンボールでしょ?辞書の空箱の…」


 まだ途中だったのだが、守が慌て出した。


「ワー、ワー!!

 分かった!信じる!!

 君はウルフだ!歓迎しよう!ただし、まずは服を着なさい。とりあえずは俺のマントを貸そう。

 違うんです、マリアさん!何を隠していたかというとですね…」


 守はマントをこちらに投げ、遠くから見守っていたマリアさんに必死に弁明している。

 言っちゃいけないことだったのかな?




 守のおさがりの服を貰った後、人間に変化した状態で村を挨拶回りする羽目になった。


 守から貰った服は少し小さく手足が出る。

 守は高身長イケメンめ…と、小さく呪詛を込めて呟くのが聞こえた。どういう意味だろう。



 ガンテツ殿とスミス殿を訪れた。

 人間状態での装備について相談するためだ。


 二人から体を隈なく調べらると、感嘆の声を上げた。

 しなやかで強靭、理想の体らしい。


 二人の職人魂を刺激したのか、物凄いやる気で引き受けてくれた。


 その後、二人から装備を授かった。


 白銀の鎧に、大きな大剣。

 鎧にはマントが付いており、狼があしらわれている。粋な計らいだ、気に入った!

 どうやらこの鎧は狼状態の変化にも考慮してくれたいるらしい。

 素晴らしい設計だ。後で試してみよう。






 敵から噂は広がっていく


 白銀の鎧に身を包み


 巨大な剣を、いとも容易く振り回し


 一瞬で敵を葬る


 獣のような俊敏さで、気づけば隣にいる


 気を付けろ、奴はどこに逃げても追いかけてくるぞ






 ここに、黒鉄(クロガネ)の騎士と双璧を成す、白銀(シロガネ)の騎士が誕生した。



 黒鉄の騎士は味方から誇られる。


 白銀の騎士は敵から恐れられる。



 二人の騎士のその二つ名は、大戦での活躍で歴史に名を刻むことになる。




 ウルフの主人公感が凄いですね。


 守の隠し場所に何があったかは、お父さんに聞いてみよう!



 次話も守以外の視点です。



 誤字報告ありがとうございました。

 今まで日本語を誤って使っていたとは、恥ずかしい。

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