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異世界育児  作者: 葉山 友貴
第一章 育児奮闘・開拓編
18/91

17話 村長

 異世界生活 280日目


 これから本格的に公共事業に乗り出すぞと意気込む俺はというと、布団の中で卵を温めていた。

 先日討伐したダイダリオンの卵だ。

 バスケットボールくらいの大きさがある。

 将来はあんなにデカくなるのか、そしたら村で飼えなくなってしまうぞ。

 その時は、その時だ。


 それにしても、この世界に保育器など存在しない。本来であれば親鷹の体温で温めていたことだろう。

 ないものはしょうがないから、俺の人肌で温める。産まれてくるのは魔物の雛なのだ。

 こればかりはマリアさんにも頼めない。


 動物と一緒に子供が成長すると、情操教育にもいいと聞くしな。茜のためにも頑張って育てよう。

 その卵だが、日中は茜のおもちゃになっている。なんせちょうどいい大きさなのだ。

 あっちへ転がし、こっちへ転がし、キャッキャと喜んでいる。楽しそうで何よりだ。


 そう、その茜!


 なんと…、ハイハイが出来るようになったのだ!


 オヨヨヨヨと感動していると、

 その翌月には、掴まり立ちまでしちゃったよ!女の子は成長が早いと聞くが、その中でも早い方だろう。将来、身体能力が高くなるのかもな。

 

 自分で動けるようになると、一気に行動範囲が広がる。同時に危険も大きくなる。


 茜がケガをしないように家の中を改造した。


 テーブル角など尖ってるところを丸め、柔らかいガードをつけたり、武器など危ないものは手の届く範囲から遠ざけた。

 茜はまだ不安定で、補助なしでは歩けないが、それも時間の問題だな。


 いや〜子供は、日々成長するんだな〜。


 歳を取ると、涙腺が緩くなる。

 茜が歩いたら泣くかも知れないな。

 彩夏ー亡くなった妻にも見せたかった。

 こんなに元気に、立派に育ってるぞって。



 茜がヨチヨチとテーブルの端を掴みながら歩いている。目当ては大好きな卵のようだ。


 ドテッ


 卵に触れた途端、バランスを崩して転んでしまった。


「ぱぁぱぁ〜! あーん、あーん」


 茜がびっくりして泣き出してしまう。


 今、なんて言った?!


 パ、パパって言わなかったか!?


「あ、茜ー、パパでちゅよー!もう一回言ってごらん〜」


「うーうー、ぱぁ、ぱぁ」


 やっぱり言った!

 この子は天才なんじゃないか…?



ーーピシリッ


「お!?」「う?」


 突然、卵にひびが入る。


ーーパキパキパキ


「おおっ!?」「うぅ〜♪」


 ひびから徐々に亀裂になり、殻を突き破る。


「キュイー!!」


 産まれた!!

 親は凶悪な見た目をしていたが、雛は案外かわいい。


「キュイ?」「うーう!」


 茜と産まれたばかりの雛が会話しているみたいだ。


 こいつは今日から『ホーク』だ。

 ちょっと安直過ぎるかな。

 昔からの苦手なんだ、名前をつけるの。








 村長達の前で改めて宣言する。


「これから村を繋ぐ街道を整備していきます。大規模で長期間に渡る工事でになるでしょう。

 皆さん、ご協力をお願いします」


 頭を下げる。


「と、ところでフロールの町長にあいさつしたのでしょうか…?」


 上目遣いで、遠慮がちにコムギが聞いてきた。


 町長?フロール?


 俺があまり理解していないことを悟ると、


「フ、フロールはこの辺りで一番大きな集落で、この辺境の地では唯一の町です。

 事業をするなら、知らせなくていいのかな、と思いました」


 コムギはおどおどしているけど、根はしっかり者なのかもしれない。

 村長四人が集まって、誰もその事に気が回らなかった。

 あの城壁に囲まれた町はフロールって言うのか。前に行った時は、名前なんて気にならなかったな。


「ガハハ、コムギ! いい事言ったな! 皆で、向かうとしよう!」


 ガンテツの一言で、決定する。

 俺たちは仲良くフロールの町へ向かうのだった。


 村長なのにこんなに村を空けていて平気なのか?人のことは言えないが。


 ケガが完治していないカザンは村で留守番だ。

 長距離の移動はまだ厳しいだろう。


 狩人として魔物を狩らなくてはならない。

 そのために、ウルフを置いてきた。あいつなら上手くやるだろう。

 あれ、俺よりも優秀じゃない?

 適材適所だ、俺には俺しか出来ないことがあるだろう、たぶん…。



 野宿をして、朝方にはフロールの町に着いた。今回は茜をマリアさんに預けてきたから、移動は速い。

 カザンと親しい門番の男から昔話を聞いてみた。彼は王国でカザンの部隊にいたらしい。しかも、カザンは隊長だったそうだ。

 どおりで人をまとめるのが上手いわけだ。


 門をくぐり、町長の家を目指す。いきなり行って迷惑にならないだろうか。

 菓子折的な物を買った方がいいのかと聞いてみたところ、コムギが事前に手紙で知らせていたらしい。

 どこまでも出来る子!


 町長の家は、豪華絢爛だった。教会ほど大きくはないが、何十人も住めそうな広さで、それでいて町の一等地にある。

 床には真っ赤な絨毯がひかれ、高そうな調度品の数々が飾られている。高級なんだろうが、悪趣味だな。


 そんな品物に囲まれていたのは、悪事で至福を肥したような太った男だった。


「ホッホッホ、遠路はるばるよくぞきてくれた。 歓迎しますぞ。 あなたは初めましてですな?私はマスッチ。

 ほれ、これを食べるか? 美味しいぞ」


 ガンテツの腹が鳴った。正直すぎるだろう。


 俺に向けて名乗ってくれた。今日もカザンは欠席だ、足が悪いからな。俺はあくまで代理人だ。

 話を振られて、簡単に自己紹介をする。


「私は、守と申します。今日はカザンの『代理』で来ました。カザンの怪我が治るまでですが、よろしくお願いします」


 俺の勘が警戒を促している。こいつに気を許してはいけない。食い物にされそうだ。


「今日は挨拶にきた。 この四つの村同士を街道で繋ぐ、大規模な工事をする。 長期間になるだろうから、こうして説明に来た」


 年長者のガンテツが一同を代表して、訪問の趣旨をぶっきらぼうに説明した。


「あと、こいつは代理と言っているが、カザンから正式に村長の座を譲ると聞いている。

 これがその手紙だ、カザン村改めマモル村に変わるから、そこんとこもよろしくな」


「えっ!?」


 なーにー!!

 またしてもカザンにしてやられた!


 こういう大事なことは事前に調整しろといつも言ってるのに。


「あの人らしいわね、ふふふ、賛成よ」「…さ、賛成です」


 イズミとコムギも同意のようだ。

 こうしてトントン拍子に話は進み、カザン村改め、マモル村の村長になってしまった!




 異世界に呼ばれ、もうすぐ一年が経とうとしていた。最初はどうなることが思ったが、なんとか生活出来ている。忙しさは日本にいた頃とあまり変わらないが、それでもこちらの世界は生きていると実感する。やりがいがある。


 俺たち一向は町長マスッチの邸宅を後にし、各々の用事を済ませるという名目で一度解散した。

 出発は明日だ。それまでにやる事がある。


「ごめんくださーい!スミスさーん!」


 俺は鍛冶屋スミスを訪ねた。

 この鎧の奥の手のお陰で、命を救われたことを報告しにきたのだ。


「お前さん、本当にアレをつかったのか!? どうじゃった!?」


 スミスは目を見開いて驚いていた。

 なんでも実用性を度外視したネタ機構だったらしい。


 俺は思わず突っ込みを入れながら、思い出せる限りで説明し、鎧のメンテナンスを依頼するのだった。


「そうだ、この素材でマントとか作れないか?」


 俺は先日手に入れたダイダリオンの翼、骨、羽などをスミスに見せる。


「こ、小僧! これをどこで!?」


 スミスの目が輝く。

 ホークのことを話したら剥製にされそうな勢いだ。内緒にしとこう。


「それは企業秘密ですよ、フフフ。…あれ、ガンテツ?」


 無駄に謎の男を演じていると、ガンテツが店にやってきた。


「おう、スミス!元気でやってるか? 守がなんでここにいる? おい、この素材はどうした!? ダイダリオンの肉だけじゃなく、素材も手に入れてたのか!?」


 ガンテツまでも興奮している。

 そういえば、この二人は見た目がそっくりだった。


「スミスは俺の弟だ。

 こいつは変わり者でな、村を飛び出してフラフラしてたかと思ったら、急に帰ってきて町に店をかまえたと聞いてな」


 どおりで似ている。

 それでこの素材で、マントを作れるか聞いてみた。


「面白いじゃねぇか! 俺も混ぜろ!

 俺たち二人でやれば、明日の朝まで余裕だ!

 スミス、腕は鈍ってないだろうな?」


「兄貴こそ、足を引っ張るなよ」


「じゃあ俺はこれで…」


 二人の盛り上がっている二人を邪魔するのも無粋だ。

 俺はそっと店を出た。


 次に向ったのは、魔石屋だ。


 前回、茜のタレントが暴走した時に魔石を高額で買い取ってくれた。おかけで、助かったものだ。


 今回はお礼と火の魔石を仕入れにきた。あとはダイダリオンの魔石を自慢しに。


「この前はありがとうな。俺は守。

 今日は火の魔石は買いに来た、あとは面白いブツが手に入ったんでな…」


「私は、ネネ。

 お礼には及びません。私はあなたに光る原石の輝きを見出しただけのこと。

 長い間、石ばかりを見てると、人にも共通していると気づかされます。先行投資なのですよ、うふふ」


 フードをすっぽりと被って表情までは見えないが、頭の上についた猫のような耳がちらりと見えた。

 人間ではないのか?猫族のような人種がいるのか。

 危険な香りがするから、これ以上の追求はやめておこう。


「そ、そうか。期待には応えないとな。

 それと、こいつを見てくれ」


 ゴトリ。


 バスケットボールほどの大きさのダイダリオンの魔石を、カウンターに置く。


「こ、これは!?」


 先程まで冷静だったネネは、カウンターから身を乗り出して、魔石を手に取る。手が震えている、それほどの品か。


「こ、これほど状態のいいダイダリオンの魔石は初めてです。 通常、中小隊での一斉攻撃で仕留めるため、魔石も損傷が激しく、使える部分はほとんどありません」


 ネネの息遣いが「はぁはぁ」と激しい。完全にヤバいやつだ。


「失礼しました。このクラスの魔石ですと、装飾(アクセサリー)として、加工した方がよいでしょう。

 宝飾屋を紹介いたしましょう」


 ネネは、少しは落ち着いたものの、目を細めたままだ。俺は火の魔石を大量に購入し、ネネの案内で宝飾屋とやらに向かった。


「ここは、私の妹が営むお店です」


 裏路地に入ると、みすぼらしい外観の店が現れた。

 案内されるまま店内に入ると、またしてもフードをかぶった店主に迎えられる。すると、この装飾屋も猫耳なのか?


「ノノですニャ! この魔石はニャンだ!?」


 この猫族は、あまり隠す気がないのか。語尾が見た目そのままを物語っている。


「落ち着きなさい。あなたならこの魔石の声を聞き取って、加工できるわね?」


「任せるニャ!」


 胸を大袈裟に叩き、ブンブンと大きく頷いている。

 請け負ってくれるようだ。


 さすがに翌朝までに、とはいかないようだ。完成したら、行商のビクトルさんに預けてもらうことにして店を出た。




 翌日、俺はガンテツから鎧とマントを受け取った。

 調子に乗って、さらに奥の手を用意してくれたらしい。

 マントは素晴らしい出来ではあるんだが、想像していたものより、別の方向(ベクトル)に進んだようだ。

 肩部分には爪があしらわれ、色は黒。

 装備してみると、全体的に邪悪さがプラスにされる。

 思っていたのとなんか違う…。

 性能的には、防御率と素早さに多少の補正があるらしい。素晴らしい一品だ。


 とにかく準備は整った。




 こうしてカザン村…改め、マモル村に帰った。

 カザンにひとしきり文句を言った後、忙殺される日々に想いを馳せて眠りにつくのであった。



異世界日記 299日目

茜がまた成長した。ハイハイに掴まり立ち、初めて意味のある言葉を話した。

ダイダリオンの卵が孵り、ホークが生まれた。茜と共に成長していって欲しい。

フロールの町で、村長に任命された。とんだサプライズである。忙しくなるぞ〜


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