表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界育児  作者: 葉山 友貴
第一章 育児奮闘・開拓編
17/91

16話 珍味

 異世界生活 271日目


 四村同盟を発足し、

 各村を街道で繋ぐ前に人口調査を行った。


 結果は次のとおり。

 人口の総数とタレントの系統別の人数だ。


 カザン村 五十六人

 戦闘系五十人 生産系一人 その他五人


 ガンテツ村 八十八人

 戦闘系二十五人 生産系(鍛冶)五十人 その他十三人


 イズミ村 八十二人

 戦闘系十人 生産系(服飾)六十五人 その他七人


 コムギ村 百四十人

 戦闘系五人 生産系(食料)百三十人 その他五人


 こうして見ると、カザン村の人口が最も少なく、コムギ村が最も多いのか。食糧事情が豊かだから人が多いのかもしれないな。

 各村の特色に合ったタレント持ちが多い。

 タレントの発現には、本人の意思や環境が関与しているのかもしれない。この事象を研究するのも悪くないな。暇が出来たらぜひ取り組みたいものだ。

 っていうか、カザン村の村人、戦闘系に寄りすぎじゃないか?!

 人口は少ないのに、戦闘系タレントは一番多いって、どんだけ武闘派なんだよ!


 俺の驚きように興味が湧いたのか、カザンがぷらっと来て、横からまとめた紙を覗き込んでくる。


「こうして並べると、分かりやすいな。

 戦闘系に偏ってるのは当然だろう。

 俺達は王国の元兵士やその家族だからな。代々、兵士を輩出している家系も多い」


 なんですと!?

 カザンが元王国の兵士…、道理で強い訳だ。

 思い返せば、村の人達も筋肉質な体型で、その気になれば戦えそうな人ばかりだったな。

 そう言えば、町に行った時、門番がカザンによろしくと言っていた。兵士時代の繋がりだったのかな。


「才能があるからといって必ず戦えるってことは、ないからな。 逆に、才能が無くても修練と努力次第で強い奴も沢山いる」


 確かにそれはそうだ。

 生まれ持った才能よりも本人がどう生きるかだ。

 俺も精進せねば。

 ただタレントの数は指標にはなるし、その道に進ませた方が習得だって早いだろう。



 カザン村のカラクリが分かったところで、親睦会の準備を思い出す。

 村長達がやってくるのだ、おもてなしをしなければ。


 この村の特産と言えば、魔物の肉だ。

 今回のために、珍しくて美味しい魔物を狩ってこないと。







 ウルフと魔の森へやってきた。狼になったウルフに騎乗すると一日のうちに到着した。徐々に狼化できる時間が伸びてきた。訓練の賜物だろう。


 今回のお目当ては『ケリュネイア』と呼ばれる鹿のような魔物だ。

 カザンから教えてもらったこいつは、人前には滅多に姿を見せない。

 性格は誇り高く、魔物ではあるが凛とした生き物らしい。

 こいつの肉は滅多に市場に出回らないらしく希少性が高い。しかも、とんでもない美味ときた。


 どうやってこいつを見つけるかと言うと、俺には秘密兵器がある。


「ウルフ! やってくれ!」


 ウルフ頼みである。


 狼に変化(へんげ)した姿であれば、ケリュネイアといえども逃げ切ることは出来ないだろう。


 しかもウルフは修練の成果で、タレントを使いこなしている。

 短時間の変化であれば、ほとんど消耗せずに使えるようにまでなったのだ。


(もう犬使いが荒いんだから!)


 念話により、意思疎通も完璧だ。


(…いた! この匂いだ!)


 ウルフはすんすんと辺りの匂いを嗅ぎ回っていると、早速見つかった。


 カザンの家にケリュネイアの頭が飾られていたのだ。

 どうやら本物だったらしい。

 ウルフに匂いを覚えさせる作戦が成功した。


 後はウルフに乗って、追跡するだけだ。

 これからは忍耐力の勝負だ。

 一定の距離を保ち、油断した隙を狙って仕掛けるのだ。


 辺りが薄暗くなってきた。

 夕方から夜にかけて、日が沈む時間。


 その時はやってきた。


 ケリュネイアが足を折りたたみ、横になったのだ。

 ここが巣だろうか。

 それとも、他の個体と待ち合わせか、いずれにしても今は一匹のみだ。



(いくぞ、いつものだ)


 ウルフは俺を乗せた状態で、目だけこちらを見る。

 了解の合図だ。


 徐々に速度が上がる。周りの景色が流れていく。



 フウウゥゥ。


 深呼吸。


 そして、手のひらに魔素を集中。



「…雷電一式」


 

 すれ違いざまに、ケリュネイアの首に手刀を叩き込む。


「ケーン!!!」


 ケリュネイアは鳴き声を上げながら、大木の根本まで吹き飛んでいった。葉が落ちるほどの衝撃だ。


 とどめだ。


 旋回し、ケリュネイアに目標を定める。

 もう虫の息のようだ。


 再度、交差する瞬間、



「ギュアアアアアアァァァァーーー!!!」


 恐ろしい咆哮が響き渡る。

 樹々の枝をへし折りながら、突如としてそれは現れた。






 大空の支配者。

 天空の暴君。


 地方によって、様々な二つ名があるだろう。

 いずれにも共通しているのは、各地の空を自由に飛び回る凶悪な魔物ということだ。


「なんで、こんなところに…?!」


 本能が警笛を鳴らす。


 大きな鉤爪はどんな物も握り潰すだろう。

 広げた翼は視界に入りきらない。

 一見柔らかそうな羽は、葉を鋭く切り裂き、鋼鉄のように硬い。


 人々は、それをこう呼んだ。


「ダイダリオン!!」


 突然の乱入者に気を取られていると、ケリュネイアは負傷した体を引きずり、逃げようとしていた。

 立ち上がった後に残されていたのは、大きな卵だった。


 獣は卵を産まない。

 まさか…この大鷹の卵か!?


 あまり知られてないが、ダイダリオンは繁殖の時期になると魔の森に巣を作る。

 母性本能か、とにかくこの時のダイダリオンは()()()()()()()


 ここが草原であれば、なす術もなく一方的にやられたことだろう。

 しかし、今は森の中。

 木々が無造作に生え並び、光を求めて枝を伸ばす。



 ここは、狩人の領域(テリトリー)だ。



 空から獲物を目掛けて、滑空する一匹の大鷲。

 捕まるまいと、必死に逃げ回る一人と一匹。


 ウルフが銀狼(ぎんろう)変化(へんげ)し、だいぶ時間が過ぎた。

 そろそろ限界が近づいてくるだろう。

 それまでに決着をつけなければ俺たちの負けだ。

 今は、我慢だ。

 チャンスは必ずくる。


 ウルフは木の隙間を縫うように走り、時には木に上り、枝から枝へと飛び移る。


 まさに、縦横無尽。


 ウルフの立体的な動きに、徐々にダイダリオンが俺たちを見失いがちになる。


(ウルフ!! 今だ!!)


 呼ばなくても分かっていた。


 ウルフは一振りの槍のように、まっすぐダイダリオンに向かう。


 俺が持てる最強の一撃をたたき込む。


「雷電いっしきいぃぃぃ!!」


 拳を引き、魔素を集中。

 今度は、攻撃のためじゃない。

 拳を()()()()ようにするためだ。



「パイル、バンカアアァァァーー!!!!」

 正拳突きの形からさらに伸びたそれは、ダイダリオンの鋼鉄の硬さを誇る羽を貫通し、心臓をも貫いた。


 まさに、必殺の一撃。


 スミスから秘密兵器として、鎧に組み込まれたそれは、ガンドレッドから槍のような突起を勢いよく打ち出す。

 火の魔石の爆発を推進力にしているのだ。

 これが両腕に組み込まれている。


 まだ、腕が痺れてる…。


 火の魔石を大量に使うため、費用的に、反動的にも多用は出来ないが、これは強い。

 ウルフの引っ掻きや俺の拳ではダメージを与えることが出来なかったダイダリオンを一撃で仕留めた。

 奥の手にふさわしい威力を持っている。


 卵、どうしよう。

 正当防衛とはいえ、親鷲を倒してしまったし、このまま放置したらかわいそうだ。持ち帰るか…。


 鳥類は初めて見た者を親と思い込む習性があると聞いたことあるし、大丈夫かな。


 ダイダリオンの卵を持ち帰った俺は、カザンからこっぴどく怒られることになる。



 宴は大成功だった。


 なぜなら、宴に参加した者達はダイダリオンの肉を公式に食べた初めての者達になったからだ。しかもその肉は、非常に美味だった。

 頻繁に食べれないのが悔やまれるほどだ。


 ダイダリオンの翼は俺の家に飾ることにした。

 決してカザンに対抗した訳ではない。

 時よりカザンが羨ましそうに翼を見て、優越感に浸ってはいない。断じてない。



異世界日記 273日目

カザン村の村人達は戦闘民族だった。

ダイダリオンの肉は、今まで食べた中で間違いなく一番美味かった。

かっこいいオブジェを手に入れた!カザンに自慢しまくった!卵は俺が引き取ろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ