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異世界育児  作者: 葉山 友貴
第一章 育児奮闘・開拓編
16/91

15話 同盟

 異世界生活 181日目


 ガンテツと模擬戦をすることになった。


 黒の鎧を装着し、村の広場へ向かうと、ガンテツは既に準備万端で俺を待っていた。


 ギャラリーもいる。

 娯楽の少ない村の生活では、いい見せ物になるだろう。


「おうおう、俺を待たせるとはいい度胸だ」


 大きな戦斧(オノ)を肩に担ぎ、威嚇してくる。

 ケガしないよな?


「ヒーローは遅れて登場するものだよ。

 遅れてすみませんでした」


 家を出る直前、茜がうんちをしてしまい急いでオムツを替えていた。

 次からはもっと早めに用意しないとな。反省。


 ガンテツは正面から改めて観察する。身長は大きくはない。

 ドワーフ、と言ったら失礼になるんだろうな。

 というか、誰かに似てると思ったら、この鎧をもらったスミスさんとそっくりだ。

 身体つきは筋肉質で、俺よりも一回り大きい。

 特に首回りの筋肉はとんでもないな。


 俺だってこの世界に来てから、毎日カザンの地獄のトレーニングをこなしてきた。

 俺のタレントである回復力補正と合わさり、筋肉量はかなり増えたと思う。

 それでもこのガンテツにはかなわない。さすが男所帯を纏めているだけのことはある。


「両者、準備はいいか? 審判は俺がやる」


 カザンが審判をかって出てくれた。

 これでやり過ぎるはないだろう。

 力ずくでも止めてくれるはずだ。


「いつでもいいよ」「おう!」 


 両拳を胸の前に出し、軽く握る。

 重心は中央に、軽いつま先立ちになり、いつでも動き出せるように。


「それでは…、始め!」


 ガンテツはカザンの合図と共に、一気に距離を詰めてくる。

 俺が迎撃する形になった。

 体躯に似合わず、なかなかに素早い。


「フン、フン!」


 肩に担いだままの戦斧は振らず、手足で牽制してくる。

 鋭い攻撃だが、余裕を持って対応できる。


「シッ!」


 戦斧を担いだ側のボディに拳を叩き込む。

 脇がガラ空きだ。


 ガギン!!


 ガンテツは戦斧を逆手に持ち替えると、盾のようにして拳を防いだ。

 ガンテツはニヤリと笑う。

 しまった。誘い込まれた。


 ここまで、接近したら選択肢は限られるはずだ。俺はガンテツの手足を注視し、いつでも防御に回れるように身構えたが、


 ガン!


「いってぇ!」


 顎下からの衝撃。


 唐突に視界が揺れる。

 

 身長差を活かした頭突きだ。単純な一撃だが、シンプルに強い。

 これを狙ってたのか!


 まだ視界が揺れているが、俺の回復力ならすぐに治るだろう。それまでは防御に徹するんだ!


 ガンテツは追撃とばかりに猛攻をかけてくる。

 右、左とラッシュが襲ってくる。

 戦斧のツカでも殴打してきた。


 それを捌く、避ける…、凌ぎ切った!


 ダメージが抜けてきたので、バックステップで距離を取る。

 やられてばかりではな、村のみんなが見てるんだ。



「コオオオォォォォ」



 深く腰を落とし、深呼吸。

 集中。


 目標はガンテツ、戦斧。


雷電一式(らいでんいちしき)


「なっ、消えた! ぐわっ!」


 砂埃が舞い、ガンテツが吹き飛ぶ。


 直前までガンテツがいた場所には、拳を振り抜いた守がいた。戦斧を狙ったからガンテツには直接ダメージはないはずだ。



「それまで! 勝者、守!」


 カザンが高らかに宣言する。




 魔素は上手く扱えば、武器になる。

 俺にはカザンのような複雑な魔素操作はまだ出来ない。

 単純に体内の魔素を下半身に集中させ、『爆発』させたのだ。

 常人であれば、筋肉が切れ、血管にダメージを与え、立っていることもできなくなるだろう。

 俺の防御特化のタレントだから出来た技だ。

 結果はご覧のとおり。


 この技は、瞬間的にとてつもない推進力を生む。

 そこにタイミングよく拳を合わせてやれば、まさに雷の如く、不可避の一撃になる。

 受けた側からすれば、急に消えたように見えるだろう。


「いててて」


 ゆっくりと立ち上がり、フラフラと近づいてくる。

 直撃ではないにしろ、まだダメージは抜けきってないようだ。


「お前の武、しかと見届けた!

 ガンテツ村は同盟に参加する!

 気にいったぞ!ガハハ!」


 大声でそう言うと、背中をバンバンと叩く。

 なかなかに痛い。


 とにかくあとは、コムギ村だけだ。

 大人しく待つとしよう。



 手紙はすぐに届いた。

 『コムギ村は同盟に参加します』

 小さい丸っこい字で、そう書いてあった。


 ここに、四村同盟が誕生した。

 この村々はここから急速に発展していくこととなる。







 俺は、実に多忙を極めていた。


 まず、公共事業として各村との街道を整備する前に、各村の人口について実態調査から始めた。

 村の人数や特徴を正確に把握するためだ。

 年齢、性別、誰と一緒に住んでいるか、職業、タレントを村ごとに記録するようにした。


 つまりは、戸籍(こせき)制度である。

 現在住んでいる現住地を本籍地とするため、住民票と戸籍が一緒になったような感じだ。

 正確に言えば、『壬申戸籍(じんしんこせき)』に近い。


 壬申戸籍とは、日本で初めて本格的な戸籍制度が開始された際に採用されたものだ。

 名前の由来は、実施の年の干支が壬申みずのえさるの年だったためといわれている。

 戸籍の編成単位は「戸」で、本籍は住所地とされ、現在の住民票の役割もはたしていた。

 特徴的なのは、「皇族、華族、士族、平民」といった身分の登録があった事。

 また一般庶民は、「農工商雑」といった職業及び業種も記載事項となっていた。



 俺は、四村同盟にこの制度を導入することで、各村で食料がどのくらい必要になるか予想が立てられることで、食料の流通や備蓄が楽になると考えた。

 また、タレントの把握により、有効的な人材の発掘。人口の増加に事前に備えることも可能だ。

 また、将来的には各村へ人を再配置する際の参考にもなる。


 戸籍の概念がない状態から始めたのだ。

 村人は混乱した。

 戸籍に虚偽の報告があってはならない。

 自分のタレントを秘密にしたい人達に、戸籍の重要性を説いて回る日々だった。


 ここでもマリアさんは活躍した。

 美人で気立てがよいマリアさんは話を聞き出すのが上手い。

 さらに戸籍として記録するために、膨大な量の情報をまとめる作業も手伝ってくれた。

 足を向けて眠れないとは、このことだ。


 三か月かかって、ようやく初版が出来上がった。

 あとはこれを基に徐々に修正していけばいいだろう。

 ひとまず、一段落だ。

 村長達を集めて、お礼を兼ねて親睦会を開こう。





ーーー王都の地下道にて


「クロノ様、各地から報告が上がってきております」


 声の主は、仮面で顔を覆い、片膝をついている。

 その態度からは、主人を慕い従順な姿勢が感じられる。


「そうですか、気になる点はありましたか?」


 クロノと呼ばれた男は青白い顔をしていた。

 薄暗い地下道では、顔が暗闇に浮き出るかのようだ。

 黒いスーツに、黒いネクタイを締めたサラリーマンのような格好だ。


「多くは町や村の自警団が犠牲を出しながら、辛うじて撃退。 ()()された魔物はほとんどいませんでした」


「ほとんど?」


 クロノは仮面の男の言い回しが気になる。


「ビックベアという魔物が討伐されたのですが、要領を得ないのです。

 ある者は、誰かが()()で倒したといい、ある者は、自警団で倒したという。

 どれが真実か、私には両者が嘘をついているとは思えないのです」


 この仮面の男は嘘を見抜くタレント持ちだ。

 この者を騙すことは出来ないはずだ。

 何かが起こっている?


「では、より強い魔物を当てて様子を見ることにしましょう。

 …魔物召喚(サモンゲート)


 クロノが手をかざすと、幾何学的な模様の魔法陣が複数浮かび上がる。

 それらが柱のように立ち昇ると、一匹の魔物が現れた。

 それは、子供に聞かせる寝物語で登場する怪物。

 地獄の門を守護する番犬。

 三つの頭を持ち、体は一つ。

 それぞれの頭からは炎、氷、毒のブレスを吐く。

 その名を、ケルベロスと人々は呼んだ。


「この魔物を使いなさい」

「…御意」


 仮面の男はそう短く返事をすると、魔物を引き連れ行動を開始した。


「面白くなってきましたよ」


 地下道には、青白い顔がぼんやりと浮かんでいた。




異世界日記 210日目

ガンテツとの模擬戦に勝った!

必殺技を開発した甲斐があったぜ!

四村同盟を結成して、戸籍制度を導入したよ。

寝不足が続いたけど、やり遂げたー!飲み会じゃあああああ!※深夜のテンションで書いてます。


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