13話 新装備
異世界生活 94日目開始
ついに理想のオムツを完成させた。
次に俺の新装備のために、鍛冶屋に向かっている。
手持ちの魔石は全て換金してしまった。手持ちのお金で良いものが買えるといいんだが。
メインの大通りから外れたところにポツンと佇む鍛冶屋を見つけた。
こういう個人経営の店ほど穴場だったりする。
日本にいたときはこういう雰囲気の飯屋にぷらっと入るのが好きだった。
数少ない俺の趣味である。
「たのもー!」
俺は上機嫌で、店に入る。
「帰れ」
有無を言わせずに一刀両断である。
背が低く、髪は薄い。ずんぐりとした体型のおっさんだ。
「おっさん、ドワーフか?」
俺は気になったことを聞いてみる。カザンからは、この世界にはドワーフがいると聞いていた。
「誰がドワーフじゃ! ワシは歴とした、に ん げ ん じゃ! 失礼な小僧だ」
まじか!
見た目で判断するようじゃ俺もまだまだだな。
早速、本題に入る。
「おっさん! すまなかった。
俺は守というんだが、俺のタレントを活かせる装備を探しているんだ。 既存の汎用的な装備ではダメなんだ。 脆すぎるんだ」
俺の訴えにおっさんは眉をしかめる。
どうやら興味はひけたようだ。
「スミスだ。 お前さんのタレントは、どんなんだ?」
スミスさんね。
俺はタレントの概要を説明した。
俺は防御に優れている。防具は重要ではないとの考えもあるかもしれない。
だが、俺は特化を望んでいる。
さらに防御を強化し、被弾を恐れずに近づき、相手を蹂躙する。
そんなスタイルを希望していることを伝えた。
「守、と言ったか。 お前面白い奴だな。
となると…前に酔っ払った時に作ったアレを出す時がきたか…」
不穏なことを言ってなかったか。
店の奥から埃被った鎧を取り出してきた。
鎧から禍々しいオーラを感じる。
「これだ。 着てみろ」
スミスは俺に鎧を着せて、鏡をかざしてくれた。
鎧の色は深淵を覗くような漆黒。
分類するとすれば、フルプレートアーマーだ。
頭まで覆われているが、無骨で禍々しい様相。
騎士のようにも見えなくはないが、騎士とは大きく異なる点がある。
その両腕は、通常のガンドレッドよりも二回りは大きい。
騎士とは、剣、盾、両手剣、槍が主な武器であるが、このガンドレッドではいずれの武器も装備出来ないだろう。
これは、明らかに拳を武器とすることを目的としている。
漆黒の剛拳。
そんな言葉が頭に浮かんだ。
「これにはな、秘密の仕掛けがある…ここをこうして…」
スミスから手ほどきを受けると、この仕掛けは俺の秘密兵器になるだろうと確信した。
即決。
元々素手で殴っていたのだ。
見た目に難はあるが、それ以外は俺にぴったりだ。
「これはお前にやる。 金はいらん。 どうせ倉庫に眠ってた奴だ。 お前以外に貰い手はいないだろうよ。 それにその金は別の用途で使うだろうから、とっとけ。小僧のためじゃねぇ、その嬢ちゃんのためだからな」
なんだと!?
誰だ、この気前のいいナイスガイにドワーフと言った奴は!
俺はありがたく鎧を頂戴し、町を出発した。
やる事はやった。
あとは村に帰るだけだ。
※
その活躍ぶりから人々は噂する
黒き鎧に身を包み
清きを助け、悪しきを挫く
窮地には白銀の狼に跨り、千里を駆け抜け
その身を呈して、弱きを守る
拳一つで獣を狩るその姿は
いつしか尊敬と畏怖を込めて、こう呼ばれた
黒鉄の騎士、と
※
町を出て三日後、村に到着した。
カザン夫妻やマリアさんにあいさつし、茜が無事であることを伝える。
みんな自分のことのように喜んでくれた。
自宅のドアを開ける。
やっぱり家が一番落ち着く、とはならなかった。
「やあ、遅かったね。 待ちくたびれたよ」
椅子に座り、優雅にお茶を飲んでいる少年がいた。
「誰だ?! ここは俺の家だよな? どうやって入った?」
突然の出来事とその少年の容姿に混乱する。
少年は黒髪で、整った顔立ちをしていたが、どう見ても日本人のように見えるからだ。
「今日は、簡単な自己紹介と君をスカウトしにきたんだ」
いきなりこの少年は何を言っているんだ?しかも人んちで。
そして、さっきから冷や汗が止まらないのはなぜだ。
年端もいかないその少年からは、常人ではまともに対峙できないような強い威圧感を感じていた。
何がなんでも茜だけは守らないと。
頼みの綱のウルフはシュンと萎縮してしまっている。
肝心な時に頼りにならない奴だ。
「ボクは、神代 夜一。君と同じ日本人だ。
みんなからは『魔王』って、呼ばれているよ。
では改めて君を、スカウトしに来たんだ。僕の仲間になってくれないかな?」
ちょっと待て。
余りの情報量に混乱する。
やっぱり日本人だ。となると、この少年、夜一も召喚された人間なのか?
そんなことよりも、魔王って言ったか?
さすがに冗談だよな?
スカウトってことは、魔王軍に入れってことか?
「お、大人をからかうんじゃないよ。 だいたい魔王がこんなところにいるはずないだろう? 本当に日本人なのか…?」
手が震えだす。
直感的に夜一との実力差を感じ取ったからかもしれない。
さっきからウルフが静かなのも、そのせいか。
「いきなり来たからビックリしたと思うけど、全部本当だよ。 うちの軍は人材不足でね、有望な人材をスカウトして回ってるんだ。守さんは、同郷だから話も合いそうだし」
「魔王様! こんな奴、力ずくで従わせればいいんですよ! なんならアタシの洗脳魔法で…」
「なッ?! いつの間に!」
夜一の隣から、軽装の女性が現れた。
官能的な装いで、背中から蝙蝠のような翼が生えている。
「やめろ!」
夜一が手をかざし、女性を制止する。
助かった。
こいつも俺より強そうだ。
しかも洗脳魔法って言ったか?物騒すぎる。
「驚かせて悪かったね。
こっちは、クレア。 サキュバスという種族で、ボクの部下だ。
守さんを魔法で無理やり従わせる気はないから安心して」
クレアと呼ばれたサキュバスはしょぼんと落ち込んだ様子だ。
日頃から感情が先行して、空回りしているんだろう。
少しだけ夜一に同情する。
それに俺、名乗ったっけ?既に知られていることを考えると、日頃から監視されていたと考えた方がいい。
「何で俺の名前を…、断ったらどうなる…?」
絶対的強者二人を目の前にしては、夜一の言葉を信じるしかない。
ここでカザンに助けを求めても無駄だろう。
カザンはケガの後遺症がある。
ただ負傷前の万全な状態であっても勝てないだろう。
しかも今は茜もいる。
茜を守りながら、逃げられる気がしない。
「今日のところは引き上げるよ。一番な目的は顔合わせだからね。
守さんはこの世界に上手く順応しているようだね、羨ましいよ。困ったことがあったら知らせて、飛んでいくから。
あと、一つ忠告」
夜一はそう言って、人差し指を立てる。
「あまり目立たないことだ。
守さんは前の世界の知識がある。 その知識とこの世界の魔法や物と組み合わせると、色々出来ちゃうんだよね」
ギクリ
こいつ見てたのかな?
俺が新オムツを作って、ひゃっほいしているところ。
確かにアレが世間に広まれば、オムツ革命が起きると言っても過言ではない。
困る人も出てくるのかもしれない。
「忠告はしたからね。
それじゃあ、またね」
そう言い残し、黒い霧に包まれると、二人は消えてしまった。
俺はその場に座り込んだ。
テーブルの上に置かれた、『禍々しい笛』が先ほどのやりとりが現実だと物語っている。
用があるときは、これを吹けってことか。
そっと、ポーチの奥に仕舞った。
次から次へと問題が起こるな…。
色んなことがいっぺんに起きすぎなんだよ。
俺は頭を悩ませながらも、この日は寝ることにした。
異世界日記 97日目
俺専用の新たな装備を手に入れたぞ。
スミスさんと知り合えたし、いい出会いだ。
いきなり自称魔王とサキュバスのクレアが家にいた。
俺を魔王軍に入れたいと。
最悪の出会いだった。




