表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界育児  作者: 葉山 友貴
第一章 育児奮闘・開拓編
12/91

11話 継承

 異世界生活 47日目開始。


 目が覚めると、そこは知らない天井…ではなく、辺境村にある自宅の天井だった。


 すぐに全身に激痛が走る。

 身体が痛い。

 全身が熱い。


 自分の体ではないような重い体を起こすと、ベット脇にはマリアさんがいた。

 口元に手を当てて驚いている。

 顔に疲れが見える。

 もしかして夜通しで看病してくれていたのか?相変わらずの聖母っぷり。


「マリアさん…、旦那さんの、仇は、とりましたよ」


 俺は呂律(ろれつ)の回らない口で、何とかそう言った。


「私は!! 私は…、そんなことよりも守さんが生きて、帰ってきてくれたことの方が、嬉しいんです!」


 泣いているような笑っているような複雑な表情で、マリアさんは答えた。


 心配かけちゃったな。

 俺が死んだらこの村から狩人がいなくなってしまう。

 狩人の仕事をこなせる人材は貴重だから、困るということなのだろう。


 素直に謝った。

 暫く休めば、仕事には支障はないと伝える。


 すると、マリアさんはプイッと顔をそむけてしまった。怒らせちゃったかな?


 無茶してごめんなさい。

 心の中で、彩夏と茜にも謝ってみる。




「そうだ、カザンは!?」


 雰囲気を切り替えるように、俺は気になっていたことを口にする。


「安心してください。 カザンさんには、アンナさんが着いていますから。

 重症でしたが、一命は取り留めましたよ。カザンさんのご自宅で療養中です。

 守さんは、それよりも自分の体を心配してください!

 運び込まれたときは、カザンさんよりも重症だったんですよ…?」


 よかった…生きてる!お見舞いに行こう。

 はて、全身打撲ではあるが、俺は重症なのか?目覚めた直後は確かに激痛を感じたが、こうしてマリアさんと話しているうちにそれも徐々に和らいでいる。


 うーんと、頭をひねっていると、マリアさんが呆れて答えをくれた。


「驚異的な、回復力です。常人とはかけ離れた、それも異常なまでの。

 これは個人差といえるものではありません。おそらくはタレントの能力でしょう」


「タレント…、防御特化だとは思っていたのですが」


 なんと。

 俺のタレントは、ただ硬いだけじゃなかったのか。


 思い返せば、これまで昼は探索や訓練、夜は茜の世話と、ろくな休息も取れずに体を酷使し続けてきたが、翌日には疲れが吹き飛んでいたな。タレントのおかげだったのか。


 本当にどこまでも防御よりの能力なんだな。

 『防御力補正』と『回復力補正』ってところか。


 その後もマリアさんと会話を続けていると、現状が分かってきた。

 ビックベアを倒してから、二日経っているらしい。


 あの後、俺とカザンはウルフに担がれ、魔の森の外に待機していたビクトルさん達と合流した。その時から気を失っていたらしい。

 ビクトルさんは俺達に応急処置を施した後、急いで村まで急行してくれた。

 ウルフが随行することで、魔物には一切襲われなったそうだ。ウルフのあの姿を見れば、並の魔物であればビビって襲ってこないだろうさ。

 

 そのウルフはというと、村にたどり着いて安心したのか、すぐに眠りについた。

 こいつも相当に無理したのだろう。

 今は元気らしいので、後でたっぷりとお礼してやろう。


 それにしてもギリギリの戦いだった。

 あの時、ウルフが助けに来なければ全滅していただろう。

 白銀の狼のような姿はかっこよかったな。

 ウルフのタレントは『変化(へんげ)』と呼ぶことにしようか。


 今、考えるとあれだけ強い魔物がなんの予兆もなく現れることがあるのだろうか。

 ビックベアの性質的に隠密行動に長けているとは思えない。

 カザンは狩人のタレントがあるため、気配察知の能力を持っていたはずだ。ウルフの鼻もある。

 状況的に突然、現れたとしか考えられない。

 異世界的に推測すれば、誰かが召喚したとか、服従させていると考えるのは飛躍しすぎだろうから。

 今すぐに答えはでないが、忘れないように覚えておこう。



 それと、俺はマリアさんから気になることを言われた。

 手当てした際、俺の背中に、どこかで見たことがある模様を見つけたと言われたのだ。


 背中なんて自分では見ないから、全然気づかなかった。

 今のところ特に不便はないし。気にしないでおこう。その時は、その時だ。


 翌日、俺は歩けるまでに回復した。

 朝、部屋の中で毎日の日課である訓練をしているとマリアさんに驚かれた。

 そして、「安静にしてなさい!」と、筋トレグッズは没収されてしまった。怒ったマリアさんは怖かった。



 カザンの家にお見舞いにきた。

 玄関のドアが開き、アンナさんが出迎えてくれた途端、いきなり強く抱きしめられた。


「本当によかった。 あの人も、あんたも無事で」


 ああ、ここは本当に居心地がいいなぁ。


 気を取り直し、カザンの様子をうかがうと意識はあるが、まだ話せる状態ではないらしい。

 とにかく俺が異常なのだそうだ。

 仕方ないので、しばらくは自主練に励むとしよう。





 一週間後、訓練場にカザンが杖を突きながら、ゆっくり歩いてきた。

 俺たちは、何も言わずお互いの無事を確かめるように力強く抱きしめ合った。


「俺は、もうこの通り引退だ。

 やっと危険な仕事とはおさらばだ。

 あーせいせいするぜ」


 カザンは軽い口調とは裏腹にカザンは悔しそうにそう言った。


「今までお疲れ様でした。

 これからは師匠の技術を、思いを。

 俺が、継承します」


 俺は頭を下げ、カザンを労いつつ決意を宣言する。

 ケガが治っても完全には元通りとはいかないのだろう。

 こんな形ではあるが、この村の狩人は俺に引き継がれたのだ。


 無様な真似はできない。

 ビックベアのような強力な魔物に遭遇しても、切り抜けられるだけの力を身につけなければならないのだ。


 一大決心を胸に、俺はビクトルさんから例の薬をあるだけ購入するのだった…。


 この薬…、ドーピング薬と呼ぼうか、これと俺は相性がいい。

 タレントのおかげですこぶる頑丈なため、一度に全部飲んでも死ぬことはなかった。

 強くなるまでの繋ぎだ、と自分に言い聞かせながら大事にポーチにしまう。

 ただし、貴重な薬らしく、あんまり買えなかったが。



 自宅で茜の世話をする。

 体が完全に癒えるまでは、魔の森に行くことは控えよう。

 最近ドタバタだったから、久しぶりに落ち着いて茜の顔を見た気がする。


 もう生後三カ月だ。

 また顔つきが変わっている気がする。少し顔立ちがはっきりしてきたかな?肉付きがよくなってきた、どんどん成長していくなぁ。カメラがあれば記録に残しておきたいけど、ないしなぁ。


 少し前まで、顔に赤いポツポツができていたけど、すっかり良くなった。確か乳児湿疹といったはずだ。ほとんどの場合、成長と共に良くなるが長引くときは受診が必要だ。


 以前はずっと寝ていたのに、今は起きている時間が増えてきた。

 俺は茜を抱っこしながら、魔の森に転移してから今日までのことを話して聞かせたのだった。


「うー、うー!」


 喋った!

 なんだっけか。名前があったはずだ。

 そうだ、クーイングだ!


 クーイングは泣き声とは違い、ゆっくりとリラックスしたような声が特徴だ。

 赤ちゃんの口や喉が成長したことで、出せるようになり、言葉の発達への始まりだともいわれている。

 話せるようになる日も近いかな。初めて話す言葉はなんだろう。

 パパかな?パパだよな?パパに決まってる。頼むぞ…。





 深夜。

 夜泣きに起きてオムツを替えていると、替えたそばからまたうんちをされた。

 やられたぜと思って茜を持ち上げると…


 首がグラグラしない!!


 これは、首がすわったのか。

 三カ月頃から首が据わり始めると言われているが、早くないか!?

 首すわりとは、赤ちゃんは自分で頭を支える力がないため、抱き上げるときや横抱きするときに頭を支えてあげなければならない。

 首がすわれば、自分で頭を支えられるのだ。

 当然、安定感が増す。

 楽に抱っこできるようになるのだ。

 

 こんなに早く首がすわるとは、大きくなったらきっと活発で運動神経抜群な、とびきり美少女になるだろうなぁ。

 男の子にモテモテだろうなぁ、パパ心配だなぁ。




異世界日記 55日目

ビッグベアから受けた傷はタレントのおかげですぐに良くなった。みんなには心配かけた、反省。

カザンから俺にバトンは渡された。気を引き締めて仕事しよう。

茜の発達を感じた。大きるなるのはあっという間なんだろうな。ああ、カメラに収めたい。魔法の道具にないのかな?

 書き溜めが無くなったので、次回から更新が不定期になります。すみません。週2回くらいの更新を目指します。

 よろしければブックマークをお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ