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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第一章:挑みし者たち

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67. 死戦 /その⑤

 この物語には、残酷な描写ありのタグがついております。ご注意下さい。



 ─ 6 ──────


 敵の斬り裂かれた喉からは息が漏れ、甲高い笛のような音が響き渡った。


 ジャンダルはナイフについた血を払い、一歩退き返り血を避ける。敵は目を見開き、喉から漏れる空気を吸い込もうと必死に口を動かした。


 ファルハルドは握り締めていた拳を放す。敵は傷口を塞ぐかのように、自らの喉を手で押さえる。


 バーバクは抱え込んだ敵の身体を放す。敵はゆっくりと身体を傾けた。


 ファルハルドたちの視線の先で、土気色と化した敵はのけ反りながら倒れていく。


 ファルハルドたちは倒れかかる敵を避けるため、その身を退いた。

 全員が疲労と負傷で限界を迎えている。勝利の安堵にわずかに警戒が緩む。無意識に身体の力を抜いた。




 その時、一つの偶然が知らせた。

 倒れる敵とバーバクの目が合った。バーバクの全身の毛が逆立つ。

 敵の目は死んでいない。こいつはなにかを狙っている。


 警戒の言葉は間に合わない。バーバクは咄嗟に残った力を振り絞り、敵の身体を蹴り上げファルハルドとジャンダルの上に覆い被さった。


 敵は誰に向けたかわからぬ怨嗟の表情を見せた。瞬間、暗殺者の身体は膨らみ、激しい音と共に爆散する。


 飛び散った血肉が通りを汚し、弾け飛んだ骨がバーバクの背に刺さる。バーバクは無数の傷を負い、腹に刺さったままだった小剣もファルハルドたちに覆い被さった勢いで途中で折れながらさらに深く突き刺さった。


「バーバク、ファルハルド、ジャンダル」


 ハーミが息を乱し、這うようにしながら懸命に駆けつける。

 三人は気を失っている。ファルハルドとジャンダルには新たな被害はない。バーバクがその身を盾に守り抜いた。



 やっと衛兵たちも駆けつけた。戦闘が終わったことを見て取ったのか、白華館や周りの建物からも人々が集まってくる。


 ここに長く短い戦いが終わる。





 暗殺者は目的を果たせなかった。目的とするファルハルドの命を奪うことはできなかった。


 だが、暗殺者はその身に自ら始末をつけ、もはや身元を辿れるだけの証拠は残っていない。イルトゥーランがパサルナーンの自治権を侵害したと証明することはできない。

 そして、たった一人で甚大なる被害を与えた。


 この騒動により、パサルナーンの街を訪れていた来訪者たちに世界一、二の規模を誇る巨大都市の治安に重大な懸念を抱かせた。それは世情を揺るがす問題。後々、どんな影響をもたらすのか、誰にも予想することはできない。


 白華館はかけがえのない最上の娼婦が大怪我を負うことになり、さらには遊興の場として致命的な、安心して遊べない店であるという悪評を負った。


 ファルハルドは瀕死の状態。体力を限界まで使用。さらに身体の酷使により筋肉、腱、関節が損傷。右掌には穴が空き、指が一本完全に動かない。肩の肉は一部が削がれる。左肩は剣で貫かれ、動かない。出血多量。剣に塗られた猛毒も受ける。ただし、イシュフールの特性から毒の影響は比較的軽度。


 バーバクは体力を限界まで使用。腹部を深く刺される。背中にも多数の傷を受け、無数の敵の砕けた骨が埋まっている。両肩ともを剣で刺され、両腕はまともに動かない。暗殺者の小剣には猛毒が塗られていた。しかし、剣はファルハルドの身体を貫通したため、バーバクにまで届いた毒は極少量。


 ハーミは生命力でもある魔力を限界まで使用。しばらく回復できないほどの疲労を負う。


 ジャンダルはいくつかの打撲。広い面積の擦り傷。毒を受けるが、毒消しにより影響は極軽微。体当たりによって壁に叩きつけられた際、何本かの骨にひびが入る。


 カルスタンとデルツは毒を受ける。昏睡状態。影響は極めて大きい。


 レイラは重傷を負わされ、なんとか命を繋いでいる状態。無事に回復したとしてもその身には消せない傷痕が残ることになる。



 これがこの日、たった一人の暗殺者が残した爪痕だった。

次話、「騒動の後」に続く。


 次回更新は17日。以後、週一(基本的に)日曜日更新に戻ります。

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