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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
序章:たとえ、過酷な世界でも

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08. 子供たちと一つの決意 /その①

 この物語には、残酷な描写ありのタグがついております。ご注意下さい。



 ─ 1 ──────


 ファルハルドがジーラを背負い、荷物が多く大きな背負子しょいこを背負うジャンダルがモラードの手を引き出発した。


 気持ちがはやるモラードはついつい速足駆け足になってしまう。村のことをもっと詳しく知りたいから話を聞かせてくれと何度も止め、無理にでも休憩を取らせるようにした。



 それでも日暮れまでにはまだ時間があるうちに、集落が見える場所に辿り着く。ファルハルドは子供たちをジャンダルに任せ、一人で集落の様子を探りに向かった。


 警戒しながら集落の北側にある林に近づく。賊が林に見張りを置いている可能性も考えたが、人影はなかった。


 林に足を踏み入れる。曠野こうやの民イシュフール。その目や耳は天地自然の中でこそ真の感覚を得る。集落傍の林とは言え、ここは木々の間。わずかにだが、ファルハルドの感覚は鋭敏さを増した。


 集落の方角に意識を向ける。人数まではわからないが人の気配が感じられる。生き残った村人か、あるいは賊か。


 ファルハルドは注意深く集落へとにじり寄る。道中モラードから聞いてきた通り、集落の周囲には木の柵が巡らされている。おおよそファルハルドの背丈と同じくらいの高さだ。林から見る限り、柵には壊されている箇所は見られない。


 このまま柵を越えるか、あるいは西側にあるという集落の出入口に回り込むか。ファルハルドは束の間考える。


 人が潜みやすそうな林。入り込みやすい出入口。集落の気配が賊ならば、当然見張りを立てているだろう。そしてどちらを選んだところで、見張られていれば同じこと。

 幸い今この場に見張られている様子はない。ならばこのまま柵を越える。


 ファルハルドは決断し、もう一度周囲をうかがったあと、林から駆け出し一息に柵を跳び越える。

 無音で着地。家の陰に移動。静止。再び周囲を窺う。人影は見当たらない。


 隣の家までは少なからず距離がある。家と家の間は最も狭い場所でも荷物を持った大人が楽に擦れ違える程度の距離が開いている。家の陰から別の家の陰に移動する際には注意が必要だろう。



 家々の間から集落の中心を覗く。モラードの話では中心にある柵の中で、集落共同で所有する牛と六頭の山羊が飼われている筈だった。だが、家畜の姿は見られない。そして、どこからともなく肉を焼く匂いが漂っている。


 これでなぜ人の気配が残っていたのか理解できた。飢えた賊たちが家畜を絞め、延々と腹を満たしているのだろう。


 匂いを辿れば南西の方角から漂ってきている。出入口のある西側を避け、集落の東側からぐるりと回り込む。

 いた。家畜のいた集落中心の柵のすぐ南側。さっきまでは家の陰で見えなかった場所で五人の男たちが肉に喰らいついていた。


 全員がすさんだ顔付だ。武器は一人が剣。斧が三人。棍棒が一人。剣を持つ男だけが朽ちかけた革鎧を身に着けている。

 おそらく剣を持つ男だけが兵士あがりかなにかで、あとの男たちは食い詰めた農民崩れだろう。


 一瞬ファルハルドの頭に、剣を持つ男を不意打ちで倒し、そのまま全員を倒すという考えが浮かぶ。だが踏み止まる。賊がこの五人だけとは限らない。それに誰か住人で生き残っている者がいるかもしれない。気持ちを抑えさらに探る。



 見えてきた。集落の南と西では家々の扉や壁が大きく壊されている。そのなかの一軒に、二人の賊の男たちの姿があった。

 そして。そして、そこには殴られ顔を腫らした住人らしき若い娘も。


 賊たちは泣き叫ぶ娘を押さえつけ、その着衣を引き裂いた。


 再びファルハルドの頭の芯が冷たく熱く燃え上がる。考える前に身体が動いていた。


 室内に跳びこむ。背を向けた男の首に斬りつける。ファルハルドが佩いている剣は暗殺部隊の小剣。最初の追手を倒した時に刃毀はこぼれだらけの剣から交換した。今では最も使い慣れた武器となっている。


 使い続けるうちに小剣も刃毀れが目立つようになっていたため、改めてこの前倒した追手から回収した新しい小剣に交換し直している。


 声を上げる暇を与えず、もう一人も斬り捨てる。武器を手放し、二人掛かりで女を襲うようなやからだ。抵抗もできず、あっさりと崩れ落ちた。



 若い娘は気を失っている。救われた安堵から、ではない。眼前で二人の男が斬り捨てられた驚愕から。その男たちの返り血でその身を濡らした恐怖から。あまりの衝撃に娘は気を失った。


 ファルハルドは男たちを斬り捨て、幾分かの冷静さを取り戻した。娘の状態が気に掛かる。だが今は、様子を見ることはできない。その前に行わなければならないことがある。


 複数の足音が聞こえる。闘争の音を聞きつけ、村に残っていた賊たちが武器を手に集まってきた。これを予想していた。


「んだ、てめえ」


 ファルハルドは、狭い室内ではなく自由に動ける戸外で賊たちを迎え撃つ。

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