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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第一章:挑みし者たち

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54. 三層目連戦 /その①



 ─ 1 ──────


 今日は白華館で夕食を摂っている。

 最初の宴のような大袈裟なものではないが、最近では食事に時々白華館を利用している。金欠が原因で、なかなか白華館に足を向けようとしないファルハルドを気遣ってのことだ。


 毎度、食事だけで泊りはしないが、それでもレイラは同席している。少なくとも、憎からずは思っているのだろう。あくまで商売の範囲内ではあるが。


 食事を終え、拠点へと帰るファルハルドとハーミをレイラたちが見送る。ちなみにバーバクとジャンダルは泊りだ。


 レイラは、またどうぞいらして下さい、などと余計なことは言わない。ただ少し寂しげな目をして、ファルハルドの手を取り名残惜しそうにその手を離すだけだ。

 実のところ全てのお客に対して行っている、定番の手管である。これで、皆レイラに心奪われる。


 だが、ファルハルドにはさして気にした様子はない。レイラが表まで見送りにくる相手など他にいないのだが。

 それでも、白華館に誘われれば毎度ついてきて、白華館にやって来れば毎度レイラを指名する。それがどんな感情に起因するのか、わかっていないのは本人だけだろう。



 レイラたちに見送られ、ファルハルドたちは日の暮れた街に歩み出す。通りでそれを見ていた、挑戦者らしきがたいのいい男が忌々しそうに舌打ちをした。




 ─ 2 ──────


 ファルハルドたちは三層目で四体の豚人とぶつかった。

 豚人は意外に手強かった。豚人より力が強い敵も、素早い敵も、いくらでもいる。しかし豚人は、挑戦者から奪ったらしき装備を身に着けている。


 錆びた剣や古びた棍棒を振るい、あちこちに亀裂が入った盾を使う。武具を使う怪物など、ファルハルドとジャンダルは未だ豚人しか知らない。

 ファルハルドたちにとっては決して勝てない相手ではない。しかしなかなか倒しきれず、戦いは長引いた。



 二体の豚人を倒し、残り二体となった時、前後から一体ずつの獅子人までが現れた。獅子シールの咆吼が木霊する。

 前から疾走して来る獅子人にジャンダルが飛礫つぶてを放ち、後ろから襲いかかる獅子人をハーミが光壁で止める。


 ジャンダルの飛礫が獅子人の目に当たる。獅子人の勢いが殺された。その間を活かし、バーバクが声を掛ける。


「ファルハルド、豚人は任せた」


 返答を待たず、バーバクは盾を掲げ獅子人にぶつかっていく。ファルハルドは今まで自分が相手にしていた豚人とバーバクが相手にしていた豚人、二体の豚人と交戦しながらジャンダルに声を掛ける。


「俺は大丈夫だ。バーバクの援護を頼む」


 ジャンダルはわかったと声を上げ、投げナイフを手に身構える。


 豚人は人より強い力、人より頑丈な身体を持つ。だが、武器を操る技術はつたない。二体同時であってもファルハルドが負ける筈もない。道具を操る怪物と当たった、その最初の戸惑いさえなくなれば傷を負うことなく倒せる。



 獅子人は手強い。獣人の中でも上位の身体能力を持ち、同時に魔法に対する抵抗性を持つ。戦いに不慣れな神官の光壁であれば、一撃で叩き割られるほどだ。


 だが、ハーミは歴戦の挑戦者。巨人の攻撃すら止める光壁は獅子人には破れない。獅子人を閉じ込め、浄化する。


 獅子人は激しく抵抗する。さすがに魔法への抵抗性を持つ獅子人をすぐには浄化できない。暴れ光壁を破ろうとする獅子人に、何度か光壁はきしんだ。バーバクやファルハルドが気に掛かったが、ハーミは目の前の獅子人を浄化することに集中する。


 獅子人はバーバクの体当たりを受け止めた。唸り声を上げ、押し返す。バーバクは獅子人に負けぬ咆哮を上げ、足を踏ん張りさらに押す。じりじりと獅子人の足が迷宮の床を滑り始める。

 バーバクは一気に力を籠める。獅子人は足を滑らせ、床に転がった。


 バーバクは獅子人の首を断とうと斧を振り下ろす。獅子人は素早く壁際に逃れる。完全には斧を避けられていない。その肩の一部を削いだ。獅子人はそのまま前に駆け出す。

 その先にはジャンダルがいた。


 ジャンダルはうひゃっと叫び、投げナイフを放ちただちに突進を避ける。投げナイフは片目に刺さるが、獅子人は止まらない。ジャンダルは避けたが、獅子人が駆けるその線上にはハーミがいた。


 ハーミは獅子人の突進に気付き、なんとか盾を合わせた。直撃は防いだが、無理な体勢では踏ん張れない。押され、倒れ込む。ハーミに体当たりを浴びせた獅子人はその勢いのまま行き過ぎる。


 ハーミが倒れた拍子に光壁は消えた。浄化中の獅子人が解放される。解放された獅子人は怒りに駆られ、床に転がるハーミに跳びかかる。


 ハーミの喉を獅子人の牙が引き裂こうとしたその時、ジャンダルの投げナイフが獅子人の鼻に刺さった。間髪入れず、飛礫の雨を浴びせる。


 獅子人は狙いをジャンダルへと変更した。そこに戻って来たもう一体の獅子人も襲いかかる。ジャンダルに向け、二体の獅子人が迫る。


 そこに大声を上げ、自分へと注意を引きながらバーバクが割って入った。ジャンダルの投げナイフと飛礫で弱っていた獅子人を盾で殴りつける。獅子人は奇妙な声を上げ、床に叩き伏せられた。

 もう一体の獅子人を斧を振り回し、牽制する。獅子人は後ろに下がり、バーバクの斧を避ける。バーバクは踏み込み、追いかける。


 床に叩き伏せられた獅子人にジャンダルが駆け寄り、鉄球鎖棍棒を振り下ろし止めを刺す。ファルハルドも豚人を倒し終わり、ハーミに駆け寄り助け起こした。


 たった一体残った獅子人はこの状況でも戦意を失わない。咆吼を上げ、バーバクに襲いかかる。獅子人は爪を振り上げ、牙を剥く。

 バーバクは盾で受け、斧を振り下ろす。ジャンダルの投げナイフで片目が潰されできた死角を狙う。四合の攻防でその首をねた。




「済まん」


 戦い終わり、バーバクから出た第一声は謝罪だった。通路に響き渡る大声で皆に謝り、頭を下げた。


「気にするな。戦いに手違いは付き物だからの」

「ああ、あれは仕方がない」


「そー、そー。それにほら、こうやって頼りになるおいらもいるんだし。助け合ってこその仲間でしょ」


 バーバクは頭を上げ、自分の両頬を叩く。


「わかった。うじうじ言っててもしょうがない。気持ちを切り替えていくか」

「そそ。で、獅子人はどこが換金素材になるの」


「牙とたてがみ、あとは目玉だな。鬣と目玉は魔導具組合でなかなかいい額になるぞ」

「そう。じゃあ、ささっと回収して休息所で休もうか」


 一行は賛同し、手早く素材回収を行った。

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