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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第一章:挑みし者たち

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53. 三層目進出 /その②



 ─ 3 ──────


 ハーミは納得できたのか、先頭から外れた。バーバク、ファルハルド、ジャンダル、ハーミの順で通路を進む。

 通路の突き当たりで道が左右に分かれる。左に曲がり、進んでいく。正面に人に似た、だが人とは異なる影が見えた。


 現れたのは蜥蜴マル・ムラクの獣人二体。鋭い鉤爪を持ち、全身が厚い鱗に覆われている。その頭は人と比べ遥かに大きく、目玉も大きく、口も大きい。背丈は、肩までならファルハルドよりわずかに高い程度。しかし頭までを含めれば、バーバクと変わらぬ背丈となる。細身で、ひょろ長い体形をしている。


「気を付けろ。こいつらは爪と牙に毒がある」


 蜥蜴人が駆け出し、バーバクたちが身構えたその時、ハーミが鋭い声を上げた。


「背後から敵、二体」


 後ろから妙に肥え太った二体の獣人が現れた。一体は猪。一体はヒューコ。猪人は動物の猪に比べ異常に大きな牙を生やしている。豚人はその手に棍棒を持つ。


「後ろの二体は儂がやる。ジャンダル、二人の援護は任せた」


 全員が応える。ハーミが猪人と豚人を光壁で包み、ジャンダルは飛礫つぶてと投げナイフを持ち身構える。バーバクとファルハルド、それぞれに蜥蜴人が迫る。



 ファルハルドは小剣を抜き、左手に盾を構える。ファルハルドは迫る溶岩に襲われた際にべんを失った。今後は鞭は必要ないと判断し、代わりに肉厚の短剣を右腰に差している。戦闘中に小剣をなくした時の予備としてだ。


 向かって来る蜥蜴人の大きな目は、どこを見ているのかわかりづらい。視線から狙ってくる箇所を先読みするのは難しい。


 敵は腕を振り上げる。顎が大きく、咬みつく力が強そうに思えるが、蜥蜴人は爪による攻撃を繰り出してきた。振り下ろされる鉤爪を盾で受ける。

 力は強い。が、熊型の泥人形や石人形ほどではない。ファルハルドでも受けきれる。だが、鉤爪が盾を削る。何度も受ければ盾が保たない危険がある。


 蜥蜴人の次の攻撃が来る。一撃目と同じ、鉤爪を振るっての単調な攻撃。

 ファルハルドの頭にハーミの盾使いがぎる。鉤爪が盾に当たる直前に一歩前に出る。打点をずらす。完全に振りきる前の、勢いが乗りきらない状態で攻撃を受けた。一撃目より伝わって来るその衝撃は軽い。


 バーバクやハーミの盾使い全てを今すぐ真似ることはできないが、前に出て勢いを殺す技法はすぐに写し取れた。元よりファルハルドは敵が攻撃を繰り出す寸前に距離を詰め、攻撃を出させない遣り方は何度か行った経験があったためだ。


 蜥蜴人は連続して、次の攻撃を繰り出す。右手で盾を押しながら、左手の鉤爪で横薙ぎ。ファルハルドの空いた胴を狙う。


 ファルハルドは剣で迎える。硬い手応え。手首を落とすつもりだったが、鱗に阻まれ払うにとどまった。


 鱗に覆われていない箇所を探す。普通の蜥蜴と違い、腹や喉、脇の下まで細かな鱗に覆われている。

 目、口。すぐにわかるのは、その二箇所。しかし頭は絶えず振られ、その位置はファルハルドの頭よりも上。狙いにくい。どうするか。


 ファルハルドが思考する間も、蜥蜴人は同じ単調な攻撃を繰り返す。振るわれる鉤爪に目をやる。

 ファルハルドは狙う。振るわれる右手のそのてのひらを剣で突く。物を掴むためか、蜥蜴人の掌は鱗に覆われていなかった。そこを狙った。


 ファルハルドの剣は敵の掌を貫く。蜥蜴人は叫び声を上げる。ファルハルドはそのまま剣に体重を掛け、一気に腕を斬り裂いた。

 敵はのけ反り、絶叫する。跳躍。ファルハルドは、叫び声を上げるその口に剣を突き入れた。



 目をやれば、バーバクはあっさりと蜥蜴人の首を打ち落としていた。力が強く、重い斧を振るうバーバクには蜥蜴人の硬い鱗も意味を為さなかった。




 ─ 4 ──────


 ハーミもすでに敵を片付けていた。今回は誰も怪我は負わずに戦いを終えた。バーバクとファルハルドが素材の回収を行い、ハーミとジャンダルはのんびり喋りながら周囲の警戒を行う。


「いやー、援護の必要なかったね」

「ふむ。ファルハルドも思ったより危なげなく倒したの」


 ファルハルドは手を止め、肩をすくめる。


「あの鉤爪には驚かされた。もし盾が割れていれば、ああはいかなかった」


 皆は頷く。


「なら、ちょうどいい。蜥蜴人の鱗を盾に貼るか」

「あー、これ。確かに丈夫そうだね」


 ジャンダルは確認するように、倒れている蜥蜴人の鱗を指でつつく。鋼のように、とは言わないが、刃を通すのにも苦労するだけの丈夫さはある。


「ああ、二人の盾に使うのにちょうどいいだろうよ」

「あれ、バーバクたちはいいの」

「俺たちのはもっといい素材ものを使ってるからな」


 バーバクは少し得意そうに笑い、ハーミも笑う。


「なら、今日のところは三層目はここまでにするか。一層目で木人形の素材を手に入れるかの」


 一行は一旦地上に転移し、改めて一層目に転移した。パサルナーン迷宮では各階層から一つ下の階層には転移できるが、上の階層への直接の転移はできないためだ。上の階層に挑みたければ一度地上に戻り、そこから改めて転移しなければならない。


 幸い休息所から出て最初の敵が木人形だった。すぐに倒し終わり、素材を回収した。




 神殿での光の奉納の後、回収した素材を持ち一行はまず武器組合に向かう。ここでは猪人の牙と蜥蜴人の爪を換金する。回収した猪人の牙は標準より大きく、いい値段になった。


 奥にいたモズデフと目が合った。モズデフはこの半年位で所作も落ち着き、随分大人っぽくなっていた。


 この前、ファルハルドが失くしたべんの代わりを探しにオーリン親方の店を訪ねた際、ちょうどモズデフも店にいた。久しぶりにモズデフともゆっくり話をしたが、その時世間話の流れでモズデフにいくつか見合い話が申し込まれていると聞かされた。


 いい相手が見つかればいい、と声を掛けるファルハルドは、なぜかモズデフからきつい目で睨まれた。なにか拙かったかと尋ねるファルハルドに、オーリン親方は少し疲れたように気にしなくていいと答えていた。


 もしや、今日も機嫌が悪いかと思ったが、モズデフは朗らかな笑顔で手を振ってくれた。ファルハルドとジャンダルも笑い、手を振り返す。


 モズデフの笑顔は人の気持ちを明るくさせる。やはりモズデフには明るい笑顔が似合うとファルハルドが呟けば、なぜかジャンダルは呆れ顔を向けた。


 防具組合では蜥蜴人の鱗を換金した。もっとも、一番いい箇所はファルハルドたちが自分で使うため、換金した部位はたいした金額にはならなかった。



 バーバクたちと別れ、ファルハルドたちはキヴィク親方の店に向かう。


「ほう、こりゃ蜥蜴人の鱗だな。挑戦が順調に進んでいるようでなりよりだ」


 木人形の木材と蜥蜴人の鱗を渡し、新たな盾の作製を依頼する。大きさや握りなど形は今使っているものと同じで頼んだ。出来上がりには八日ほど掛かるらしい。半金を支払い、拠点に戻った。




 酒場で夕食を摂りながら、ジャンダルが不満げに零す。


「三層目って、思ってたより金になんないね。一層目、二層目とかよりは単価は高いけど、採れる素材が少ないんだもんね」

「そのあたりは出て来る怪物次第だな」


「獣人どもはむさぼる無機物どもと違って変種が多くての。それによって採れる素材もかなり変わって来るのだ。ほれ、今日の猪人も極端に牙の大きなものだったろ」

「変種と言うと戦い方なども違うのか」


 ジャンダルは稼ぎの心配をするが、ファルハルドの関心は戦いにしか向いていない。


「ああ、いろいろいるぞ。蜥蜴人で言えば、もっと鱗が丈夫な奴や爪や牙がでかい奴、天井に張り付いて移動する奴。あと、初めて見た時に驚いたのは全身に火をまとった奴だな」

「でえー、なにそれ。意味わかんないんだけど」


 ジャンダルもファルハルドも目を丸く見開いている。


「だよな、俺もよくわかんねぇ。まあ、闇の怪物はそういうもんだってことだろ」


「儂としては獣人なら豚人とはあまりやりたくないの。あやつらは見た目に反して、かなり知恵がある。追い詰められた振りも使ってくるからの。逃げ出して、釣られて追いかけてきた挑戦者を待ち構えていた新手の獣人と一緒に襲うこともある」


 ジャンダルもファルハルドも顔が引きる。


「ひょえー、怖っ」

「獣人は結構、狡猾な奴が多いな。曲がりなりにも、獣『人』ってだけはあるってことだ」


 その日は変種について話しながら夜が更けた。

次話、「三層目連戦」に続く。




 更新は週に一度予定ですが、諸事情により基本、日曜日更新、時々、土曜日更新になります。

 ややこしくてすみません。

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