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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第一章:挑みし者たち

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50. 二層目攻略 /その②



 ─ 4 ──────


 モサーラカトの月半ば、ファルハルドたちはいよいよ二層目攻略の総仕上げにかかった。


 今回は、今までに一度も行ったことがないことを実行しようとしている。



 この時までに仲間たちは全く手を出さず、ファルハルドやジャンダルが一人だけで現れる怪物全てを倒したこともある。もちろん、その時の敵は強力な悪魔型などではなかったが。

 また、二体以上の毒霧や粘液にも一人で立ち向かい、倒しもした。


 それは一人で戦うとはいえ、すぐ傍で仲間が見守り、いざと言うときはいつでも援護を得られる状態での戦いだった。


 今回は違う。仲間たちは距離を置いた場所にいる。これから実行しようとしていること、それは一人でパサルナーン迷宮へ挑むことだった。



 さすがに怪物たちのうごめく迷宮で完全に一人きりと言うことはないが、なにかあってもすぐに駆けつけることはできない。一手、判断を間違えれば容易く命を失う危険な試しだった。


 最初、ファルハルドからこの方法を提案された際、皆(こぞ)って反対した。あまりに危険過ぎると。パサルナーン迷宮はそんな甘い場所ではないと。


 だが、ファルハルドは譲らない。


 もともと一人で戦うのに慣れていること。また、一人で六体の怪物の中に躍り込み、目立った怪我を負わずに倒しきったこと。攻撃を封じたまま、怪物たちに囲まれた状態からも逃げきったことを言い募る。


 なにより、今後も迷宮内で戦っていくのなら、二層目の怪物たち相手にそれだけのことはできなければならないと考えていることを話し、皆を説得した。



 口の重いファルハルドの珍しい長広舌に仲間たちは驚かされた。

 なにをそれほど思い詰めているのか。不審には思ったが、挑戦者たるもの生きるも死ぬも自分次第。そこまで言うのならばとしぶしぶ認めた。ただし、多くの魔導具を準備することを条件として。


 それはよほどのことがない限り、今のファルハルドなら切り抜けられる筈だという信頼あってのことではある。戦闘中に鬼火や溶岩に遭遇しない限りは、少なくとも死にはしないだろうと踏んでのことだ。

 それらに出会うかどうかは運次第。挑戦者として生き抜くなら運の良さは必須の才能となる。




 全員で揃って二層目に転移する。


 ファルハルドは装備を確認。いつも通りのべんと小剣。革鎧。盾。兜。今回は素材回収については考えない。背負い袋は持たず、必要な血止め、毒消し、魔導具などは腰帯に付けている。


 魔導具は付与の粉を四つ、一時ひとときの光壁と貫く杭、えぐる牙、あざむく人影、それぞれを一つずつ身に付けている。

 これだけで一財産になる。もちろんファルハルド一人の財布ではない。皆で用意したものだ。何度目になるかわからない、躊躇ためらわず使うようにと言う注意と共に。



 ファルハルドは一人で休息所を出る。注意は怠らないが、無用に緊張することはない。

 ファルハルドは感覚が鋭い。さらに、最近では壁の向こうのこともなんとなく感じ取れることもある。緊張して周囲を警戒するまでもなく、怪物の接近を感じ取れる。そのため無駄な緊張で消耗することなく進んでいく。



 悪魔型の泥人形二体と猿の木人形二体、虎の石人形一体が現れる。悪魔型二体が翼をはためかせ、通路を蓋ぐように突進してくる。

 ファルハルドは逃げるのではなく、迎え撃つ。自ら怪物たちに向かって駆ける。


 悪魔型にぶつかる寸前に跳躍。悪魔型をかわす。

 荷物を積めた背負い袋がない分、普段以上に身は軽い。『身軽さ秀でるイシュフール』としての特性を遺憾なく発揮する。


 壁を蹴り、天井まで駆け上がる。反転。天井を蹴り、さらに加速。身をひねりながら全ての勢いを鞭に載せ、一撃で虎の石人形の頭を叩き割る。


 着地と同時に踏み込み、一体の猿の木人形を砕く。

 その隙をき、もう一体の猿の木人形の爪がファルハルドの背中に迫る。


 身をかがめながら、大きく一歩踏み出す。踏み出した足を軸に回転。猿の木人形の後ろに回り込む。鞭を振りかぶり、脳天から砕いた。


 行き過ぎた悪魔型二体共が奇声を上げながら戻って来た。やはり二体が並び、通路を塞ぐようにして向かって来る。


 ファルハルドは悪魔型に向かって駆け、盾を掲げる。

 当たる寸前に壁際に寄る。一体を行き過がせ、一体に体当たり。激しい衝撃音が響く。


 悪魔型の泥人形の腕が肩から砕ける。だが、追撃はできない。ファルハルドも体勢が崩れる。弾き飛ばされ、壁に背をぶつけ床に尻をついた。


 うなりを上げ、悪魔型の尾が迫る。


 咄嗟にファルハルドは壁を蹴り、移動。尾は床を叩いた。


 もう一体の悪魔型の泥人形も戻って来る。二対一。初めて悪魔型と出会ってから、すでに一年以上の時が経っている。もはや二体相手でも後れを取ることはない。


 勢いに乗った移動速度は悪魔型のほうが上。だが勢いにさえ乗せなければ、ファルハルドが対応できないほどの速さはない。

 泥人形の急に新たな部位を生やしてくる攻撃と、動きを読みづらい尾による攻撃は手強いが、それらへの対応も充分に経験を積んでいる。時間を掛け、着実に追い詰める。


 一体が大きく尾を振るう。避ける先はもう一体が爪を振りかざし塞ぐ。塞ぐ腕の肘を打ち、一撃で腕を落とした。

 背中に回り込んだファルハルドを、背から新たな腕を生やし狙う。ファルハルドは後ろに跳び、避ける。


 二体が尾をしならせ、連続して襲う。軽やかな足捌きで避け、身軽な体捌きで躱す。床を打った尾を鞭で叩き、裂いた。


 肩を砕かれ、尾を裂かれた泥人形はただちに身体を修復する。


 その瞬間をこそ待っていた。


 泥人形が身体を修復する瞬間は全ての動きが止まる。その一瞬を見逃さず、心臓位置に鞭を突き立てる。


 一体は崩れ去る。残るは一体のみ。

 ここから先は何度も繰り返したこと。危なげなく倒した。




 怪物たちを倒した。この瞬間が最も危ない。緊張感が解け、気が抜けた時に新たな怪物が姿を現すこともある。一人でいる以上、気を抜くことはできない。周囲を警戒しながら、息を整え水を飲む。


 振り返る。目を凝らせば、通路の端に仲間たちの姿が見える。手を振れば、少し呆れたように手を振り返してきた。



 息を整え、通路を進む。今度の敵は二体のいずる粘液と一体の狼の石人形、二体の熊の泥人形。


 積極的に前に出る。敵に向かって駆ける。再び跳躍。壁を蹴り、敵を跳び越す。そして、そのまま逃走。

 付与の粉を使えば、這いずる粘液とも戦えるが武器が傷む。戦うのは得策ではない。判断を誤たず、逃げ出した。


 通路を走り、曲がり角へ。角を曲がり、距離を走り停止。鞭を抜き、振り返る。


 やはり敵は追いかけて来ていた。速度の違いから先頭に狼の石人形。その後ろに距離を置き、熊の泥人形。


 突っ込んでくる狼の石人形の咬みつきを跳躍で回避。宙で身体を捻り、首を狙い突きを繰り出す。倒れる姿を確認することなく、次に迫る熊の泥人形を迎え撃つ。


 熊型相手にファルハルドでは力で勝つのは不可能。突進は回避し、後は徹底的に攻撃を避けながら削っていく。


 熊型を倒し終わる頃には動きの遅い粘液も追いついて来た。だが、粘液と戦う気はない。そのまま小走りで走って逃げた。



 見通しの良い場所まで走り、立ち止まる。さすがに息が切れた。絶対に攻撃を受ける訳にはいかない、熊の泥人形相手の戦いは消耗が激しかった。壁にもたれかかり、一息つく。腰から水袋を外し、一口水を飲む。




 深く息を吐いた時、急に通路の温度が上がった。


 素早く壁から離れ、周囲を見回す。すぐ近くの壁が変色する。

 水袋を投げ捨て、走り出す。


 予想通り。さっきまでファルハルドがいた一帯が溶岩に包まれた。

 振り返ることなく、全力で駆ける。流れる溶岩態をとっている迫る溶岩は速い。徐々に音が迫って来る。


 通路の先に休息所が見えた。懸命に駆ける。溶岩が迫る速度のほうが速い。このままでは間に合わない。熱気が背を焦がす。


 咄嗟に、ファルハルドは腰帯から貫く杭を手に取った。前方の壁に投げつける。卵型の魔導具が割れた。

 迫る溶岩の本体位置に向け、真っ直ぐに鋭い杭が伸びる。その線上にファルハルドもいた。ファルハルドに向かって、鋭い杭が伸びる。


 貫く牙は人相手には無害。それは人に向かっては伸びないということ。ただし、怪物との線上に立っているなら話は別。

 だが、それでいい。問題はない。


 ファルハルドは速度を落とさず、跳躍。休息所にはまだ届かない。

 それはわかっていた。向かって来る、伸びる杭の上に降りる。そのまま杭の上を走り、そこから再度跳躍。


 休息所まで、あと一歩。迫る溶岩を貫く杭が貫くが、全く影響はない。流れる溶岩態の状態では物理的な攻撃は意味を為さない。


 迫る溶岩に追いつかれた。落下するファルハルドを迫る溶岩が呑み込もうとする。


 ファルハルドは落下しながら鞭を抜く。付与の粉を鞭に振りかける。半ば零れるが、それでも半分ほどが鞭にかかる。

 手でなぞる。ファルハルドの魔力が引き出される。普段より弱々しいが魔力が鞭を覆う。


 魔力をまとった鞭を、床を覆う溶岩に突き刺した。鞭は溶岩に沈み込まず、先端だけが刺さる。

 鞭に熱が伝わるより早く、鞭を支点に身体を捻る。突き刺さったままの鞭の柄を蹴り、休息所に跳び込んだ。

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