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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第一章:挑みし者たち

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42. ジャンダルの魔力 /その①



 ─ 1 ──────


 ファルハルドたちは、パサルナーンに戻ってきたフーシュマンド教導に呼ばれ、揃って魔術院を訪れた。


 前回魔術院を訪れた際に、バーバクたちにもフーシュマンドから腕輪を贈られた。これにより魔術院の守りの魔術の影響がほぼなくなり、二人も青い顔で決死の思いをしながら魔術院に足を踏み入れるという苦行からやっと解放された。


 ただ、フーシュマンドが腕輪を前回まで渡さなかったのは、バーバクたちが本当に信用できるのかを見極めていたと言うより、腕輪なしに魔術院に足を踏み入れた際にどんな影響があるのか、詳しく観察するためだったような気がするのはきっと気のせいだろう。



 今回はフーシュマンド以外に、夏の調査に同行したという二人の人物も同席している。二人とも屋外の調査を行うためか、学者にしては日に焼け健康そうだ。


 この二人が以前言っていた挑戦者志望の者たちだろうか。どう見てもほっそりとした身体つきで、挑戦者向きだとは思えない。魔術が使えるのなら話が変わるのかもしれないが、戦いに従事するのは厳しそうではある。


 二人の内の一人、バーバクと同じくらいの年齢に見える男性は夏の調査の際、きつい日差しによって目に炎症を起こしていた。

 未だ完治していないため、ハーミが治癒の祈りを行おうかと尋ねたが、他者からの魔力を受けると体内の魔力の活性が……、などとよくわからないことを口走り断った。


 もう一人、見た感じ成人前に見える女性は決してファルハルドたちと目を合わそうとしない。こちらをじっと見詰めてくるので、気になって目をやっても即座にらされる。

 ジャンダルが気さくに話しかけてもおどおどし、ジャンダルにではなくフーシュマンドに耳打ちするように返答している。

 よく見れば微かに震えてもいる。いったい、なぜなのだ。


 この様子では仮に強力な魔術の使い手だとしても挑戦者としてやっていくのは無理だろう。フーシュマンドとしてはこの二人を紹介するのが今回の一番の目的だった。

 が、ファルハルドたちとしては困惑するしかなかった。



 フーシュマンドはこの夏、東国諸国南方まで足を伸ばし、調査を行ってきた。長年、東国諸国を回っていたジャンダルが、フーシュマンドに現在の様子を尋ねてみる。


 水を向けられたフーシュマンドは堰を切ったように話し始めたが、それは必ずしも喜ばしい話ではなかった。



 最初は新しい知見を得られたと、嬉しそうに話していた。フーシュマンドだけでなく、同席している二人までも饒舌じょうぜつになる。ジャンダルも自分の知っている事例を話し、場は大いに盛り上がった。


 しかし、闇の領域近くの村に向かったところから話は変わる。


 ひらかれたばかりの集落が消えるのはままあることだ。だが、今年調査に向かった場所ではそれなりの規模の村がいくつも消滅していた。闇の領域から怪物たちがあふれ出てきたためだ。


 東国諸国東部最南端のハーマンスールとヴァサラーンでは、国の屋台骨がぐらつきかねないほどの事態になっている。


 東国諸国にはイルトゥーランのような他を圧する大国は存在しない。多数の小国が集まり、様々な脅威に対抗するために各国は独立しつつも一つの緩い連合関係にある。

 当然相互扶助は行われるが、闇の怪物たちの大規模な侵攻にどこまで対処できるかはわからない。


 幸いにもこの年の怪物たちの動きは大規模な侵攻ではなく、散発的な襲撃のみにとどまっている。そのため、今のところはこれ以上の被害の拡大は抑えられているようだ。


 フーシュマンドとしては村が消えたことや、闇の領域が広がったことに脅威を感じているのではなく、せっかくの調査が滞ったことが残念でならないらしい。

 さすがと言うべきか、あいかわらずだなと言うべきか、掛ける言葉に迷う反応だ。


「二年前に東国諸国南方で疫病が流行ったから、その影響かな」


 取り敢えずジャンダルは声を掛けづらい反応は無視をし、会話を続けることにしたようだ。


「恐らくは。あの時の流行り病のせいで多くの土地で人口が減り、闇の勢力へ抵抗する力が弱まりましたからな。今後、数年は東国での調査は難しいですね」


 いや、誰も調査の心配はしていない。ファルハルドたちは呆れたが、同席する二人はフーシュマンドの言葉に同意するように頷いている。


「でも散発的とはいえ、闇の怪物たちの群れでの襲撃は続いているんだよね。よく無事だったね」


 そこはさすが魔術院の教導様だった。群れで押し寄せる怪物たちを、次々と強力な魔術でほふっていったらしい。


 フーシュマンドにとっては調査の邪魔になる障害物を取り除いただけだが、助けられた村人たちにとってはそれこそ救いの神に等しかった。


 調査のためなどと言う見え透いた口実で危険に襲われている土地に駆けつけ、怪物たちを退治したあとはこれでは調査にならないからと礼も受け取らずに立ち去っていく。

 村人たちの目には、フーシュマンドたちはまるで物語の登場人物のように見えた。


 真実は知らないままが幸せだ。それが話を聞かされたファルハルドたちの正直な感想だった。


「怪物の侵攻は止んでも、闇の怪物たちの動きが活発になれば悪獣の発生も増えますからね。東国諸国は数年単位で荒れることでしょう」


 まったくこれでは研究が……、と魔術師たちは人とは違う理由でいきどおっている。


 差し当たりファルハルドにできることはないが、次にカルドバン村に行った際にニユーシャーたちにもこの話を伝えておこうと決めた。

 ジャンダルは酒場でエルメスタの仲間を見かけたら、話を伝え広めてもらうと算段をする。

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