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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第一章:挑みし者たち

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37. 胸を焼く想い /その①



 ─ 1 ──────


 パーイーズが深まるなか、ファルハルドとジャンダルはカルドバン村を訪れた。今年の収穫は例年通りの安定したものだったらしい。


 ファルハルドたちが村に着いたのは収穫祭の終わった三日後で、もう少し早ければとラーメシュたちは惜しんだ。ファルハルドたちとしても収穫祭に興味はあったが、それよりもモラードたちとゆっくり話せることのほうが大切だった。

 それにあくまで収穫祭は作物を作り育てた者たちのためのもの。部外者を楽しませるために行う訳ではない。


 ラーメシュとニユーシャー夫妻はあいかわらずだった。モラードは少し背が伸びていた。それでもまだジャンダルのほうがわずかに背が高い。ジャンダルは気付かれないようにほっと息をついていた。


 モラードは毎日木剣での稽古を行い、もう剣に振り回されることはなくなった。まだまだ自在に振るには程遠いが、たいした成長ぶりだ。

 ファルハルドより、今は基本となる動作を繰り返し、基本を身体に沁み込ませるようにと助言を受ける。基本こそ全ての土台。確かな土台の上にこそ、本物の実力を築くことができる。



 実のところ、ファルハルドの伝えた鍛錬量は子供にはいささか酷だ。もし村に住む元兵士の人物が聞いたら、その内容は無茶だと注意するだろう。


 ファルハルドが見知っている訓練はイルトゥーランの兵士の訓練。王城に詰める選ばれた兵士の訓練だけに、なかなかに濃密な訓練内容だった。

 そして、ファルハルドはその訓練を手本に己を鍛えた。城の警備を斬り破り、母を助けるために、一心不乱に、ただひたすらに行った。当然、畑や店を手伝いながら鍛錬も行うモラードがこなせる訓練内容ではない。


 だがここに、それに気付ける者はいない。もしいたとしても、ファルハルドに憧れるモラードはファルハルドの言葉にこそ素直に従う。



 そして、それはジャンダルの場合も似たようなものだった。ジャンダルは『器用さ優れるエルメスタ』。オスクであるエルナーズとは元から器用さが違う。ジャンダル基準で提案された訓練はエルナーズにはなかなか基準が高過ぎる。


 ただ、誰もそこに思い至らない。それだけ自分たちを同じものだと感じているから。種族が違うなどと気にする者がいないからだった。


 ジャンダルも、

「エルナーズは訓練初めてまだ一年ちょっとだし、まあこんなもんかな。うんうん、熱心なだけあってなかなか上手くなったほうなんじゃないの」

くらいにしか考えていない。


 よって、エルナーズもジャンダルを基準に置いて熱心に練習を続けている。


 春先より三十歩は当てられる距離が伸びた。かなり上達の速度が速い。一緒に石投げを練習している友達にはそこまでの上達ぶりはない。


 エルナーズは、今では村で仲良くなった友達と一緒に石投げの練習をしている。友達にはエルナーズほどの熱心さはない。が、村が襲われるような経験をしたこともない友達に、エルナーズほどの熱心さがないのは当然のこと。

 それでも共に練習をする相手ができたのはいい傾向だ。村の者と打ち解け合っていることがよくわかる。


 ジーラも時々石投げの練習に参加している。どちらかと言うと楽しみのためという感じだ。食堂の手伝いも少しずつできることが増え、日々を楽しく実にのびのびと暮らしている。




 ファルハルドたちにとっても、カルドバン村で過ごす時間はのんびりした楽しい時間となった。


 村を出立する前に二人はエルナーズに貴石の付いた、生命の樹(デラフテ・ヂャーン)かたどったノグーレの胸飾りを贈った。

 エルナーズは十五歳。来年には成人の式を迎える。オスクは成人の式に合わせ、両親から耳飾りを贈られる。そしてその耳飾りは将来婚姻の際、伴侶となる者と片耳の分を交換し合う。オスクの者にとって耳飾りは特別な意味がある。


 エルナーズの場合はラーメシュとニユーシャーが耳飾りを用意するだろう。そのため、二人はそれ以外に式で身に付けられる装飾品として胸飾りを用意した。

 エルナーズは夢見るような表情で胸飾りを受け取った。




 ─ 2 ──────


 パサルナーンの街に戻れば、迷宮に潜る日々を再開する。


 ファルハルドもジャンダルも、一年前に比べれば身体つきがしっかりとしてきた。それでも細身のファルハルドと小柄なジャンダル。迷宮で戦っていくための力強さはまだまだ足りていない。


 それにバーバクたちと一緒でなくとも戦えるようになるには、魔法でなければ倒せない怪物への対処法など、身に付けなければならないことはまだまだ多い。


 挑戦者たる者、どんな状況にも自分一人で最低限の対処はできなければならない。無意識にでもバーバクたちに頼りきりになってしまってはいけない。バーバクたちと一緒でなければ戦えないのであれば、いずれ必ず限界が来る。


 二層目の怪物たち相手にバーバクたちがおくれを取ることはあり得ない。それでも迷宮内に於いてはなにが起こるかなど誰にもわからないのだから。



 そう、かつてバーバクたちが突然仲間を失ったように。

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