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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第一章:挑みし者たち

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24. 光の神々の三日間 /その③



 ─ 4 ──────


 光の神々の三日間、その最終日。


 この日、昼前までは各神殿の中には入れない。それぞれの神殿で新たな神官の任官式が執り行われるためだ。一般人は見ることはできず、神官と助衆のみが参加する式典となる。


 神官たちの任官式のあとはそのまま助衆たちの就任と退任が行われる。生涯を助衆として神殿で奉仕する者もいるが、大半の者は一年から三年程度を信仰心を示すための奉仕期間として助衆となる。

 その期間の区切りがこの光の神々の三日間の三日目となるのだ。



 信仰心が篤い人々は、式典が終わり次第姿を見せる新たな神官や助衆を見ようと、神殿の前にたむろしている。

 ファルハルドにそんな信仰心はないため、今日も街の賑わいを楽しむことにする。


 昼には一旦拠点に集合するが、それまでバーバクとハーミ、ファルハルドとジャンダルに分かれて行動する。

 バーバクとハーミは東地区まで共に向かい、その後はバーバクは手土産を持って馴染みの娼婦に新年の挨拶に行く。ハーミは当然のごとく、屋台や食堂の料理を楽しむ。


 ファルハルドとジャンダルは特にこれといった目的はないが、なんとなく魔術院の様子を見てみようという話になった。

 もちろん中に入ることはできないだろうが、この街中が祝いに沸く三日間に『世俗を離れ静寂と禁欲の下』にある魔術院ではどう過ごしているのか少し興味が湧いたためだ。



 急ぐ用もないため、屋台の料理を味わったり大道芸を眺めながらのんびり向かう。

 途中、出し物が終わり休憩中のエルメスタを見かければ、ジャンダルは話しかけ情報交換を行う。ジャンダルはずっとパサルナーンから動いていないが、時々酒場に出かけ各地の情報を仕入れている。


 大通りを進み、外壁の門を抜ける。街中が浮かれる祭りの期間であっても、門の衛兵たちは緩むことなく警備についている。普段よりいささか人数が少ないのはご愛敬だろう。


 ファルハルドたちは衛兵に挨拶をし門を出た。外壁沿いに進み、小島と繋がる橋に向かう。

 魔術院に前と違った様子は見られない。魔術院の門は固く閉じられ、敷地は静寂に包まれている。あいかわらず人の気配は全く感じられない。


「さすがだねー」

「そうだな」


 ファルハルドも思わず笑ってしまった。閉じられた敷地内で身内だけの祝いでも行っているかと思えば、完全に普段通り。確かにさすがだった。


 それでもここまで来たからと橋を渡り、門まで向かってみる。試しに門に触れるが、やはりびくともしない。


 それは予想通りだったが、手に伝わる感触が予想外だった。門の材質がなんなのか全くわからない。金属とも、石とも、木とも違う不思議な手触りだった。これもさすがに魔術院と言うべきか。



 ひとしきり感心し、魔術院の不思議さを語り合う。フェレズの刻が近づき、そろそろ拠点に戻る時刻となった。振り返ったファルハルドたちは驚いた。


 いつの間にか橋のたもとに一人の人物が立っていた。




 ─ 5 ──────


 その人物は初老の男性だった。生えるに任せている髪の毛を無造作に伸ばし、手には古木を磨いた杖を持っている。着ているものは巡礼用の神官服と似ているが、薄墨色に染められ袖口や裾は擦り切れて襤褸襤褸になっている。


 格好はかなり怪しいが、顔には友好的なあるいは好奇心を抑えられないといった笑顔を浮かべている。


「…………」


 ファルハルドたちは警戒する。戦いに身を置く二人が、振り返るまでそこに人がいることに気が付かなかった。

 いったい、何者か。追手は三日前に倒したばかり。新たな追手が送られて来る時間はない。しかし、倒した筈の追手の一部が別行動をとっていたのなら話は別。


 ファルハルドは今、防具は身に着けておらず厚手の羊毛の刺し子の上着を着ている。武器は小剣だけ。ジャンダルも着ているものは同じで、大振りのナイフを一本といくつかの飛礫つぶてを持つ。

 敵を迎え撃つには心許こころもとない。


 二人は笑顔を向けられようとも気を緩めることはない。沈黙の後、男性は口を開く。


「もしや、お主らは忌み子なのか」


 なんだか気の抜ける甲高い声だ。二人は答えない。追手がファルハルドであるか確認しているのか。途中で雇われた者なら詳しい風体を知らないこともあり得る。だが、こんなあからさまな質問をするだろうか。

 戸惑いを抑えながら、二人は警戒を続ける。


 男性は二人から返事がなくとも気にした様子はない。笑顔のまま、ずんずんと二人に近づいてくる。


 飛礫が有効な距離を越え、あとわずかで剣の間合いに入る。迷う。殺気はない。だが、攻撃の最中にも殺気を抑えきっていた敵と出会ったばかり。怪しい。といって、無害な一般人ならば斬る訳にはいかない。



 ファルハルドは静止するように掌を向け、左腕を突き出した。


「誰だ」


 これでも答えず近寄れば斬る。男は立ち止まり、ぽんと手を打った。


「おおう、済まん。つい、我を忘れてしもうた」


 照れたように頭に手をやり、頭を掻きながら笑う。


「私はこの『愚者の集いし園』で教導を務めておる、フーシュマンドというものです。よろしくのう」


 ファルハルドたちの目が大きく見開かれる。


「え、え、え? それって魔術院の人ってこと? ほんとに?」


 フーシュマンドは顔をくしゃくしゃに崩して笑う。


「もちろん本当だとも。どれ、一つ証明してみせましょう。見ていなされ」


 フーシュマンドはファルハルドたちの間を通り過ぎ、門に触れる。掌を門に当て、何事かを呟いた。


 見れば、触れている部分から青い光の線が上下に走り、光は上下に達すると吸い込まれるように消えた。


 光が消えると共に、ファルハルドが触れてもびくともしなかった門が、ひとりでに動き始めた。門は音を立てずにゆっくりと内側に開いていく。


「さて、お二方。『世俗を離れ静寂と禁欲の下、真理を探求し、真理に奉仕する愚者の集いし園』にようこそ」

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