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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第一章:挑みし者たち
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11. 迷宮への初挑戦 /その④



 ─ 5 ──────


 挑戦を終え、地上に戻る。


 ファルハルドとジャンダルが戦ったのは都合つごう三回だけだった。それでも慣れない場所での戦いは、本人たちが考えている以上に二人を消耗させた。地上に戻ると、気付かずほっと安堵の息をついていた。


 朝に比べると黒い建物内に挑戦者の数は少なく、だいぶいている。



「さて、地上に戻ったらなにを置いてもまずは神殿に行かねぇとな」


 連れ立ってミフルの岩間に向かう。ミフルの岩間内にある神殿の生還者の間に繋がる通路前には、迷宮から還って来た挑戦者たちの長い列ができていた。ただ、列の進みは早い。あまり待つことなく順番となる。


 生還者の間には一度に十人ずつが案内されていく。ファルハルド一行は別々に分けられることなく生還者の間に案内される。


 生還者の間は広くない。部屋の中央に円形の祭壇がある。祭壇の中心は一段高くなっており、高低差をつけ二体の神像がまつられている。

 どちらも見慣れぬ神像だ。もっともファルハルドにとってはほとんどの神像が見慣れぬものとなるのだが。


 二体の神像よりも一段低い位置に、丸い祭壇に合わせ等間隔にぐるりと十体の神像が祀られている。


 十体の神像の前にはくぼみがあり、案内された挑戦者たちは各窪みにそれぞれの光の宝珠を乗せる。


 膝立ちとなり、手を合わせれば光の宝珠が一瞬光り、宝珠内に蓄えられていた光の大部分を捧げ終わる。最初に光の宝珠を渡され誓約の文言もんごんを唱え現れた、わずかな揺らめく光だけが宝珠の中に残される。


 ファルハルドたちも助衆の案内に従い、説明されたように宝珠を置いて光を捧げる。

 集めた光を捧げ終われば、助衆より石札を渡され入ってきた時とは別の通路から出ていく。ミフルの岩間を経由することなく、直接外に出ることができた。


 ちなみに生還者の間でファルハルドが案内された場所にあった神像は、今日迷宮に転移した最初の休息所で見かけたものと同じであった。


 何気なくラーティフに聞いてみると、それは十大神の一柱で向上の神(ピサラヴィ)だと言う。ついでにジャンダルが自分の前にあった神像を尋ねると、そちらは音の神(セダ)だそうだ。



 その足で武器組合と防具組合を訪れる。モズデフの姿は見えなかった。


 本日の換金額は締めて大銅貨セル八枚と中銅貨オル六枚。ファルハルドたちの取り分は薬代を含め大銅貨三枚と中銅貨二枚、そして木人形から回収した木材だ。



 これから酒場に向かうヴァルカたちに一緒に行かないかと誘われたが、ファルハルドたちにはキヴィク親方の防具店に向かう予定があったため断った。

 ヴァルカたちは酒場の場所だけを告げ、よかったらあとから合流しろよと言い残し解散した。




「わ、わ、わ。ちょっと、待って」


 キヴィク親方が店を閉めようとしているところにぎりぎり間に合った。亀裂の入った盾の買取と新しい盾の購入、木人形の木材を使った盾の製作を依頼する。


 ところが困ったことに予算が足りない。

 盾の買取は中銅貨三枚で、新しい盾の購入が大銅貨二枚。そして、木人形の木材を使った盾の製作が大銅貨五枚。半金を先に支払い、引き渡し時に残りの半金を支払う。


 だが、今支払うのは厳しい。怪我をした場合の治療費や迷宮に挑戦するために必要な細々したものを購入する金額を考えると、今半金を支払うと途端に懐事情が危うくなる。


 キヴィク親方も先日の遣り取りからファルハルドたちの懐具合は把握していたので、無理は言わなかった。盾の製作にかかるのは半金を支払ってから、それまで木材は預かっておくだけということで話がついた。


 ここに至って初めてファルハルドにもプールの価値がわかり始めた。




 その日ファルハルドたちは一階がちょっとした酒場、二階が宿になっているそこそこ快適な宿屋に泊まった。部屋を借りる際に前払いで石札を渡す。

 料金には食事代が含まれるが、せっかくなのでヴァルカたちに合流することにした。


 酒場に向かえばヴァルカたちはすぐに見つかった。機嫌よく周りの者たちに酒を奢り、実に目立っていたのだ。


 今日はファルハルドたちが同行したお陰で普段より多くの素材を持ち帰ることができ、懐が温かかった。途端にヴァルカは気が大きくなり、酒を奢り始めたという訳だ。


 金の価値がわかり始めたファルハルドとしてはその金の使い方はどうなのかと考える。少し苦言を呈しようとしたが、機嫌よく笑うヴァルカを見ているうちにその気は失せた。


 ひたすら笑いっぱなしで酒を呑み、機嫌よく誰とでも語るヴァルカ。ときどきたしなめ、注文し過ぎないよう注意しながらも結局は付き合っているラーティフ。ぼそぼそとしか喋らないが、迷宮とは打って変わってのんびりした笑顔を浮かべるダハー。


 こんな時間も悪くないのかもしれない。強引に押しつけられる酒杯には辟易しながらも、三人を眺めているうちにファルハルドの頭に浮かんだ考えはそれだった。


 長く続くかと思えた時間だったが、明日も迷宮への挑戦は続く。遅くならないうちにお開きとなった。



 自分たちの宿に戻ればジャンダルは部屋に向かったが、ファルハルドは宿屋の主人に頼み井戸のある中庭に入らせてもらった。そこでべんと盾を構え、今日の戦いを振り返る。


 できれば盾で攻撃を受け止めず盾の損傷を防ぎたいが、狭い通路に他の者もいる状態では思う存分には動けない。全ての攻撃をかわすのは難しい。


 攻撃を受け流す方法もあるが、盾は元々攻撃を受け止めるためのもの。できなくはないが、受け流しは少しやりにくい。実戦で行うのなら、それはそれでまた別の技術が必要となる。


 それに突進してくる敵を受け流し、狭い通路で背後に回られでもすれば危険が増す。やはり盾での受け止めを多用せざるを得ない。


 あとはせいぜい攻撃を受け止める際、わざと後ろに下がりできる限り衝撃を逃がすようにするか。もしくは積極的に前に出て、敵が勢いに乗る前に攻撃の出鼻をくじくか。


 どちらにしろ、今までの攻撃を躱し、隙をく戦い方とは変えていかなければ。


 水汲みに宿屋の子供が中庭にやって来るまで、一人あれこれ試し続けた。

次話、「新たな仲間」に続く。

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