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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第一章:挑みし者たち

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10. 迷宮への初挑戦 /その③



 ─ 4 ──────


「へへっ、やるな」


 不意に声が掛けられる。ファルハルドが顔を上げると、いつの間にかヴァルカがすぐ傍にまで来ていた。満足そうな笑みを浮かべている。


 気付けばすでに、ヴァルカもダハーも敵を倒し終えていた。


 ヴァルカは手傷を負っている。ラーティフが近づき、立ったまま手当てを行う。ダハーは周囲の警戒をし、ジャンダルは疲れたのか、すいを杖代わりに床につき、一人壁にもたれかかっている。


 ファルハルドは傷の様子を見、ヴァルカに声を掛けた。


「大丈夫か」

「へへっ、たいしたことねぇよ」


「なに言ってんですか、まったく。お二人とも覚えておいて下さい。泥人形は往々にしてザールを帯びています。傷は浅くとも大事になるときもありますので気を付けて下さい」


 ラーティフに怒られ、ヴァルカはおどけて首をすくめて見せる。元気に笑っていることからも、傷自体はたいしたものではないのだろう。


「一度さっきの休息所に戻らないか。ジャンダルも疲れているし、それにジャンダルは毒消しも持っている。落ち着いて手当てをしたほうがいいだろう」


「そうですね。では一つ分けていただけますか。もちろん代金は報酬を分ける際に払いますので」

「済まねぇな」



 休息所に引き返し、ゆっくりとヴァルカの傷の手当てを行う。


 ラーティフは家庭の安息を司るウェール・エル・モサーラカトに仕える神官だ。あまり戦いは得意ではないが、傷の手当は慣れている。

 ただし使える法術は強くないため、法術ではなく薬を使っての一般的な手当てを行っている。


 そのラーティフから見て、ジャンダルの薬はかなり質が高い。余っている分があればぜひ売って欲しいと言うが、ジャンダルにとってもこの先どれだけ傷薬が必要になるかわからず、いつ補充できるかもわからない。


 そのため余分はないと断ったが、代わりに簡単にこの街で手に入る材料で作れる傷薬の作り方を教えた。効果は落ちるがこれで傷薬を好きなだけ自分で用意できるようになると、とても感謝された。



 少し早目だが休息所でこのまま昼食を摂ることにした。と、いっても保存食を水で流し込むだけなのだが。

 干し肉をかじりながら、ファルハルドがさっきの話を確認する。


「泥人形は毒を持っているのか」

「そうです。全てがではありませんが、どれに毒があり、どれに毒がないか、見た目では区別できません。なかなか面倒な相手です」


「だな。身体が泥でできてるせいか、急に腕が生えてきやがったりするしな。攻撃したらしたで、毒を含んだ泥が飛び散ったり泥の中に混ざってる砂利が飛んできたりな。まったく、いやらしい相手だぜ」


 ダハーも同意するように何度も頷く。

 ジャンダルもうげー、と表情をゆがめる。


「そりゃ、やだねー。たしか泥人形は核石ってのが換金できるんだっけ」

「ああ、そうだ。泥人形の種類に関係なく、心臓位置にある。ただ、その核石も色ごとに種類が分かれてるくせに泥人形の種類とは関係ないしな。取り出してみないとわかんねぇんだよな」

「ほんと厭らしい相手だね」


 ジャンダルは心底うんざりした声を出す。


「木人形はどうなんだ」

「猿の木人形を見てて気付いたかもしんねぇが、基本は形の元になってる生き物と同じだな。

 だが、こちらが一撃入れた途端、身体の一部をバラバラに離して襲ってきたりするからな。あいつらもやりにくい」


「ああ、なんか、突然こう、手足がぐんっと伸びたよね。紐?糸?で繋がってたような……」


「おう、そうだ。よく見てるな。奴らは身体をバラバラに離す、ったって自由自在に離せる訳じゃねぇ。関節の部分が糸で繋がってて、その糸の長さ分だけ伸ばせるって訳だ。

 ただ、あの糸がまたな。切れねぇんだわ。からまれでもしたら厄介この上ないんだよな。ダハーの斧でも切れなかったよな」


 ダハーが生真面目な顔で頷く。


「ま、なんにしても二人とも結構戦えてたじゃねぇか。二対一なら大丈夫そうだな」


 ファルハルドたちに満足そうに笑いかける。


「そんじゃ、しばらく休んだらまた一稼ぎといきますか」




 その後の二回はヴァルカたちだけが戦い、ファルハルドたちは後ろから見ているだけだった。


 その次は泥人形が二体、石人形が三体まとまって現れた。石人形の内の二体、狼の石人形と猿の石人形一体ずつがファルハルドたちに任された。無理に倒さなくとも、ヴァルカたちが敵を片付けるまでの時間稼ぎができればよいと伝えられる。


 狼の石人形がファルハルドに、猿の石人形がジャンダルに襲いかかる。


 ジャンダルは三歩後ろに下がり、飛礫つぶてを打つ。額に当たる。石人形は痛みを感じずとも、一瞬(ひる)んだように動きが止まる。


 その隙をき、腰に巻いていた鎖を投げる。悪獣相手にそれまで使っていた鎖では効果が薄かったため、カルドバン村にいる間に鍛冶屋に頼み、より太く重い鎖を手に入れていた。今度の鎖は見事、石人形の脚を絡め捕り転ばせた。


 猿の石人形はとっさに腕を使って逃げ出そうとした。が、ジャンダルは逃さない。鎖を投げた時点ですでに敵が転がると確信し、距離を詰めていた。


 逃げ出そうとした石人形の頭に思いきり錘を振り下ろす。一撃で頭を砕かれ、石人形は動きを止めた。


 一方、ファルハルドもいくつか傷を受けた程度で、危なげなく狼の石人形を片付けていた。ただし最初の体当たりを受け止めた際、盾から嫌な音がした。


 石人形を片付けたあと確認してみれば、盾には亀裂が入っていた。次に一撃を受ければ割れてしまうかもしれない。ファルハルドは使用を止め、背負い袋の紐にくくりつけた。


 ファルハルドたちはヴァルカたちを手伝おうと考えたが、ダハーはすでに敵を片付け終わり、三人がかりで最後に残った泥人形の相手をしていた。

 大丈夫そうだと判断し、周囲の警戒を行う。時間を置かず、最後の泥人形もすぐに倒し終わった。



 素材の回収を行うが、この時石人形の素材として使わない部位を割り、ジャンダルが飛礫打ち用の石を補充した。角が尖って投げにくいものは軽く錘で叩き角を取った。あまり投げやすくはないが、迷宮内で飛礫を確保できるのはありがたい。


「投石は有効そうですね。なかなか興味深い」


 ラーティフがジャンダルの飛礫つぶて打ちに興味を示す。

 普段、ヴァルカやダハーに戦闘を頼っているため、離れた位置から二人の手助けをできる飛礫打ちを覚えればかなり役に立つ筈だと言う。


 ジャンダルは石の握り方や投げ方を教える。


「あとはひたすら練習あるのみだよ。ただ、間違っても前にいるヴァルカやダハーに当てないようにね。それが一番大事だよ」

「なははっ、ちげえねぇ」


 ヴァルカとダハーは顔を見合わせ笑い合う。ジャンダルは周囲の警戒を続けるファルハルドに話しかける。


「しかし、兄さんの盾割れちゃったの」

「まだ割れてはいない。亀裂が入っただけだ。だが、このまま次に攻撃を受ければ割れるかもしれん。戦闘中に割れると危険だ。それなら最初から使わないほうがいい」


「じゃあ、おいらの使ったらいいよ。おいらには飛礫や鎖があるから、なくてもなんとでもなるよ。兄さんのほうが必要でしょ」

「なら、使わせてもらうか」


 ヴァルカは自分たちが迷宮に潜り始めた頃を思い出し苦く笑う。


「盾は消耗品だからな。最初の頃は金もないし、あんまいい装備も手に入らないもんな。特に盾は頻繁に買い替えする羽目になって、きついよな。よっし、今度木人形が出たら一丁回収しとくか」


「え、なに。木人形がなにかの役に立つの」

「おうよ。防具組合じゃ引き取ってねぇが、直接防具店に持ち込んでみな。少しは丈夫な盾を造ってくれんぞ。俺たちのも木の部分は木人形から回収した素材を使ってんだ」


「へえー、換金できなくてもそんな使い方があるんだ」

「そうですね。いろいろ防具店や武器店で聞いてみるといいでしょう。ただ、木人形の木材なんかは嵩張かさばるので皆さん回収したがりませんね。今回は荷物運びにお二人もいるし、ちょうどいいでしょう」




 さらに四度戦い、四度目の戦いでは木人形が現れた。少し早目だが充分な量の換金素材は手に入れた。今日の挑戦はここまでにし、地上に戻ることにする。

 が、その後休息所に向かう途中で敵が現れもう一戦する羽目になった。

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