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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第一章:挑みし者たち

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08. 迷宮への初挑戦 /その①



 ─ 1 ──────


 次の日の朝、ファルハルドたちはミフルの岩間の建物前で人を待っていた。ここから迷宮入口の黒い建物は目と鼻の先だ。


 昨日の夜、酒場で三人組の若い挑戦者たちと話をし、共に迷宮に潜る約束をしたのだ。


 若いと言ってもファルハルドたちよりは年上だ。斧使いのダハーが一つ上、槍使いのヴァルカが三つ上、神官であるラーティフが四つ上の三人組だ。

 三月前から迷宮に潜っていると言う。


 今回ファルハルドたちは、荷物持ち(バルバー)として共に潜ることになった。



 二の刻の鐘と共に、大神殿からヴァルカたちが姿を見せる。神官のいるヴァルカたちは、毎回迷宮に潜る前に中央大神殿で祈っているのだ。


「やあ、おはようー。今日はよろしく」


 ジャンダルに続けてファルハルドも挨拶をし、三人組も機嫌良く挨拶を返してくる。


「おう、おはようさん。今日はよろしくな。お前らは今日が迷宮に初挑戦だよな。よっし、まずは取り決めを確認しとくか」


 今回ファルハルドたちの役目は荷運びなので、基本的には戦闘には参加しない。ただし、敵の数が多い場合には戦闘に加わることもある。逆に敵が少なく、余裕がある場合に希望すればファルハルドたちが戦ってもよい。


 その判断はヴァルカが行う。途中、休憩の場所やいつ休むかもヴァルカが判断する。


 そして報酬は素材を売った額の四分の一がファルハルドたちの取り分だ。ファルハルドたちが参加した戦闘分は山分けにする。


「八の刻には地上に戻る予定だ。素材を売って金を分けたら解散。こんなもんか。あと、なにかあったか」


 神官のラーティフが進み出て付け加える。


「怪我を負ったときの傷薬などは各自の負担です。もし薬や包帯が足りなければ融通します。私の法術には期待しないで下さい。法術は毒霧や粘液が出たときに使用します」


 ラーティフは下がり、ヴァルカはダハーやファルハルドたちにも尋ねるが特にはない。


「ま、無理はさせねぇから安心しろ。ただし、挑戦者たるもの自分の身は自分で守る。それは忘れんな。んじゃ、行くぞ」




 揃って迷宮の入口がある黒い建物に向かう。建物の入口前に立つ衛兵たちはこれといって確認作業などは行っていない。となると、役目は揉め事に備えることなのか。


 黒い建物内に入る。建物内は薄暗い。明り取り窓はなく、照明らしき物も見当たらない。代わりに壁や天井がぼんやりと光っている。おおよそ夕暮れと同じか、少し明るいくらいだ。目が慣れればさほど不自由はない。


 建物内には衛兵たちと多くの挑戦者の姿が見える。

 衛兵たちは入口入ってすぐのところに六人、中心に見える黒い扉付近に四人が立っている。挑戦者たちは入口から黒い扉へ向け、真っ直ぐ列を作り進んで行く。


 列の最後尾に並び、ヴァルカがファルハルドたちに説明をする。


「迷宮の中も照明なんかはなく、ここと同じように壁や天井がぼんやりと光っているぞ。明るさも同じくらいだな。ここで目を慣らしておけよ」


「わかったよ。ところであの真ん中の黒い扉が迷宮への入口なのかい」

「あれが入口ですが、扉とは少し違いますね」


 ジャンダルの質問にラーティフが答える。


「しばらく見ていればわかるでしょうが、普通の扉のように開けて中に入る訳ではありません。ああ、今触れた挑戦者たちが転移しましたね。あの黒い門は触れた挑戦者を迷宮の各階層に送る転移門なのです。


 転移門に触れた時、触れた挑戦者の身体の一部なり、装備なりに触れている者たちをまとめて同じ場所に転移させます。

 同行する挑戦者同士は必ず触れ合うように気を付けて下さい。そうしないと同じ階層に転移したとしても、違う場所に転移させられてしまい、合流するのも一苦労ですから。


 同様に、同行しない余所の挑戦者たちには接触しないように気を付けて下さい。下手をすればいきなり四層目、五層目に転移される羽目になりますので」


 ジャンダルはうげっと顔をしかめる。


「どの階層に送られるかはどうやって決まるんだ」

「これです」


 ファルハルドの質問にラーティフは手袋を外し、自分の右手の甲を見せた。そこにはなにかの模様が見て取れる。


「これは大地を表した刻印で、初めて迷宮に足を踏み入れた時に利き腕の手の甲に現れます。つまり、今日迷宮に足を踏み入れればあなたたちの右手にも同じものが現れる訳ですね。


 これは二層目に入れば刻印の線が太くなり、三層目では新たな文様が加わるそうです。転移先は触れ合っている一塊の挑戦者たちのうち、最も深い階層の刻印を持つ者にあわされるそうです」


「あれ? ちょっと待って。じゃあ、たとえば五層目で戦う中堅どころの人と一緒に潜ろうとすると、いきなり五層目に挑戦することになって危険だってこと?」


 ジャンダルはパサルナーンの街に入る前に聞いた忠告を思い出し、疑問に思う。この疑問にはヴァルカが答えた。


「いや、そうとは限らんぞ。聞いた話じゃ、転移先の階層はそれまで潜った階層の中から選べるんだと。転移門に触れた者が頭に浮かべた階層に転移される訳だな。


 たとえば五層目まで潜ったことのある奴が新人と一緒に潜るんなら、今日は一層目に向かう、とか選ぶ訳だ。

 それに装備を代えたときなんかは、皆一度浅い階層で使い心地を試すらしいぞ」


 ファルハルドたちは納得の表情を浮かべた。


「とはいえ、余所の挑戦者たちに知らないうちに触れていれば、意図せず深い階層に転移させられることもあるので気を付けて下さい。

 なんといっても皆手袋を着け、どんな刻印を持つのかわからないですしね。


 転移門のそばでは余所の挑戦者たちとは距離を開ける、門に触れる者は周りに一言言ってから触れるのがこの場の作法とされています」


 ヴァルカたちの説明を聞くうちに列が進み、一行の順番になる。


「うっし。全員触れ合ってるな。じゃあ、行くぞ」


 ヴァルカが門に触れ、一行は転移する。瞬間、視界が真っ暗へと変わる。同時に全身が引き絞られるような奇妙な感覚があった。ファルハルドたちは思わず目をつむる。


 目を開いた時、そこは元とは別の場所だった。





 ─ 2 ──────


 初めての転移にファルハルドたちは戸惑った。その戸惑いから復帰する前に、右手の甲が熱くなる。手袋を外して見てみれば、そこには先ほど見せられたのと同じ大地の刻印が現れていた。


「これでお前たちも正真正銘の迷宮挑戦者だな」


 ヴァルカがなぜか自慢げに話す。




 周囲を見回せば、そこは部屋というにはいささか広い場所だった。


 小さな家ぐらいある白く広い部屋の中心に、ぽつんと台座にまつられた一体の神像だけがある。神像の台座には絵のようにも見える、見慣れぬ奇妙な文字が刻まれている。


 周辺にはファルハルドたち以外にも何組かの挑戦者たちの姿がある。挑戦者たちは銘々装備の確認をした後、声を掛け合い警戒をしながら部屋から出ていく。


 物珍しげに周囲を見回すファルハルドたちにヴァルカが説明をする。


 ここは『休息所』と呼ばれる怪物たちが入ってこられない安全域だ。各階層に十箇所ずつあり、転移されるときは十箇所の休息所のどれかに無作為に転移させられる。


 各休息所には十大神のいずれかの神像が一体ずつあり、神像に触れることで地上や一つ下の階層に転移できる。

 ただし、地上から転移された休息所の神像に触れても転移はできず、別の休憩場に移動しなければ地上に帰ることすらできない。


 また、その階層にある全ての神像に触れることで初めて一つ下の階層に転移できるようになる。

 全ての神像に触れるのは一度にまとめてでなくてもよく、十回二十回に分けてでも、とにかくその階層の全ての神像に触れたことがありさえすればそれでよい。


 だが、実力が伴わずに下の階層に挑めば、あっという間に死ぬことになる。誰もが充分な実力をつけてから、下の階層に挑んでいる。


「ま、今日のところは関係ねぇな。さあ、装備の確認をしろ。休息所を出た途端に怪物が襲ってくることもあるぞ。皆、用意はいいか。行くぞ」


 ファルハルドたちはついに迷宮への第一歩を踏み出した。

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