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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第一章:挑みし者たち
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05. 装備選び /その①



 ─ 1 ──────


 その日は西地区の、内壁と外壁のちょうど中間の位置にある宿屋に泊まった。


 大通り沿いではなく、通りをいくつも入った裏通りの安宿だ。迷宮に潜り始めたばかりの挑戦者たちが集まる酒場の場所を魔導具組合で教えてもらい、その近くで一番安い宿を探したのだ。


 安宿は防犯に不安があるため部屋の確保だけをし、荷物は全て持ち酒場タラーに向かう。



 酒場は席が八割方埋まり、なかなかの盛況ぶりだ。客たちは怒鳴り合うように話しているが、喧嘩騒ぎを起こしている者はいないようだ。


 ファルハルドたちも隅に近い席につき、食事の注文をする。安酒場だけあって、食事も酒も味はろくでもない。食事は腹を満たすため、酒はとにかく酔っ払うためのもので間違っても味わうためのものではない。


 ただし、大半の客が酒のつまみに注文している軟らかい干し肉はなかなか味が良い。擦り込む香草や香辛料に工夫があるらしい。


 ファルハルドは酒を呑まないが、このような店で酒を注文しないのは悪目立ちするため、食事と共に酒も注文した。時々杯を口に当て、呑むふりをする。


 注文した料理は旅の間食べていたのと同じ潰した麦と野菜、わずかな肉を煮た粥だ。


 粥は庶民一般の食事だ。何人前でも材料を鍋に入れ、とにかく茹でればいいのでよく食べられる。旅人や貧しい者はこの粥だけ、少し余裕のある街の住人は他にもう一品をつける。そしてもっと裕福な者たちは粥には見向きもしない。


 この店の粥は塩気がきつく、なにかごりごりした具材が入っているがファルハルドたちは気にしない。


 ジャンダルは旅に慣れ、ときにはなにも食べられない日もあるので食事を得られるだけで満足できる。

 ファルハルドは食事に関心が薄い。そもそも生きることに執着がないファルハルドは、食べることにも興味を持てない。


 そのため、二人ともがこの店の料理に不満を持つことがなく、平然と食事をする。



 粥を食べ終わったファルハルドが匙を置き、もうすぐ食べ終わりそうなジャンダルに話しかける。


「それで、どうする」

「そうだねー。あ、ちょっとお姉さん、注文いい。葡萄酒を水差しに入れて持ってきて。あと干し肉も一掴みお願い。

 酒を片手に何人かに話しかけよっか。兄さんは適当に話を合わせて」

「わかった」


 酒と干し肉が卓に運ばれ、中銅貨オル四枚を渡した。

 粥を食べながら周囲を観察し、まず最初に話しかける相手は決めていた。この店に集まる挑戦者の中では比較的年長の者たちだ。


 年長といっても二十代半ばだろう。この店にやって来る挑戦者たちは迷宮に潜り始めた者たちだけあって、まだ十代の者が多い。周りの者たちよりはいくらか落ち着いているように見える。


 ジャンダルはにっこり笑って近づき、酒の入った水差しを差し出した。


「お三方。お近づきの印に一杯どう?」

「おう、悪りぃな」


 濃い髭の目立つ男性はジャンダルが満たした杯を、ぐいっと一気にあおる。


「おいらジャンダル。こっちの兄さんと一緒にパサルナーンに来たばっかなんだ。お三方はだいぶ迷宮に潜ってそうだね。どう、少し武勇伝でも聞かせてくんない」


 男はジャンダルの右手に目をやる。


「ほう。なんだ、二人はこれからか。俺たちが潜り始めたのは二年前だな。今は二層目に挑戦中だ」


「おう、こっちも一杯貰えるか。そうかい、潜るのはこれからか。なら最初の戦いが肝心だな。外との違いに戸惑って一戦目で死んじまう奴らが多いからな。

 ま、その点俺は、俺の戦いぶりを見た周りの奴らがビビるぐらい活躍したがな」


「けっ、お前ぇはちびりそうになって震えてただろうが」

「んだ、こら」


「まあまあまあ。外と迷宮内で怪物たちが全く違うってのはよく聞くんだけど、実は今武器をどうしようか迷ってるんだ。お三方はどんなの使ってんの」


「俺は斧だな。他の二人は戦鎚せんついすいだ」

「俺たちは外でもずっと同じ武器を使ってたからな。その点はついてたな」


「だな。つっても、初めて石人形をぶん殴った時は腕が痺れて参ったぜ」

「バーカ、お前ぇは芯を外すからそうなんだぜ。もっとしっかり狙えよ」

「あ゛ぁ、初めての時だっつってんだろ」


 酒が入っているせいか、やたらとすぐにいきり立つ。落ち着いていると見えたのは勘違いだったか。

 そのまま放っといても良かったが、まだ聞きたいことがあったのでジャンダルが口を挟みなだめる。


「ちょっ、ちょっ、ちょっ。ちょっとたんま。さっきなんて言ったの。『すい』でよかった? それってなに?」


「ん? 知らねぇか。今手元にねぇしな」と、言いながら皿に残っている骨付き肉の食べ残しの骨を手に取った。手に取った骨の先に小さく千切った干し肉を刺し、それをジャンダルたちに見せる。


「こんな具合に長い木の柄の先端におもりを付けてる武器だな。戦鎚のつち部分を丸く小さくした感じと言えばわかるか。

 戦鎚よりは軽くて、それでも力が乗れば石ぐらいは割れるぞ。剣と違って折れにくいしな。あと、ぶっちゃけ、剣よりだいぶ安いんだよな。

 ま、お前みたいにちっこくて力がない奴には向いてるだろうよ」


「へー、良さそうだね。それにしようかな、ねぇ兄さん」

「ん、あぁ、そうだな。良さそうだな」


 ファルハルドは完全に話を聞く態勢になっていた。急に話を振られ戸惑ってしまう。三人組もファルハルドのことは意識から外れていた。今になって初めてもう一人いることに気が付いた。


「そっちのあんちゃんはいかにも剣士って感じだな。一層目二層目は剣士には不利だぞ。気を付けな」

「ああ、気を付けよう。忠告感謝する」


「ねえねえ、お三方はパサルナーンに来る前からずっと組んでんの。この街に来てから仲間を探す人はどうしてるか知ってる?」


 この三人組は仲間を募ったことがないのか、首をひねっている。


「やっぱ、声を掛けて腕を確かめて組んでんじゃねぇか。よく知らねぇけど」

「どうなんだろうな。なんせ命を預け合う相手だかんな。おいそれとはいかねぇよな」


「まあ、お前らはお荷物にしかなってねぇけどな」

「んだ、こら」


 まーまー、と取りなしジャンダルは次々と酒を注いでいく。三人組がしたたかに酔っ払い、同じ話の繰り返しになってきたところで、ちょうど水差しも空になった。ファルハルドたちは礼を言い席を立つ。



 ジャンダルは酒の入った水差しを新しく注文し、別の挑戦者たちにも話しかける。だが、内容はすでに知っていることの繰り返しだった。

 それでも怪物たちとの戦いを語る口調はつたなくとも臨場感たっぷりで楽しめた。



 その日は二組と話しただけで、あまり遅くならないうちに宿屋へと帰った。




 ─ 2 ──────


 安宿の寝床は西丘の時と同じ、集めた藁に布をかけてあるだけのものだった。ファルハルドとジャンダルはそれぞれ寝床の上に横になって話し合う。


すいと言ったか。面白いな」

「そうだね。実物を見ないとだけど、取り敢えずおいらの武器はそれにしようかな。兄さんはどうすんの」

「俺もまずは見てみてだな」


「あと、あれだね。迷宮に潜る仲間を募る場所とかあるかと思ったんだけど、なんかなさそうだね」

「少なくとも誰もが知る場所にはなさそうだ。一応、中央大神殿のミフルの岩間だったか。あそこの助衆にも聞いてみたらいいだろう」


「おー、そうだね。じゃあ明日はまずモズデフの店に行って武器を見繕みつくろおうか。そのあとは防具店でも紹介してもらって防具も揃える。装備が整ったら中央大神殿に向かうってことでいい」

「ああ」

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