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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第一章:挑みし者たち
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04. 神殿と組合 /その④



 ─ 5 ──────


 二人はモズデフの店に行く前に防具組合に向かう。単純に防具組合が隣の通りにあり、近いためだ。


 防具組合も建物の造りは武器組合と変わらない。ただし、防具には革や木材もよく使われるためか、買い取る素材の種類は多い。武器組合にはなかった木人形といった名称が見える。防具組合では話し込むこともなく、貼り出されている買取表の確認だけをした。



「次はどうする」

「んー、ちょっと遠いけど魔導具組合に行こうか。途中で武器店や防具店があったらのぞいて、あと通りですれ違う挑戦者たちの装備も見てみながら向かおう」


「モズデフの店はいいのか」

「本職にお任せってのも一つの手だけど、なんにもわからずとにかく全部お任せってのもね。一通りどうしたいかとか、どうするつもりなのかとか、考えをまとめてから行ったほうがいいと思うんだよね」


「そういうものか」

「まあね。そう言えば兄さんの腕の調子はどう」


 問われて、ファルハルドは思い出したように右腕をさする。


「石の塊を叩いてどうなるかはわからんが、まずは全力で振っても痺れなくはなったな」

「じゃあ、準備を整えたらいつでも潜れるね」


 大通り沿いの店を覗いてみたが、全体的に重く頑丈なものばかりで二人にとってこれというものはなかった。



 魔導具組合は西地区のうち、中心よりも街全体を囲む外壁に近い場所にある。ちなみに魔導具組合の前の大通りは外壁の門を過ぎ、街を囲む湖の外へと続く橋に通じている。

 そして外壁の外、門と門の中間に、黒い尖塔が立つ小島がぽつんとある。例の魔術院がある場所だ。


 魔術院の小島は湖の外とは繋がっていない。唯一、街とだけ細い橋で繋がっている。魔術院の小島は完全に高い壁に囲まれ、中をうかがうことはできない。


「時間があったら魔術院も訪ねてみよっか」

「そうだな。だが、先に魔導具組合で聞いてみると良いだろう。この位置関係だ、なにかしらは知ってるだろ」

「だね」


 魔導具組合も買取場所の基本的な配置は変わっていなかった。こうなると少なくとも挑戦者が素材を持ち込む場所に関しては、どこの組合も同じ造りなのだろう。


 ただし、武器組合、防具組合と比べて一目でわかる違いがある。受付部分がひどく狭く、奥が全く見えない。気のせいか職員の表情も硬く、閉鎖的な印象を受ける。


 貼り出されている買取素材の種類は多く、初めて見る名称もある。多少の聞きづらさを感じながら、武器組合のときと同じように買取の列に並んだ。

 順番が来、受付の職員に尋ねればすぐに係の者を呼んでくれた。印象ほど閉鎖的な訳でもないようだ。



 係の者はファルハルドたちが入ってきた入口から入ってきた。四十位の痩せた男性で、気真面目そうな見た目をしている。


わたくしはこの魔導具組合において、素材の管理を担当しております、シェルヴィーンと申します。素材についてご質問があると伺いました」


 やはり武器組合のときと同じく商談部屋に案内される。席につくとシェルヴィーンが確認する。


「毒霧のしずくとはどのようなものであるか、という質問ですね。それはどのような怪物から採取できるのか、及び素材の採取方法や判別するための特徴についての質問と理解すればよろしいでしょうか」


 二人は若干、圧倒されながら「はい」と答える。


「では、毒霧の雫はどの怪物から採取できるのか、及び素材の採取方法や判別するための特徴についてお答えいたします。ただし、怪物及び採取方法に関しては、私が直接体験したものではなく、挑戦者のかた及び先達からの伝聞となることをご了承下さい」


 やはり若干圧倒されたまま、「はい」と答える。


「毒霧の雫とはパサルナーン迷宮の一層目及び二層目、まれにより下の階層にも出現する包み込む毒霧と呼ばれる怪物より採取できる素材です。


 この包み込む毒霧と呼ばれる怪物は、その毒の種類により何種類かに分かれます。ですが、当魔導具組合において買取を行っておりますのは三種類、麻痺毒、睡眠毒及び腐食毒のみでございます。それぞれわずかに黄色味、赤味及び紫味を帯びていることにより判別が可能です。


 次に採取方法ですが、多くは魔法を使用したものとなります。しかし私には魔術及び法術の素養はなく、充分な理解はできないため説明はご容赦下さい。

 魔法以外の採取方法には、堅く焼き締めた壺に閉じ込める方法があると聞いたことがございます。ですが、私自身は実際にその方法で採取を行った挑戦者のかたに出会ったことはありません。私からの説明は以上です」


 二人は「はい、ありがとうございます」と答える他なかった。ただ、段々とこのシェルヴィーンという人物に面白味を感じてきた。今までに出会ったどの人物とも違っている。また、その正確さを求める生真面目な話し振りは信用できる。

 せっかくなので石人形や泥人形についても尋ねれば、また違った情報を聞くことができた。



「ご質問は以上でよろしいでしょうか」

「あ、素材じゃないんだけど、ここ魔術院と近いよね。あそこって、おいらたちがいきなり訪ねて行って中に入れてもらえるものかな」


 この質問にシェルヴィーンは丸めた手を唇に当て、しばし考え込む。


「まず確認ですが、おっしゃられた魔術院というのは外壁外の小島にある黒い尖塔を持ち壁に囲まれた、『世俗を離れ静寂と禁欲の下、真理を探求し、真理に奉仕する愚者の集いし園』のことでよろしいでしょうか」


「え? え? ごめん、聞き取れなかった。もう一回言ってもらってもいい」


「仰られた魔術院というのは、『世俗を離れ静寂と禁欲の下、真理を探求し、真理に奉仕する愚者の集いし園』のことでよろしいでしょうか」

「えーと、はい。よろしいと思います」


「でしたら、訪ねること自体は問題はありません。ただ、中に入ることは難しいでしょう。あそこの門は滅多に開かれることはありません」

「あー、やっぱりそうなんだ」


「魔術師のかたが外に出る機会も少ないようなので、知り合うのは難しいと思われます」

「そっかー。いや、ありがとう。いろいろ疑問が解けて助かったよ」


「ああ、とても助かった。ありがとう」

「いえ、お気になさらず。お二人が素材を持ち込んで下さるのを当組合はお待ちしております」


 二人が礼を言えば、シェルヴィーンはびしっと姿勢を正し、定規で測ったような綺麗な礼を返し見送った。

次話、「装備選び」に続く。

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