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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第一章:挑みし者たち

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02. 神殿と組合 /その②



 ─ 2 ──────


 手続きを終え、ざっと街を見た二人は粗末な宿屋に宿を取った。これからの予定を話し合う。


「明日なんだけど、ちょっと調べたいことがあるんだよね」

「魔術師のことか」


「いや、まあ、そっちも探さないとだけど、その前に口に糊する方法を調べたいんだ」


 ファルハルドはよくわからないという顔をする。ファルハルドのこの反応を予想していたジャンダルはそのまま説明を続ける。


「今日、手続きの場所を見た限りでは、百人以上は迷宮に潜ってる筈だよね」

「確かにそれぐらいはいたな」


「だよね。まあ、実際はもっとずっと多いと思うんだけど。で、その人たちはどうやって食べていってるんだろう?」

「どういうことだ」


 ファルハルドはわからないと、より一層首をかしげる。


「闇の怪物は倒しても食べらんないし、食べ物をどうやって手に入れていると思う? 挑戦者たちだって霞を食べてる訳じゃないんだから、なにかして稼いでる筈だよ。

 それに、おいらたちみたいに宿屋に泊まるならその宿代だって必要になるし。もちろん武器だ、なんだって必要なものはもっといろいろあるからね」


 ファルハルドは、やっとこ理解できたと顔色を明るくした。


「少なくとも畑を耕して暮らしているようには見えなかったな」

「そうそう。生業なりわいは別にあって、余裕がある時だけ潜るんなら話は簡単だけど、まさかそんな筈ないもんね」


 ファルハルドは頷く。


「怪物たちとの戦いが片手間でできるとは思えんからな」

「となると、迷宮に潜ることで生活できるんだと思うけど、それがどんな方法なのかわかんない。だからそれを調べたいんだ。手持ちの金でしばらくは暮らせるけど、稼ぐ手段がないと先行きが心配だからね」


 ファルハルドはここで不思議そうな表情をする。


「薬は売らないのか」

「うーん、売れない、かな。街中を通る時見た限りでは、この街はいろいろちゃんとしてるっぽいんだよね。そういう所では勝手に商売できないし、許可を取るには金と時間と伝手つてがいるからね。無理っぽい」


「そういうものなのか」

「ま、大勢の人が暮らせてるんだから、おいらたちだってできる筈だよ。取り敢えず明日はまた手続きの場所に行ってみよう」

「ああ」




 ─ 3 ──────


 そして再び手続きの場所へ。ちなみにこの手続きの場所は『ミフル(契約神)の岩間』と呼ばれている。


 入口横には荒々しき戦神ナスラ・エル・アータル、入口から見て左手の壁に狡知なる戦神セルス・エル・アータル、右手の壁にあらがう戦神パルラ・エル・アータル、そして正面の壁にミフルの神像が置かれている。左側と正面には別の場所に続く通路が見える。



 ジャンダルは周りを観察し、誰に声を掛けるか考える。ファルハルドはその手のことはジャンダルに任せ、自分は昨日よりだいぶ人数の少ない挑戦者たちの様子を静かに眺めている。


 やがてジャンダルは一仕事終え、手の空いた助衆に声を掛けた。


「忙しいところちょっとごめん。おいらたちこの街に来て、昨日宝珠を渡されたばかりなんだ。ちょっと迷宮に潜ることについて教えて欲しいことがあるんだけど、いいかな」


 ジャンダルが自分の腰に吊るした光の宝珠を見せながら尋ねれば、尋ねられた助衆は慣れた様子で構わないと答えた。


 ジャンダルは率直に挑戦者たちがかてを得る方法について尋ねた。ついでに許可が得られるなら薬を売ったり、鋳掛をする方法も採れることも伝える。

 助衆は何度も頷き「もっともな疑問です」と答えた。



「私の知る限りでは大きく分けて二つの方法があります。一つはこの中央大神殿に於いて宝珠に蓄えられた光を神々に捧げる方法です」


 ファルハルドは聞いた瞬間、昨日文言(もんごん)を唱えた時自分の身体から力が抜け、宝珠の中に揺らめく光が現れたことを思い出す。

 自分自身から力を吸い取り、捧げろというのか。思わず自分の腰に吊った宝珠を手に取り疑問を口にする。ジャンダルも同じく宝珠を手に取り不審そうな顔をしている。


「蓄えた光を捧げるとはどういうことだ」


 助衆は二人が手に持つ光の宝珠を指し示しながら、説明を続ける。


「挑戦者の皆様が持つ光の宝珠とは、迷宮に於いて闇の怪物たちを倒された際、怪物たちの持つ『始まりの人間(ガヨー・ファールス)』の光を集めるための神具なのです。

 その集めた光を中央大神殿にて神々に捧げていただくことで、返報として石札を贈らせていただいております」



 ジャンダルは眉をしかめた。


「ちょっとわからないことばかりなんだけど、いい?」

「はい、疑問があればなんなりとお尋ね下さい」


「怪物を倒して光を集めるってなに? え、闇の怪物なのに光を持ってんの」


「大小強弱の違いはあれども、闇の怪物も含め、この世に存在する全てのものは『始まりの人間』の『創造の光(フラワフル)』をその内に持っております。それはこの世界が創られる遥か以前、神代の頃に『暗黒の主(アンラ・マンユ)』によって取り込まれた始まりの人間の創造の光の一部なのです。

 ああ、挑戦者の方々にならば、光ではなく魔力と呼んだほうが耳に覚えがあるかもしれませんね」


「え、集める光って魔力のこと?」

「始まりの人間の光、魔力、生命力。それらは全て同じものを別の呼び名で呼んだものです。ただし、神殿内に於いては光と呼ぶことをお薦めいたします」


「そう、なん、だ。じゃあ、その光を捧げるっていうのはなに?」


 助衆はミフルの神像横の奥へと続く通路を示す。


「あちらの通路は神殿の『生還者の間』に繋がっております。生還者の間にある祭壇に光の宝珠を置き祈られますと、宝珠に蓄えられた光を神々へと捧げることができるのです」


「へえー。じゃあさっきから通路の奥に案内されている人たちはその光を捧げる、ってのをしてるんだ」

「その通りです。祈るのに時間は掛かりませんが、一度に生還者の間に入れる人数は限られておりますので、あのように我々で案内させていただいているのです」


 ジャンダルは指を合わせて丸い輪を形作り、にんまり笑って尋ねる。


「で、その返報ってのはいかほど貰えるものなのかな」

「一人につきこの石札を一枚お渡ししております」


 助衆は懐から一枚の薄くて白い長方形の石の板を取り出した。石の板には緑色の複雑な文様が描かれ、紐を通すための穴も開いている。


「石札一枚で、この街のほとんどの宿屋で一日分の食事と寝床が提供されます」

「じゃあ、その白い石札一枚で大体中銅貨(オル)八枚ぐらいってことか」


「あくまで皆様へのねぎらいと返報のためお贈りしているものですので、金銭で考えるのはご遠慮下さい」

「うん? そうなんだ。じゃあ、それはさ、何体ぐらい怪物を倒したら一枚分になるの」


「何体分でも一枚です」

「うん? えーと、たとえば一体だけ倒してその光を捧げたら?」

「一枚です」


「百体倒して捧げたら?」

「一枚です」


「ちょ、なんで」

「あくまでもお贈りするのは労いと返報のためですので」

「…………」


 ジャンダルは絶句するが、ファルハルドはそんなものかと思う。つまり、挑戦者が飢え死にだけはしないようにし、迷宮に挑戦するのを奨励しょうれいするための最低限の備えなのだろう。

 ジャンダルは立ち直るのに時間が掛かりそうだったので、代わってファルハルドが質問を続ける。



「大きく分けて糧を得る方法が二つあると言っていたな。もう一つの方法とはどんなものだ」


 このファルハルドの質問でジャンダルも立ち直り、助衆に熱のこもった目を向ける。


「私は詳しくはないのですが、闇の怪物たちから採れる素材を馴染みの店などに卸し、報酬を得ることもあるようです。

 一層目などは手に入る素材も珍しくなく、卸すかたも多いので、個別の店でなく武器組合などの職人組合でまとめて買い取っているそうです。詳しい話はそれぞれの職人組合でお尋ねになればよろしいでしょう」

「それだ」


 ジャンダルは手を叩いて喜んだ。すぐにでも駆け出そうとするが、そのジャンダルをファルハルドが襟首えりくびつかみ止めた。


「ちょ、兄さん、なに」

「場所はわかるのか」

「……いや、わかんない。えーと、ごめん。教えてもらっていい?」


 助衆は苦笑しながら教えてくれた。いろいろな職人組合があるが、挑戦者に所縁ゆかりがあるということで武器組合、防具組合、魔導具組合を紹介してくれた。


「ありがとう。あと、できれば調薬組合の場所も教えてくれるとうれしいんだけど」

「ええ、いいですよ」


「いろいろ教えてくれてありがとう。本当に助かった」

「長々と時間を取らせて悪かった。助かった。ありがとう」

「いえ、これも我々の役目ですので。お二人に神々のご加護がありますように」

 明日から、一日一度更新になります。

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