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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
序章:たとえ、過酷な世界でも
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28. そして、パサルナーンの街へ /その①



 ─ 1 ──────


 カルドバン村を出発して四日目。半ば草に埋もれかかった古街道をファルハルドとジャンダルは進んでいた。


 今の土が踏み固められただけの街道とは違い、そこかしこに往事に敷かれた石畳が残っている。

 その石畳は長い歳月放置され、角が丸く擦り減り、隙間からは高く草が伸び、ところによって道は大きく崩れている。


 今ではもう、道を修復する者もいない。




 現在この古街道を使う者は、パサルナーンへ急ぐ者、人目に付かずに国境を越えたい者、そして古街道沿いにある古い神殿にもうでる者に限られる。


「随分神殿が多いな」

「だねー。昔の人は信心深かったのかな」


 古街道沿いには、いったいいつ建てられたかもわからない、さびれた、だがかつては壮麗だったであろう神殿が数多く見られる。

 詣でる者も滅多にいない土埃の積もったその神殿を、ファルハルドたちは山中での宿に使わせてもらう。


 この前神官たちに救われたこともあり、宿代わりに使わせてもらう神殿では簡単な清掃を行った。


 神像と祭壇周りの汚れを落とし浄める。なかには無数の神像が並ぶ神殿もあったが、その際には主神らしき神像だけで勘弁してもらった。



 神像周りの清掃が終われば、ジャンダルは食事の用意に取りかかり、ファルハルドは剣の稽古を始める。


 追手たちは未だ現れない。新たな追手の選定に手間取っているのか、この前の襲撃で神官たちに介入されたほとぼりを冷ましているのか。

 だが、いつ現れようともおかしくはない。新たな襲撃に備え、ファルハルドは己を鍛え直す。


 右腕は未だ完全には回復しておらず、強く剣を振るうと腕が痺れた。怪我を癒やし、安静にする間に体力も落ちている。己の動きに違和感を感じる。


 剣を抜く際、振るう際の重心の移動や動きの繋げ方。足の位置や姿勢。わずかなずれがぎこちなさとなり、思うように剣を操れない。


 イルトゥーランの王城で一人剣技を身に付けた頃を思い出し、身体の動きを修正する。母を城から助け出すために身に付けた剣はどうだったのか。


 そして、思い描く。今、暗殺部隊に襲撃されればどう対応するか。今、悪獣が襲いかかってくればどう戦うべきか。


 考える。守らなければならない者がいるときは、どんな戦い方をするべきか。そして、一人ではなく仲間と協力しての戦い方とはどんなものか。


 力を取り戻すため、そして新たな戦い方を身に付けるため、ファルハルドは一心不乱に剣の稽古を続ける。



 ジャンダルもカルドバン村にいる間に鍛錬をしていた。ジャンダルは飛礫打ちも鎖投げも自然に身に付け、そのための鍛錬などしたことはなかった。再び悪獣に襲われたときのため、そしてパサルナーンの迷宮に挑むため、初めて意識して鍛錬を行った。


 ただ、旅の間に二人ともが稽古に疲れ果てれば危険なため、今はジャンダルは鍛錬を止めている。


 ファルハルドに合わせゆっくりと進んでいるが、明日にはイルマク山を抜け、パサルナーン高原に辿り着く筈だ。




 ─ 2 ──────


 次の日の昼前。イルマク山の中腹を進むファルハルドたちの目の前に風の神(ヴァード)まつる、吹き抜けのほこらが現れた。


 その祠は他の神殿とは大きく異なっている。祀られる神が、ではない。建物としての形が、でもない。風が吹き抜けるよう開かれた壁の向こうに広がる景色が異なっている。祠からはパサルナーン高原が一望できた。



 晴れ渡る空の下、村や街が点在する高原風景。それはそれで絵になる風景だ。だが、その風景を唯一無二の特別なものとしているのはただ一点、高原中央に存在する巨大都市パサルナーンによる。


 世界一、二の規模を誇る巨大都市。高原中央の湖に浮かぶ巨大都市の偉容こそがこの風景を特別なものとしている。


 ファルハルドもジャンダルもその風景に言いようのない感動を覚えた。ジャンダルに至ってはその目に涙をにじませている。


「あれがパサルナーン」

「うん。うん。やっと、やっと辿り着いたんだ。『そこは全ての願いが叶う聖地。その地は神々に愛され、神々が降り立つ地。全ての人の子よ。パサルナーンを目指すべし』」


 ジャンダルは気持ちの高まりを声に乗せ吠える。その声は風に乗り、遥か遠くまで響き渡る。

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