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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第三章:巡る因果に決着を

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21. 九層目に挑む日々 /その③



 ─ 3 ──────


 パサルナーン迷宮九層目、休息所。ファルハルドたちは装備、道具、体調の最終確認を行っている。


 ファルハルドの語るベリサリウスたちの戦い方を参考に、皆は準備を整えてきた。準備と調整に時間を掛け、充分な用意も行った。


 それでも皆は少し神経質になっている。強敵相手にこれまでとは異なる戦い方を実行する予定だからだ。


 確認は終わった。声を掛け合い、休息所を出る。進む。九層目の通路を進んでいく。どこか遠くで竜の咆吼がとどろいている。



 進むファルハルドたちの足下に地面からの振動が伝わってきた。ファルハルドは意識を集中し、感じ取る。


「来るぞ。後ろからだ。今だ、跳べ」


 皆がいた位置を狙い、床下から口を大きく開けた竜が襲いかかってきた。その鱗の色は赤褐色。


 着地と同時に、ジャンダルが名を呼ぶ。


「アリマ」


 声を掛けながら、腰に吊している玉を手に取り投げた。

 狙う先は顔。玉は体勢を変える銅の竜の顔目掛け、狙いあやまたず飛ぶ。


 そして、玉が竜にぶつかる寸前。アリマの放った火の矢が玉を射貫いた。


 瞬間、玉は弾け、強い閃光を放つ。竜は悲鳴を上げ、のたうち回る。



 これが、ファルハルドたちがベリサリウスたちの戦い方を参考にし取り入れた一つ目だ。


 悪竜は強い光を苦手としている。強力な光で目がくらめば、他の感覚器官も狂い、その動きにまで影響は及ぶ。

 ただし、そのためには相当に強い光でなければ効果がない。


 悪竜が光に弱いことそのものは、ファルハルドが最初に悪竜の記憶を話した時に伝えていた。

 ただ、ファルハルドたちには強い光を作り出す手段がなかった。


 ベリサリウスたちは強い光を生む法術を授かっていた。

 ペールとアシュカーンはその法術を使えない。アリマの魔術にも適した術は見当たらなかった。


 そのため、有効だとわかっていても、ファルハルドたちはこの攻め方を行えなかった。


 それが、セレスティンとの話し合いから戻ったファルハルドが改めて三百年前の記憶を詳細に語り、皆でなにをどう活かすかを再度検討し始めた時、ジャンダルが言い出したのだ。もしかしたらいけるかも知れないと。


 そして、魔術院、魔導具組合、調薬組合を回って話し合い、ジャンダルが工夫をらして作製したのが、今回使った閃光玉だ。


 本当はぶつけた衝撃で弾けるようにしたかった。だが、持ち運んでいる時には衝撃を受けても弾けず、当たった時のみ弾けるようにするのは難しかった。

 仕方なく、今の段階ではアリマが生み出した火の矢に頼ることにした。


 まだ未完成。が、その効果は充分。閃光を浴びた銅の竜はまるで酩酊するかのようにふらついている。 



 そこに繰り出すは魔法攻撃。アシュカーンが動きを縛り、ペールが不可視の拳で撃ちのめし、アリマが風の刃で鱗を切り裂く。

 竜は身をよじり、抵抗する。


 ファルハルドは竜の動きを見極め、素早く跳び込み剣を繰り出す。

 カルスタンとラーナも暴れる竜の動きに合わせ踏み込もうとするが、なかなか近づけないでいる。


 だから、アシュカーンとペールが展開する。二人の身近に一人ずつを守れる大きさの光壁を。展開された光壁は二人の身を守りつつ、同時に暴れる竜の動きを制限する。


 踏み込んだカルスタンとラーナは、それぞれ武器を繰り出した。カルスタンは持ち替えた予備の小剣を、ラーナは戦斧を。


 狙ったのは深手を負わせることではない。狙ったこと、それは鱗を剥がすこと。



 これがベリサリウスたちの戦い方から学んだ二つ目だ。


 これまでファルハルドたちは竜の鱗を斬り裂き、叩き割ることで、その奥の身に損傷を与えようとしてきた。

 そのこと自体は別に悪くはない。ベリサリウスたちだってそうしていた。


 ただし、九層目の戦いが順調に進むようになるまでの、最初の頃は違っていた。ベリサリウスたちですら、九層目に挑み始めたばかりの頃は悪竜との戦いに手古摺てこずっていた。


 その苦戦する状況を打開した方法が、まず高い防御力と魔法抵抗性を持つ鱗を剥がすという方法だった。

 それは容易たやすい方法ではない。いっそ力任せに鱗を斬り裂くまで何度も攻撃するほうが簡単なほどだ。


 それでも、これまでの戦いで悪竜の鱗に攻撃を阻まれきたファルハルドたちは、この方法を採用することにした。


 ファルハルドは、カルスタンは、ラーナは鱗と鱗の境目を狙い刃を突き立てる。

 どこにでも刃を突き立てられる境目がある訳ではない。攻められる箇所は限られる。三人はその場所を狙い、刃を突き立てた。


 そして、深く差し込むのではなく、横向きに刃を振るい見事鱗をぎ落とした。


 悪竜は叫びを上げる。ファルハルドたちはそのまま一気に攻める、ことはできない。竜の動きに力強さが戻ってきている。


 銅の竜は閃光の影響から回復しつつある。


 ならば再度の閃光玉を、とはいかない。竜も学習し、警戒している。目を閉じられただけで光で眩ませることは防がれるのだ。二度目の閃光をくらわせるには、より一層の工夫が必要となる。


 だから、ファルハルドたちは攻める。鱗を剥がした箇所を狙い、攻めようとする。


 悪竜はさせない。牙を剥き出し、突進した。毒の息を吐けない銅の竜では、この巨体による突進こそが最も怖ろしい。


 ラーナを守るための光壁を展開していたアシュカーンは、行動阻害の法術への切り替えが一手遅れた。


 銅の竜の突進先。そこにはアリマがいた。


「我が一なる意、きゃっ」


 竜に向け術を発現しようと杖を構え文言を唱えようとしていたアリマに、横からジャンダルが飛びついた。

 二人は際疾きわどいところで竜の突進から逃れた。


「なにやってんの。間に合うかどうかぐらいわかれ!」

「ご、ごめんなさい」


 ジャンダルとアリマが話す間に、アシュカーンとペールが行動阻害の法術と光壁でアシュカーンの動きを妨害する。動きを制限した悪竜をファルハルドたちが攻める。


 ファルハルドは攻撃を掻い潜り、跳躍。主に顔付近を攻め、竜の注意を引きつける。

 カルスタンが脚の鱗を剥いでいく。ラーナはその鱗を剥いだ箇所を狙い、全力で振りかぶった斧を叩きつける。一度で出血、さらに斬撃を繰り返し脚を半ば断った。


 竜は横倒しに。今こそ好機。一気に攻める。


 ファルハルドは鱗の境目に剣を差し込み、首を断たんとする。カルスタンも戦鎚に持ち替え、全力で頭を打ち据える。ラーナはもはや立てないようにと竜の指を切断していく。


 竜は抵抗し、暴れる。ファルハルドはかわす。カルスタンはね飛ばされ。ラーナは避け、斬りつける。


 ジャンダルも攻撃を繰り出した。義手の甲から放つは魔力の塊。それは小球ではない。太く尖らした槍の穂先に似た形状。それを竜の目を狙い放った。魔力の穂先は目を貫いた。


 アシュカーンは銅の竜の動きの阻害を続けている。ペールは一度不可視の拳を放った後は、どんな動きでも執れるように、注意深く状態を見守っている。


 そこにアリマが放つ巨大な風の刃。風の刃は横から、皆が傷を与えていた首へと迫る。竜の身体が大きくねた。


 浮き上がった竜の身は力なく沈み、その首がずり落ち、高く血を吹き上げた。



 ファルハルドたちは互いに目を合わす。そして、腹の底からの勝ちどきと共に、手にする武器を力強く掲げた。


 これまで、どれほどの苦戦を勝ち抜いても勝ち鬨を上げたことなどない。しかし、この時は上げた。上げずにはいられなかった。


 ファルハルドたちは、悪竜との戦いが変わるきっかけとなる勝利を手に入れた。

 次話、「真鍮の竜」に続く。



 来週は更新お休みします。次回更新は12月14日予定です。

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