26. ラーメシュとニユーシャー /その③
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夜更け。ファルハルドたちの部屋に扉の外から声が掛けられる。
「夜中に済まねえ。ちょいと話したいことがあるんだが、いいかい」
ファルハルドたちはこの訪問を予想していた。素直に扉を開きニユーシャーを迎え入れる。ニユーシャーはラーメシュと一緒に訊きたいことがあると言って、二人を一階の店舗に誘った。
蝋燭一本だけを灯したなか、卓に向かい合わせに座る。
ニユーシャーたちは目を伏せ、なかなか口を開かない。ファルハルドが「それで」と声を掛け、ニユーシャーはやっと重い口を開いた。
「義妹たちの墓なんだが……」
ああ、それはとジャンダルが答える。
「おいらも兄さんも正式な弔い方は知らなくて、村人全員をまとめて火葬にしたんだ。残った灰はその場に埋めて、墓標として木の板だけ立てたんだよ」
「そうかい」
「ごめんね。もっとちゃんとすればよかったんだろうけど、それ以上はちょっと無理だったんだ」
ニユーシャーもラーメシュもぶんぶんと首を振る。
「なに、言ってんでぇ。充分だ。義妹夫婦も不幸に見舞われたが、あんたらのお陰でエルナーズたちは助かった。安心して逝けただろうよ。
そのうち、義妹たちの冥福を祈りに行きてぇ。その東道ってのの、詳しい場所を教えてもらえるかい」
ジャンダルは詳しい道順や目印になるものを教えた。
ニユーシャーたちは礼を言ったあと、緊張した様子で何度も口を開いては、また閉じてと繰り返す。ファルハルドたちは急かすことなく静かに続きを待つ。ニユーシャーは絞り出すように苦しそうな声を出した。
「その、あれだ。エルナーズたちの村が賊に襲われたんだよな。その、なんだ。エルナーズはまだ成人前だが、身体つきはもう大人と同じだ。賊の糞どもが放っておくとは思えねえ。あの子は、その……」
「エルナーズは襲われた。だが、なんとか間に合った。あなたが心配している事態になる前に賊たちを斬り捨てた」
「それでも辛い目にあったからね。最初はなんにも話せず、表情なんかもなくなってたよ。おいらたちが話しかけてもなにも喋らなくて……。
でも、ジーラたちといて少しずつ落ち着いてきて、村を離れて少しずつ話もできるようになったんだ。昔のエルナーズがどうだったかはわからないけど、神官たちと話して少しは心の整理がついて、今は前を向けるようになったように見えるよ」
「そうか」
ラーメシュはニユーシャーの手を握り、ぐっと涙を堪えている。ニユーシャーは一度目を閉じて気持ちを落ち着けた。目を開け、自分の手を握るラーメシュの手の上に空いている手を重ねる。
「義妹夫婦の葬儀も執り行ってもらって、あんたらにはなにからなにまで世話になっちまったな。たいしたことはできねえが、せめてあんたの怪我が治るまでゆっくりしていってくんな」
二人にとってこれは意外な申し出だった。
「いいのか」
「てっきり、エルナーズたちが早く辛い記憶を忘れられるようにすぐにでも出てってくれ、って言われるのかと思ったよ」
「てやんでぇ! 見縊ってもらっちゃあ困るぜ。痩せても枯れてもこのニユーシャーさんは、そんな人でなしじゃあ、ねぇんだぜ」
ニユーシャーは二人をきっと睨み、きっぱり言いきった。ファルハルドたちはニユーシャーの人柄を好ましく思った。
ジーラたちを引き取ると言った時の様子からも、ユニーシャーたちは芯に太いものを持つ、気持ちの真っ直ぐな情の深い人柄だとわかる。この夫婦の下でなら、エルナーズたちは辛い記憶に負けず心豊かに暮らせるだろう。
「んじゃ、せっかくなんでお世話になっちゃおうかな」
「世話になる」
「おうよ」
その後、ファルハルドたちはエルナーズ一家がこの村を出て行った事情を尋ねた。込み入った話だったが、今後エルナーズたちがこの村で暮らしていくのに関わりのない話だった。
将来、エルナーズが知りたいと思えばニユーシャーたちに自ら尋ねるだろう。それはあくまで家族としての話だ。ファルハルドたちが口を挟むことではない。
夜半をだいぶ過ぎた頃、ニユーシャーたちとの話し合いは終わった。




