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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第三章:巡る因果に決着を

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14. 悪竜 /その①



 ─ 1 ──────


 ファルハルドたちは地上に帰り着いた。見るからに襤褸襤褸となって。

 九層目、悪竜たちの階層に挑み始めて半月。今日、やっと初めての勝利を手にした。


 この半月の間、ファルハルドたちは何度も九層目への挑戦を行った。しかし、悪竜たちは強い。毎度、命からがら逃げ出すのが精いっぱいだった。



 悪竜。悪霊たちの長子とも呼ばれる悪神ゼフゴーレ・ボルアルゴが産み落としたる闇の眷属。

 一言で言い表すなら、馬鹿でかい蜥蜴マル・ムラク、あるいはマール。大きさが庶民の家ぐらいある時点で、もはや単に馬鹿でかいと表現するだけではその脅威を表しきれないが。


 その巨体が持つ力も素早さも徒人ただびとが対応できるものではない。その上、毒巨人のような猛毒ではないが、その身は毒を帯び、巨体に見合った肺活量で毒の息を吐く。さらには巨人たちと同程度の魔法抵抗性を持ち、その鱗は金属鎧に匹敵する硬さを持つ。

 強敵どころか災害と呼ぶのが相応しいほどの存在だ。


 ファルハルドたちが何度立ち向かおうとも歯が立たない。ファルハルドの素早さやカルスタンの力、ペールたちの魔法攻撃でもなんとか傷を負わせるだけで決定打とはならなかった。


 ファルハルドがフィルーズであった時に得た攻略知識を持ち出すが、その内容をかし実現するには皆の実力が足らなかった。




 状況を打開したのはセリアから渡された黒い杖だった。


 アリマは黒杖の使用を試みるが、成功しない。魔力的な反発が強く、黒杖を手に取ることができないのだ。


 十日間試し、上手くいく兆しすら見られなかったことで取り組み方を変えた。師であるフーシュマンド教導と共に、黒杖に刻まれている術式の解析から始めることにした。


 ただ、アリマには迷宮に潜る都合もあったため、黒杖の解析のための時間はどうして限られてしまう。気付けば、解析作業は兄弟子であるザイードが中心になって進めていた。


 これはザイードの専門分野が、物に術式を刻んで術を発動させる魔導の分野であったことと、ザイードはしばらくの間迷宮挑戦を休止していたことによる。


 ザイードも今は迷宮挑戦者の一人となり、仲間たちと共にパサルナーン迷宮に挑む生活を送っている。


 ただ、ザイードが共に潜る仲間たちはつい最近、初めて八層目に足を踏み入れ、そこで手酷い敗北を喫したのだ。仲間の一人が死亡し、ザイード以外の他の者たちも無事ではない。

 よって態勢を立て直すまでの数箇月、ザイードは比較的時間に余裕がある状態でいた。


 そこにアリマによって自分たちの知らない術式が刻まれた、魔導の大先達が使っていた杖がもたらされたのだからたまらない。

 今の持ち主であるアリマや師であるフーシュマンドを差し置き、ザイードは夢中になって研究を進めていく。


 アリマとしては勝手に研究を進められるのは血涙を流すほどに悔しいが、それでも発見された結果は役に立った。

 解析できたのはまだ序の口。それでも、見つかったその術式を自らが使う小振りの杖に刻めば、アリマの発現する魔術の精度や威力は上がった。


 力を増したアリマの術を足掛かりに戦いを組み立て、ファルハルドたちは初めて悪竜たちに勝利することができたのだ。



 自分たちを見詰める周囲からの視線を意識したジャンダルはさりげなく、いや、嘘である。全然、全く、さりげあって、回収してきた悪竜の大きな鱗を背負い袋から取り出し見せびらかした。

 注目していた黒い建物内にいる挑戦者たちは一斉にどよめいた。


 ジャンダルとカルスタンは得意顔で鼻高々だが、手柄を誇ることや注目されることが苦手なファルハルドやアリマはとても苦い顔になる。


 溜息と共に仲間の一人がジャンダルに近づき、指先で被る兜を弾いてずらせ、そのままその大きな手でジャンダルのこめかみに指先をめり込ませるように鷲掴みにした。


「あんたはなに下らないことしてんだい」

「ひんぎゃー! 待って待って待って。ラーナ、待って! 頭割れる、中身出ちゃうから!」

「なら、さっさと仕舞いな」


 ラーナは手を離し、大勢の前でこんこんと説教をするが、うずくまり痛みにうめくジャンダルの耳には入っていない。



 結局、ラーナとアシュカーンとは共に潜るようになった。ラーナたちは新たに仲間を募るよりも、気心も知れ現在最も深い階層に挑むファルハルドたちと組むことを希望し、ファルハルドたちもラーナたちを歓迎したからだ。


 実際、悪竜と戦う時、経験豊富な戦士と試練の神に仕える神官は心強い戦力となった。カルスタン一人では受けきれない尻尾の薙ぎ払いをラーナと二人でね上げ、素早くう悪竜をアシュカーンが法術で縛り上げる。


 今日の勝利もそうだが、二人がいなければこれまでの命からがら逃げ出すこともできなかっただろう。これからさらに連携を深め、より息を合わせて戦うようになれれば、より一層攻略は順調となるだろう。




 一行は生還者の間での光の奉納を済ませ、各組合に向かった。


 これまでは、巨人から採れた素材などは大半は直接店へ持ち込んでいたが、今回採ってきた悪竜の素材は各組合へと卸す。


 オーリン親方やキヴィク親方も扱ってみたいと言っていた。

 ただ、悪竜由来の素材に関しては、どこにも扱うための充分な知識の蓄積がない状態だ。そのため、しばらくの間は悪竜の素材は各組合と魔術院に持ち込み、そちらで素材の研究を進めることになっている。


 武器組合に爪牙を、防具組合に鱗と皮を、魔導具組合に瓶詰めにした血を納品すれば、実に丁寧に、その中でも魔導具組合で対応したシェルヴィーンは特に丁寧に礼を述べた。

 どの組合でも礼を述べたあとで、次の納品を心よりお待ちしておりますと付け加えることを忘れない。


 魔術院では直接フーシュマンド教導に素材を渡した。魔術院での納品に於いては金銭を渡されることはなく、完全に無償での善意の贈り物扱いとなっている。

 それだけ魔術院との繋がりは貴重でもあり、日頃なにかと相談に乗ってもらっているお礼でもあるから、ということだ。


 ちなみに、アリマは納品分以外に自分が研究する用の素材はしっかりと確保している。




「強い魔力を含んでおりますね」


 フーシュマンドは悪竜の鱗を手に取り、じっくりと吟味している。


 初めて目にする素材に実に楽しそうだ。これはどの部位から採れた素材ものかとそれぞれを手に取り一つ一つ尋ねてくるが、答えるファルハルドたちの返答は耳に入っていない。完全に目の前の素材に夢中になっている。


 フーシュマンドは完全に満足するまで素材を確認し、やっとファルハルドたちのことを思い出したのか、長椅子を勧め飲み物を用意した。


「これほどに魔力を身に帯びた存在であるならば、相当な脅威でありましょう。どのような存在であったのか、ぜひお聞かせいただきたい」


 弟子であるアリマから相談の形で聞かされているだろうに、フーシュマンドは悪竜たちの情報を求めた。


 待ってましたとばかりにジャンダルがご機嫌に話し始める。

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