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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第三章:巡る因果に決着を

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09. 亡者の女王 /その④



 ─ 4 ──────


 ファルハルドとカルスタンは攻める。しくじり一つ許されぬ緊張感の中、攻める。カルスタンが見出みいだした攻撃先を見切り、回避先を予想する方法を、より精度高く連続して確実に行うことで。


 亡者の女王は攻撃を潰されても強引に押し込む戦い方に変えていた。

 そこからさらに変え、最初からファルハルドたちの武器を狙い、武器と武器を撃ち合わせその強力ごうりきで打ち負かすことを狙い始めた。


 カルスタンは受け流す。ファルハルドはかわす。二人は、まるで追いつけず翻弄されていた亡者の女王の動きに対処でき始めている。


 カルスタンは武器の撃ち合わせで飛ばされた鉄球がぐるりと回る方向を加減し、亡者の女王の膝を打つ。膝は潰れた。再生するより早く、ファルハルドは亡者の女王の首を打ち落さんとする。


 しかし、亡者の女王は動作が遅れながらも、ファルハルドの剣を剣で受け止めた。追撃を狙うカルスタンの鉄球を素手で弾き返し、ファルハルドの剣を押し返す。


 ファルハルドは後ろに跳び、押し返す勢いを逃そうとした。


 だが。亡者の女王は小さく「曲がれ(トロウ)」と呟いた。すると、剛直である筈の亡者の女王の長剣が押し返す勢いと共にしなやかにしなり、切っ先でファルハルドの頬を斬りつけた。


 ファルハルドの身体から力が抜ける。自らの身体を支えることができず、ファルハルドはよたよたと蹌踉よろめきながら下がり、壁に身体をぶつけ尻餅をついた。


 なぜか、亡者の女王はじっと動かない。


 カルスタンはその胸に鉄球を叩き込んだ。激しい音を立て、亡者の女王の胸は凹む。


 ただし、こたえた様子はない。亡者の女王はすぐに、平然と反撃してきた。左手で鉄球に繋がる鎖を掴み、小型の巨人に匹敵する力で引いた。


 引き寄せられまいと無意識に踏ん張り、一瞬動きの止まったカルスタンに亡者の女王は蹴りをくらわした。


 無理な体勢からの体重の載っていない蹴りで、巨漢のカルスタンが吹き飛ばされた。壁に叩きつけられ、口から血を流し床に投げ出される。



 とどめを刺させはしない。ジャンダルが、ペールが、アリマが魔法攻撃を行った。


 威力よりも速度を重視。今までの攻防から法術や強い魔法攻撃を吸収するためには剣をかざし、なにかしらの文言を唱えることが必要と判断。そのための間を与えさえしなければ、魔法攻撃を無力化される怖れはないと考えて。


 だが、しかし。充分な威力のない魔法攻撃では亡者の女王の魔法抵抗性を破れない。幾分かの傷を負いながらも亡者の女王はジャンダルたちの攻撃を耐えた。


 ジャンダルたちは途切れることなく連続しての魔法攻撃を行うが、その攻撃もしのがれる。

 亡者の女王は魔法攻撃をくらいながら、さまたげられることなく何事かを呟いた。続く魔法攻撃は吸収され、亡者の女王は全ての負傷を回復させる。


 勝利の足掛かりとなると考えた法術も効果は弱く、強力な魔法攻撃も、工夫をらした攻め手も全てが行き詰まる。


 それでも、ジャンダルたちの行動は無駄ではなかった。その稼いだ時間は闘志を失わぬ者が立ち上がるための時間となる。


 亡者の女王の見詰める先で、ファルハルドは壁を支えに立ち上がった。疲労が濃く、身体の重さは隠せない。しかし、その瞳には折れることのない強き意志が宿っている。


「ふふっ、そうこなくてはの」


 亡者の女王は口の端を吊り上げた。


 ファルハルドは深く息を吸い、止める。強く息を吐き出し、壁を蹴る。

 速くはある。が、直線的な動き。亡者の女王は余裕で剣を合わせる。


 駄目だ、斬られる。ジャンダルたちがそう思った瞬間、ファルハルドはその身をかがませた。亡者の女王の剣は空振り。ファルハルドは床すれすれに屈ませた身を伸び上がらせる。


 狙うは胴体中心、心臓位置。切っ先が届く寸前、亡者の女王の振り戻した剣がファルハルドの剣の軌道をずらす。


 中心からはれた。それでも、ファルハルドの剣は亡者の女王の右胸を深々と斬り裂いた。

 追撃。素早く剣を引き、亡者の女王の首を落とさんと剣を振る。


 亡者の女王は胸を斬り裂かれていながら、遅滞なく剣を操りファルハルドの剣を弾かんとする。


 ファルハルドが剣を振る距離はわずか。だが、魔力を吸い取られた身では動きが鈍る。ファルハルドの剣より早く、亡者の女王の剣が到達する。もし、何事もなければ、だ。


 ペールがファルハルドの攻めに合わせ、守りの光壁を顕現した。それは壁と呼ぶには幅狭く、言うなれば『守りの光板』。

 ペールはファルハルドと亡者の女王の動きを見極め、その『光板』をファルハルドの剣に向け振るわれる亡者の女王の剣を妨害する絶妙の位置に顕現させた。


 亡者の女王の剣は止められる。ファルハルドの剣は亡者の女王の首がある位置へと届く。


 しかし、手応えはなかった。亡者の女王はその人を超える高い身体能力で対応した。刹那の判断でのけり、ファルハルドの剣を躱して見せたのだ。


 ファルハルドは止まらない、迷わない。残った全ての力を載せ、剣を振る。

 亡者の女王もまた瞬時に体勢を立て直し、ファルハルドへ向け剣を振る。


 速さ比べでファルハルドは亡者の女王にかなわない。ペールが再度の妨害をするための法術への集中は間に合わない。だから、別の者が妨げた。


 それはジャンダル。ジャンダルが投げナイフを放った。さすがの亡者の女王もこの攻防の最中にジャンダルの投げナイフを避けることはできない。投げナイフは亡者の女王の肩へと刺さる。


 結果、わずかに遅れた亡者の女王の剣とファルハルドの剣は真正面からぶつかり合う。


 響き渡る衝撃音。これが唯一、最後の機会。ファルハルドは全ての力を振り絞る。



 無情。ファルハルドの剣はその衝撃に耐えられなかった。


 撃ち合わされた箇所でファルハルドの小剣は折れた。亡者の女王の剣は振るわれる。もはや誰にも止められない。剣を止めるすべはない。


 しかし。その刃はファルハルドの首に達する寸前で止まった。


 誰もなにが起こったのか理解できない。この状況で剣を止められた存在、それはただ一つ。剣を振っていた本人、亡者の女王のみ。


 そのことに思い至ったファルハルドたちは、声を上げることもできず亡者の女王の一挙手一投足を注視する。


 亡者の女王は剣を引き、穏やかな声でファルハルドたちに告げた。


「さて、挑戦者たち。一つ話をするとするかえ」

 次話、「英雄の望み」に続く。



 来週は更新お休みします。次回更新は8月24日予定です。

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