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深奥の遺跡へ  - 迷宮幻夢譚 -  作者: 墨屋瑣吉
第三章:巡る因果に決着を

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04. 八層目の謎 /その②



 ─ 3 ──────


 そこはなにもない通路の行き止まり。ただの壁、に見える場所。


 ジャンダルは壁に手を当て、慎重に探る。指をわせ、引っ掻き、叩き、音を聞く。半刻ほど調べ、なにかを見つけ押し込んだ。壁の端に凹みができる。

 もう一箇所、同様に凹みを作り、できた凹みに指を差し入れ横に引っ張りながらぐっと押した。


 重くこすれる音を立てながら、壁は扉のように開き、奥へと進む通路が姿を見せた。




 ペールが見つけた二百年前の挑戦者の聞き書きには、八層目の隠された通路へ進むとの記述があった。


 それはどこなのか、そしてどこへと続いているのかについてはなにも書かれていなかった。それでもファルハルドたちは話し合い、この記述こそが八層目の謎を解く手懸かりだと考えた。


 それからはその隠された通路を探し求める日々。一月掛け探したが見つからない。次の一月は八層目の地図を作りながら調べた。


 そして、ラーナたちが作った地図とも突き合わせ、気付いた。中心部分にどこからも入ることのできない空間があることに。


 どこから、どうすれば入れるのか。『隠された通路』。その言葉を手懸かりに懸命に考える。どこに隠されているのか。どう隠されているのか。なぜ隠されているのか。なにが隠されているのか。そして、何者が隠したのか。


 まず、中心部分に沿う壁を調べた。しかし、入口は見つからない。少しずつ範囲を広げ、徹底的に、虱潰しに探していく。その途中で新月の夜が訪れ、通路の組み替えが起こる。


 調査は振り出しに戻ったとも言え、大きく進んだとも言える。


 通路の組み替えが起こったために調査途中の通路のつながりや壁の位置が変わった。『隠された通路』が隠されたままであるのなら、どれほど通路の組み替えが起ころうともそこは隠されていなければならない。


 つまり、通路の組み替えにより通ることができるようになった場所に『隠された通路』はない。それに気付きさえすれば、あとは順調だった。

 怪物と戦いながらの調査のため、さらにもう一度の通路の組み替えを経験することになったが、中心空間につながる通路が存在するならここしか考えられないという場所を絞り込む。


 そして、今に至る。




 壁が開き現れた通路を前にし、ジャンダルは皆を見回した。現れた通路にはなにやら妖しい気配が漂っている。


 なにがあるのか。それはわからない。それでも確かな予感がある。困難な、八層目を越えて九層目に挑まんとするファルハルドたちをして困難であるなにかが待ち構えているのだと。


 当然、それで躊躇ためらう者たちではない。警戒はしながらも、現れた通路に足を踏み入れ進んでいく。ファルハルドを先頭に、少し後ろをカルスタン、ジャンダルとアリマは横に並び、ペールが最後尾。



 塞がっていた通路だが、やはり敵はいる。最も手強い亡者の一つ、百骸の騎兵。一体で群れを生み出す敵。その身は無数の白骨が集まったもの。

 大きさや形はカルドバン村の戦いで最初に現れた合わせ身の亡者と似ている。人の背丈並みの四足獣の背中から、人の姿に似た上半身が生えている。


 敵は左右の手に突撃槍を構え、突進してくる。その身も武器も、全ては白骨で構成されている。


 敵が勢いに乗るより先に、アリマが突撃してくる百骸の騎兵の脚を狙い巨大な風の刃を放った。風の刃は脚を断つ。


 しかし、百骸の騎兵は即座に身体の組み替えを行い脚を再構成、切り離された脚も集まり形が変わり二体の骨の戦士となる。


 できた骨の戦士は一体が槍を持ち、一体が棍棒を持つ。風の刃で切り一度は勢いを殺したが、敵は止まりはしない。二体の骨の戦士と、新たな身体を構成しわずかに小さくなった百骸の騎兵は攻め寄せる。


 槍持つ骨の戦士をファルハルドが、棍棒持つ骨の戦士をカルスタンが相手取る。

 そして、百骸の騎兵へはまずペールが不可視の拳を、次にアリマが風の刃を放つ。


「我は闇を討ち滅ぼす者なり。荒々しき戦神ナスラ・エル・アータルにこいねがう。不可視の拳で我が目前の、悪しきものを撃ち給え」


 戦神に仕える神官が得意とする単純で力強い見えない打撃は百骸の騎兵を撃ち抜いた。その身の中央に大きな風穴が空く。しかし、百骸の騎兵はただちに身体を組み替え修復しようとする。


 そこに襲いかかる風の刃。


「|我が一なる意志に従いて《ウェリン・ドゥリン・ミロゥダル》、舞い乱れる無形の刃よダル・ヌィ・ダ・トゥリ・吹き荒れよマキ・フェ・ツ・シ・ディ・ガル


 放たれる無数の風の刃。一つ一つの刃は最初の風の刃よりも小さく弱くとも、数多く生み出された風の刃が百骸の騎兵を切り刻む。


 切り刻まれた百骸の騎兵はそのまま倒れはしない。刻まれた部分それぞれが、骨の戦士となって襲いかかってくる。数は多く、一体ごとにその性能や手にする武器は異なっている。


 多数で多様な骨の戦士との戦い。百骸の騎兵の身を攻撃することは、この困難な状況を作り出すことを意味する。


 それでも攻撃しなければ倒せない。避ける余地の限られた狭い通路で、飛び抜けた突進力と直線的な攻撃に特化した巨大な身体を持つ敵と戦うのは難しい。


 そのため群れ相手との戦いになるとわかっていても、百骸の騎兵の身を砕き、生み出される多数の骨の戦士と戦うことを選ばざるを得ない。



 しかもこの骨の戦士たちは、ただの骨の戦士ではない。上位の亡者である百骸の騎兵を形作っていた特別な骨の戦士、『硬骨の戦士』。魔力を帯びた攻撃でなければ通用しない。さらに時間を置けば再び寄り集まり百骸の騎兵となるのだ。


 結果、百骸の騎兵相手の戦いとは、魔法などを使った攻撃で、硬骨の戦士の群れを速戦で倒すか、長時間の消耗戦で倒すかの選択をいられる。



 ファルハルドたちの選択は。全力をもって次々に倒していく。


 ファルハルドは魔法剣術を使用。剣に魔力をまとわせ、硬骨の戦士たちを斬っていく。アリマは風の刃で切り裂き、火の矢で燃やしていく。ジャンダルは魔力の塊を打ち出し、打ち砕く。


 この三人も敵を倒していくが、今回の戦いに於いて中心となっているのはカルスタンとペールの二人だ。


「ふんっ」


 カルスタンは豪快に戦鎚せんついを振るい、硬骨の戦士たちをまとめて薙ぎ払った。カルスタンに倒された硬骨の戦士たちが再生してくることはない。戦鎚は魔力をまとっているために。


 カルスタンはこの五年間に魔法剣術を身に付けた、のではない。魔法武器を手に入れたのだ。


 素材を集め、資金を用意し、何度も魔法武器の作製を依頼するも、ずっと失敗続き。やっと成功し、手に入れることができたのが一年前。以来、カルスタンの戦いぶりは力強さを増した。今も硬骨の戦士たちを次々に砕いていく。


 ペールの振るう鉄球鎖棍棒が硬骨の戦士を打ち砕く。その鉄球鎖棍棒は魔力を帯びている。魔法武器ではない。魔法剣術でもない。ペールが新たに授かった法術の効果だ。


 新たに授かった法術、名は『光明の祝福』。効果は魔法剣術とほぼ同じ。魔力をまとわせ武器の性能を上げ、魔力攻撃しか通用しない敵に攻撃が通じるようになる。

 違いは『光明の祝福』では人を傷付けることはできず、代わりに闇の存在相手には魔法剣術よりも効果が高い。


 一点、使用上の注意がある。法術は神に真摯しんしに祈ることで発現できる。祈りに入り込むことが必要なため、異なる二種の法術を同時には発現できない。


 よって、『光明の祝福』を発現中には、『守りの光壁』などを顕現することができない。そのため、ペールには前よりも一層、的確な判断や立ち回りが求められる。


 カルスタンが最後の一体を砕き、硬骨の戦士たちを倒しきった。




 一行は休息所に戻ることなく、その場でしばしの休みを取る。いつ闇の怪物が現れるかわからない通路途中での休息は危険を伴うが、ファルハルドたちは気持ちを途切れさせないことを優先した。


 警戒を行いつつ体力の回復を図り、問題なく戦えるまで回復すれば再び通路を進んでいく。進むごとに妖しい気配は強まってくる。


 そして、通路の最奥にある扉に辿り着く。

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